虹猫椿

まったり恋愛・日常・友情などをテーマにした、オリジナル小説や詩も掲載しています。お気軽にどうぞ♪

そして魔女は旅に出る 2 

Making Twilight

 少年は魔女の弟子になった。
 最初の頃はおどおどビクビクとしていた。
 いつ捨てられるのか気にしているらしく魔女の顔色ばかりうかがっていたが、繰り返し「魔女に二言はないよ!」と威勢よく言い放たれ、その言葉が染み込むほどに弟子の顔をするようになった。

 魔女が品行方正でお行儀良い子を求めていないと気付くと安心したのだろう。
 表情が目に見えてよくなった。
 と、同時に生来のやんちゃが顔を出し、好奇心そのままに駆け回りだした。
 大人しかったのは最初のうちだけだったとも言える。

 普通の子供を育てるのも簡単ではないと聞くから、普通から少々離れた子供を育てるならどうなるか、魔女だってある程度の覚悟はしていた。
 覚悟していたものの想像していた「困ったこと」の生ぬるさは現実とのギャップがありすぎて、つくづく身に染みた。
 子供のやることは限度を知らないから、魔女の想定の百歩ぐらい先を行くのだ。

 こうしておくれと指示すれば「はい」と晴れやかな返事をするくせに、ほどほどという奴をちっとも理解していない。
 草抜きを命じれば、植えた苗までひっこ抜く。
 畑を増やすから家の前をちょっとだけ耕せといえば、目の前の草原が消えるほど掘り起こす。
 薬草を煮詰める鍋を焦げないように混ぜろを言えば、高速でかき混ぜて中身を撒き散らし、ほとんど空にする。

 教える場なら目が届くからその程度で済むし、なにかをやらかしてもやり直しがきくからまだいい。
 ちょっと遊んでくる~と出かけては、ポケットいっぱいにみょうちきりんな卵を詰め込んでくる。
 ベッドの中に持ち込んだ蛹が孵り、家の中に魔虫がウゴウゴとあふれ出たこともある。
 「ただいまー」と帰って来ても、両手が荷物でふさがっていたという理由で扉に体当たりし、人型の穴があいた。
 魔女の眉間に、日に日に深いしわが増えていった。
 そのぐらいなら「このクソガキー!」とプリプリ怒りながらもしつけの範囲で教える事ができたが、とんでもないことも平気でやらかした。

 魔女の子育て事情の困った選手権でトップに立つのはアレだ。
 ちゃんと面倒を見るからと言って拾ってきたペットが幼生のドラゴンだった。
 なんでも、手紙を魔女の元に運んできたワイバーンが飛び立つのを見て、本気の自分とどっちが早いか競争がてら追いかけてみたらしい。
 草原を過ぎ、森を過ぎ、そろそろ帰らなければ魔女に怒られるかもーと思った時には、深い穴に落っこちていたらしい。
 そこが卵の羽化間近のドラゴンの巣だったのが運のつき。
 弟子が体当たりをした卵が衝撃で割れ、幼生ドラゴンがパカーンと誕生してしまったのだ。
 まったくもってふざけるな、である。

 生来の頑丈ぶりを見せつけて弟子に怪我ひとつないのは幸いだったが、あわや親ドラゴンとの正面対決になるところだった。
 親ドラゴンを倒すのは魔女にとっては簡単だったが、弟子の不始末を無条件で尻ぬぐいするわけにはいかない。
 かといって卵から孵って赤ちゃんドラゴンが初めて見たのが少年だったので間違ったすりこみ生まれ、親ドラゴンの元に返すこともできない。
 それどころか、正式な手順を踏んでもいないはずなのに、弟子と幼生ドラゴンは契約関係になっていた。

 恐るべき潜在能力。
 才能がどこに向いているか不明な現状で、ドラゴンの中でも高位に位置する雷竜と契約するとは。
 ホイホイと気安く契約を結ぶなと叱れば、ドラゴンはこいつだけにするという阿呆である。
 説教を受けている場にいて、ドラゴン以外なら大丈夫だと判断する神経がわからない。
 他もダメに決まっている。
 同じぐらいの生命力を持つモノを友達と呼んで、際限なくはべらしたら獣魔軍団と変わらない危なさだ。
 契約がどういうものかコンコンと説明しながら、今を逃すと二度と修正聞かないしつけの分かれ道に立っていることに、魔女は震えた。

 とはいえ、やってしまった事は仕方ない。
 責任の取り方を教えるのも、師匠の役目だ。
 途方もない忍耐と努力を駆使し母ドラゴンと交渉して、弟子と幼竜との共生を認めてもらった。
 このドラゴン事件を思い出すと、私は世捨て人なのだと布団の中に引きこもって現世から消えたいと思うぐらい、実に実に実に大変な交渉だった。
 そう、倒すだけなら一瞬ですむのに、猜疑心と復讐心の強い竜族相手に、平和的解決を求めて認めさせたのだ。

 魔女のそんな苦労もわかってないので、少年は幼竜を膝に乗せて母ドラゴンと魔女を見比べながらニコニコしていたけれど、あんな大変な思いは二度とごめんである。
 親竜にお引き取り願った後で、さすが偉大な魔女様! とか、俺の師匠は最高だ! とか、嬉しそうにクルクル踊っている姿を見れたので悪い気はしなかったけれど、それと不祥事は別だ。
 問題行動に対して、あとできっちりとお仕置きはした。
 したけれど、ドラゴンの育て方を夜なべして調べたり、餌を探したり、責任を弟子に持たせたうえでつつがない育成に導くと言う難題が待っており、慣れない弟子育てにプラスしてドラゴンの子育てまでする羽目になったので、悩みすぎて頭が禿げそうだった。

 やんちゃな弟子を追いかけて走り回る日々。
 自宅のある悠々自適な生活のはずが、愛用の衣服は動きやすい旅装束だった。
 老後の楽しみにとイソイソ集めていたレースのリボンや色鮮やかなワンピースは、ひっそりとタンスの奥にしまわれたままだ。
 髪を結いあげる暇がないので、さっくり編んで後ろに流し手邪魔にならないようにした。
 簡単な体術なら教える事ができるので、冒険していた日々のように弟子と組み合った。
 本格的な武術となるとお手上げだから、時々は元勇者を呼びつけて戦い方を身につけさせた。
 弟子のくせに魔術の才能はゼロだったが、魔法について知ってさえいれば役立つことがあるので、惜しむことなく知識として与えた。
 その程度の事は当事者の少年にとって「とんでもないこと」ではなかったのかもしれないが、悩む時間の長さが魔女の額に深いしわを増やしていったが、その口元には苦笑ともつかない微笑みがあった。
 心ざわめく落ち着かない日々にいるはずなのに、独りでは味わえない奇妙な安らぎが胸にあふれていた。

 子育ては自分育て。
 かつての仲間だった聖女が口癖のように繰り返していた言葉を、ある日、フッと思い出した。
 弟子を育てているつもりだったが、確かに学んだことも多かったと思う。
 旅に流れていた遠い日々よりも、色濃く鮮やかな日常を手にしていた。

 そしてある日、魔女は気がついた。
 無我夢中で今日まで来たが、自分から少年に伝えられる事が、もう何もないのだ。
 弟子と暮らし始めて、十年の月日が流れていた。
 あっという間の十年だった。

 良い弟子だ。
 実に実に良い弟子だ。
 同じ言葉を百回繰り返しても足りないぐらい、良い弟子なのは、良い弟子であろうと彼自身が努力しているからだ。
 青年になってからも非常に口が悪いのは、魔女に似たからかもしれないが、欠点といえばそれぐらいだ。

 元気が良すぎる事はあったが、コツコツと積み重ねるように、よく学び、よく動き、よく働いている。
 とっくに魔女の背を越しているし、見目麗しいほどの筋骨たくましい青年に育っているのに、魔女の前では意識的に弟子の顔を作っていた。
 それは生い立ちから来る表情かもしれない。
 弟子が少年だった頃、不安にかられるたびに「ここにいていいの?」と問いかけてきたから、繰り返し「おまえは弟子さ、魔女に二言はないよ!」と宣言してきた。
 手を離すには早すぎたからだ。

 けれど、その問いかけを最後に聞いたのは、いつだっただろう?
 その言葉を忘れるほど、記憶に遠くなっている。
 今の弟子がこの家でこのまま暮らし続けて、なにか得るものがあるのだろうか?
 この家での生活に満足できるならそれで幸せなのだろうけれど、小さな幸せをかみしめて生きるには弟子は大きな力を持ちすぎている。

 何より、生来の好奇心が強いのだ。
 かつて、未来への希望を胸に抱いて、村を出た魔女と同じだ。
 すっかり大人になった成ドラゴンに乗って散歩に出かける事も増え、ふとした瞬間に遠くを見ている弟子の瞳にも、魔女は気付いていた。

 独り立ちする時が来たのだと思う。
 家や家庭に憧れを持っているからといって、魔女の家で弟子を続けることに執着する必要はないのだ。
 魔女はまた、覚悟をひとつ決めた。

 その日。
 ていねいに手間暇かけて、季節の野菜を大漁に調理した。
 我ながら笑いだしたくなるぐらい多彩な料理を食卓に並べた。
 用事を終えて返ってきた弟子が、目を丸くして「誰がこんなに食うんだよ?」と腹を抱えて笑うぐらい豪華な食事を用意した。

 すべて、弟子の好物だった。 
 血となり、肉となり、骨となる、魔女から贈る最後の晩餐。

「なんの祝いなの、師匠? なにかいいことがあった?」
 パクパクと美味しそうに料理を食べながら問いかけてくる弟子に、魔女はさみしく笑った。
 全くわかっていないところも、弟子の可愛いところだった。
「あったよ、とてもいいことさ」
 一つ、大きく息を吸って、ハッキリと告げる。
「もう、私が教えてやれることは何もないよ。一人前になるまで、よくがんばったね」

「……師匠?」
 どういう意味だと問いかけてくるから、あとは自分で学べってことさと目を見て言った。
 弟子からジワジワと表情が抜け落ちていく。
 なにやらいろいろと考えている様子に、祝いなのにしけたツラしてんじゃないよと魔女は笑った。

「俺、まだまだ半人前だろ?」
「さてね、それを自分で確かめてこいっつってんだよ」

 自信がないのは当たり前だ。
 未知の世界に足を踏み出す時は、いつだって不安が先に立つ。
 だけど、自分の足で歩き、自分の目で見て、自分で考えながら生きていく。
 それだけの力をすでに持っているのは間違いないから、自信を持って送り出せるのだと魔女は胸を張った。

「世界は広いよ。あたしが生きてるうちに土産話を持ち帰れなんて言わないから、せいぜい気張んな」
 弟子は「いきなり追い出すなんて、ひでぇじゃねぇか」とブツブツぼやいていたけれど、結局のところ旅立つことを受け入れた。
 迷うよりも、まだ見ぬ世界への興味が勝ったのだ。

「ジーク、おまえの未来に祝福を」

 送り出す朝、初めて魔女は弟子の名を呼んだ。
 魔力を持つ者が名を口にのせると呪文に似た意味合いを帯びるので、日常生活では呼ぶことを避けていたのだ。
 しゃんと背を伸ばし、いつもと同じ厳しいまなざしを、弟子の背中に向けていた。
 心配だとは言わなかった。
 気をつけて行けとも言わなかった。

 どんな難事が立ちふさがったとしても、越えていけるだけの技も知識も伝えたのだ。
 彼の未来の旅の行方は、彼の持つ運の巡り次第だろう。

 別れの挨拶に、ドラゴンの背に乗る弟子は不敵に笑った。
 食卓でいきなり別れを告げられた時にはさすがにへこんでいた様子を見せていたが、いつかこんな日が来るのはわかっていた顔だ。
 一緒に暮らし始めて間もないころに、いつかひとりで旅立ち世界を巡る日が来ると、賢明な魔女から予告していたからだ。

 それが今だとは思ってもみなかったけれど、永遠の別れではないのだ。
 だからサヨナラは言わない。
 いってきますとも言わない。
 師匠と弟子でいる日々に終わりをつげても、偉大な魔女に向ける想いは変わらない。
 せいいっぱいの愛情と尊敬を込めて、ジークは快活に告げる。

「俺がいなくなっても泣くんじゃねーぞ、くそババァ!」
 懐かしい悪態に、魔女はほんの少し表情をゆがめた。
 くそババァと呼ばれ続けたのは、出会って間もないころだ。
 本当にどうしようもない弟子だと思う。

「ハ! 泣くのはそっちだろ? とっとと行きな、このクソガキ!」
 威勢よく言い返すと、けらけらとジークは笑った。
 魔法の才能こそなかったが、明るくて、快活で、魔女にとっては最高の弟子だった。

 名残を惜しむような沈黙が、ほんの少しだけ落ちる。
 しかし、言葉を探す前に、バサリとドラゴンが翼を広げた。
 真っ青な空にむかって、白銀の鱗をきらめかせながら飛び立った。
 輝く希望とともに弟子をのせたドラゴンが、空の彼方へと遠ざかる。
 遠く、遠く、まだ見ぬ世界に向かって、力強く羽ばたいていく。

 見送る魔女は、静かに祈る。
 愛しい弟子の未来に、神の恩恵と祝福が満ちますように。

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そして魔女は旅に出る 1 

Making Twilight

 小さな国の小さな村。
 ありふれたその場所で少女は生まれた。
 大切に育ててもらったし周りの者は気にしていなかったけれど、自分が周囲となにか違っていると少女は気がついていた。
 違和感の正体がもって生まれた魔力だと気がつくのも早かった。目立つことに抵抗はないけれど、思うがままに魔力を振るう訳にはいかないと、なんとなくだが知っていた。
 それに、ありふれた日常に魔力なんて役立つ機会が少ない。
 強い力は使い方を謝ると凶器になる。
 とても愛されて育ったけれど、受ける愛情はそのままやわらかな枷になった。
 大切な人たちを傷つけないよう、なんとなくの我慢が重なるうちに、少女は見知らぬ外の世界に憧れをもつようになった。

 ある日、少女は一人で旅に出た。
 見るもの聞くもの、すべてが珍しい。
 少女の歩む道の先はいつも希望に満ちていた。
 冒険を仕事と呼ぶのは物騒かもしれないけれど、未知の世界に踏む込んでいく瞬間の胸の高鳴りが好きだった。

 旅は道連れ、世は情け。
 そんな言葉を知ったのは、冒険を始めて間もないころ。
 一人の旅も楽しいけれど、他人と仕事をするのも悪くない。
 むしろ仲間を得れば、ただの旅から大きな冒険へと変わっていく。
 たくさんの冒険を経て、気の合う連中がいつしか少女の仲間になった。
 道連れは増えたり減ったりしたけれど、友であり相棒であり仲間である存在ができるのは心強かった。
 問題があるとすれば、仲間になった連中が普通ではなかったことぐらいだろう。

 カラカラ笑う大男はずば抜けて強い剣士で、気がつくと勇者と呼ばれていた。
 光の加護と神の恩恵を受ける物静かな治療師は、行く先々で聖女とあがめられた。
 あふれるほどの大地の加護と魔力を持っていた少女も、大人になるころには偉大な魔女と呼ばれていた。
 ただの旅の仲間が勇者御一行の扱いなのだから、まったくもってクソ喰らえである。
 しかし、あまたの魔物をほふっているのは事実だし、他人からの勝手な評価は変えることはできないので苦笑するしかなかった。
 勇者さまとその仲間たちなんて大層なものになるつもりはなかったのに、大きな依頼をこなせばこなすほど名声を得てしまい、立ち寄る先でまるで神や聖者そのもののような歓待を受けるので、どんどんと心の座りは悪くなる。

 それでも旅は楽しかった。
 旅の途中で息絶えるのも悪くないと思っていた。
 不相応な扱いには辟易したものの、流れ続ける身には立ち寄った先の時間など、ほんのいっときのことだ。旅立血さえすれば「旅する魔女」に戻れる。

 だから、長い長い旅を終えたのは、老境に差し掛かってからだった。
 輝かしい勇者御一行も、やたら威風堂々とした老人御一行にしか見えなくなっていた。
 腕や力は衰えていないけれど、立ち寄る先で気づかいと心配を受けるようになってる。
 馴染んだ装具や武器を直せる職人も減っていた。
 ドラゴン退治に出かけアイスブレスを受けた際に、少々関節に痛みを感じたので肉体の変化に気付いた。
 きっちりドラゴンの息の根は止めたものの、そろそろ若者に役割を託す時期が来たと自らの老化を認め、仲間たちと別れることにした。

 笑って手をふり一人に戻った魔女は、小高い丘の上に小さな家を建てた。
 赤い屋根に白い壁。丸みをおびたフォルムの扉や小窓も、少女の夢がそのまま形を得たような愛らしい家だった。
 人里から遠く離れたその丘の周りにあるのは、そよそよと風が過ぎる穏やかな草原と、こんもりと茂る豊かな森だけだった。

 自分だけの静かな空間に、魔女は微笑みを浮かべた。
 これからは家を持つものしかできないことをして、のんびりと暮らすのだ。
 手の込んだ料理をするのもいい。
 揺り椅子で編み物をするのもいい。
 旅を知らない人々と同じ「普通の日常」を繰り返し、日溜まりで伸びをするような穏やかさは、冒険に明け暮れてきた魔女には新鮮だった。

 家の周りを耕して小さな畑を作ると、季節の野菜を育てた。
 森で集めた木苺を煮詰めて作ったジャムの甘さに感動した。
 苗から育て咲かせた薔薇を銀色の髪にさして、年甲斐もないと照れて笑ってみた。
 今まで着ていた旅装束とはまるで違う、すその長いワンピースを普段着にしてクルリと回った。
 冒険でのあふれる蓄えには手をつけず、薬草を集めて薬を作り街で売ったお金で家財道具を少しづつ増やしていった。

 ささやかなことを喜ぶ普通の暮らし。
 三年も経てば慣れてきて、退屈なあくびも増えてきたけれど、魔女は穏やかな心持ちで幸せをかみしめていた。

 ある日のことである。
 元勇者から、大きな箱が届けられた。
 遠い東の果ての国からやってきたワイバーンに乗る配達人が「お届け物です」と庭に置き、そのまま次の配達に飛び去った。
 あっという間に小さくなったワイバーンを見送って、やたら重たい箱に首をかしげる。
 じゃぁねと別れてから、一度も会っていないのだ。
 なんだいこりゃ? と思いながら箱を開けた魔女は、一瞬息をとめた。

 入っていたのは子供だった。
 図太い性格らしく、箱の底でグーグー寝ている。

 そんなことよりも。
 開けたとたんにゴンゴンと燃え盛る炎のように激しいオーラがあふれ出てきたので、その暑苦しすぎる存在感にのけぞり、思わずふたを締め直してしまった。
 魔力を持つ者だけに見えるオーラは、生物そのものの潜在能力に等しい。

 コレは、人が持つ力を遥かに超えている。
 配達便の箱も、よく見れば神殿の紋章入りの特別製だ。

 嫌な予感しかしない。
 しかし送り返そうにも、ワイバーンの配達人の姿はすでに消えている。
 気を取り直して元勇者からの封書を開いた。
 短く「俺には手に負えねぇから頼むわ」と書いてあった。

 は? である。
 人間の身体に、いにしえの幻獣に等しい力。
 幼子であることを踏まえると、理性も知性もこれから得るしかない未熟者で、ハッキリ言って制御のできない危険物だ。
 元勇者に手に負えないような危険物を、何故まわす?
 あの筋肉バカだが豪傑の勇者に無理なら、魔術しか取り柄のない魔女の手に負えるわけがない。
 手紙を握り締めたまま、わなわなと手を震わせる魔女の前で、パカーンと威勢良く箱のふたが開いた。

「お、ババァが偉大な魔女? ヨボヨボじゃねーか!」
 ひょっこり顔を出した少年は一つあくびをすると、のんきな声で挨拶とは言えない挨拶をし、ここどこー? なんて好奇心丸出しで周りを見回している。

 ピシリ、と魔女のこめかみに青筋が浮いた。
 ババァでヨボヨボだと……?
 確かに老女ではあるが、見知らぬ子供にいきなり暴言を吐かれて許せるほど、寛大ではない。
 おもむろに右手をあげ魔法の杖を取り出すと、遠慮なく少年に向かって振りおろした。

 パッコーン!
 良い音があたりに響いたけれど、魔女は目を丸くした。
 その辺の魔犬なら頭蓋ごと粉砕できる一撃を放ったのに、少年は「いて―じゃねーか!」といって怒るだけ。
 こいつは人族かもしれないが、存在そのものがヤバイ。
 思考に落ちた魔女に対して、少年は「ふざけんなよ」とかキャンキャンわめいていたけれど、それどころではなかった。
 オーラの具合からどついても大丈夫なぐらい頑丈だとは予想はしていたけれど、たんこぶぐらいはできると思ったのに。
 本気で殴り倒しても平気だろう。
 というか、本気で殴ったぐらいでは、倒せる気がしない。

 ハッキリ言おう。
 人の手だけで押さえこむのはムリだと魔女の勘が告げていた。
 勇者の体術か、魔術でつくりだしたゴーレム級の力技ならなんとか……?

 そこまで考えて、魔女は「ハ! 冗談じゃないよ」と肩をすくめた。
 魔法も魔術も万能ではないし、しつけや育成は魔力でどうにかできる問題でもない。
 老い先短い老後の楽しみに、子育てを付け加える気はさらさらなかった。
 元勇者が送りつけてきた理由はわかったけれど、そこまで苦労して少年を育てる理由も義理もないのだ。

「帰りな。あたしゃ子供が嫌いなんだ」
 冷たく言い放たれた途端、少年はそれまでの勢いをなくした。
 落ち着かない様子で押し黙り、自信のない表情で視線を忙しくさまよわせ、パクパクと口を動かしながらしばらく言葉をなにか探していたけれど、しょんぼりと箱の底に座り込んだ。
 シクシクと泣いたりしなかったけれど、ポツンと「俺だって、こんな箱が家なんて嫌だ」とつぶやき急速に空気がしぼむ。
「しかたねーだろ、どこに行きゃいいか、わかんねーんだもん。この中にはいってりゃ、きっと幸せになれるからってみんな言うけど、蓋をあけるたびに違う場所で違う人がいて、どうすりゃいいかもわかんねー」

 あんたもどうせ俺をどっかに放り投げるんだろ? と冷めた言葉を聞いて、なんとなく少年の生い立ちを魔女は理解した。
 育てるのにもてあました子供はたらいまわしにされるものだし、元聖女を頼っても神の恩恵を持たないものを手元に置く訳にはいかないだろうし、ガサツな元勇者に子供を育てるなんて気の利いたマネができるはずもない。
 そもそも、帰る場所のある子供が箱詰めされて、魔女の元に送りつけられる訳がないのだ。

 心の深いところが動いたのは、その瞬間だった。
 なにが決め手だったのか、魔女自身にもわからない。
 魔女はガリガリと頭をかき、面倒くさいったらありゃしないと思いながらも、覚悟を決めた。

 しょせん、行き場のないクソガキだ。
 子育てなんてしたこともないし、弟子なんて取ったこともない。
 手を離すにしても、次に送りつけるあてもない。
 いらないと見えない場所に捨てるのは簡単だけれど、それはそれで寝覚めが悪い。
 どうしても手に余ったら元勇者に叩き返せばいいけれど、初めての育成が規格外の危険物ってどういうことだ?
 さらば、ささやかで愛しさを積み重ねる穏やかな日々よ。

 キリリと表情を引き締め「お立ち!」と少年に言い放つ。
 のろのろと顔をあげたものの、すっかり意気消沈して涙にうるんだ瞳を少年が向けてくるので、魔女は「しけたツラだねぇ……」と好戦的に笑った。
 驚きに目を見開く少年の小さな肩を軽く杖で叩くと、涼やかな声で高らかに宣言する。

「あたしを師匠と呼ぶ勇気があるなら、独り立ちできるまで仕込んでやるさ。せいぜい励んどくれ」

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とりあえず 

未分類

返金願いのメールが相手に届いたのでよかった。
まぁ、やりとりはこれからだけど。
なんつーか。疲れたなぁー

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少しずつ 

未分類

何かしなくてはと思うようになった。
まぁ、いろいろやってはいるんだけど。
実際に身体を動かしてやることは、結果もすぐ見えて良い。

ネットはダメだな~なんか、私とは相性が悪い。
ココは作品置き場にしようと思っていたけど、結局ポツポツ愚痴をこぼしてる。
でも、面倒くさがっていたら、不愉快が膨らむばかりだし。
とりあえずデータの中からアドレスを発掘したので、契約不履行になってるイラストの返金を求めてみよう。
支払いが昔すぎて、今でもこのアドレス使ってるかどうかわからないけど……入金したのに納品ないままであきらめるってのはやっぱりなぁ。まぁ、催促するのも気が重いけど、そこはがんばるしかないね。

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ぐだぐだする 

未分類

あっという間に二月がきてしまった。
なにもする気が起こらない(というのは語弊があるな)うちに月が変わっている。
日常の事はいろいろして、ある程度は回しているのだけど、気持ちが滅入ってしかたない。

年が明けてからこっち、15歳の子と19歳の子が相次いで亡くなった。
理由はない。
朝起きてこないなーと思って起こしに行ったらすでに息がなかったとか、お風呂から上がって休憩に寝ていてご飯の時間だから声をかけたらすでに亡くなっていたとか、本当に突然死。
自分よりも若い子が理由も何もなく亡くなるって本当につらい。
やっぱりね、亡くなられた日からお葬式までも日が空いていて、それだけで親御さんも突然すぎて死因がわからないから検死を受けられたんだなーと。
受けたからといっても、直接の死因はわからなくて心不全とか多臓器不全とかそういう感じで、発作が起きたのかな…なんて話を聞いて。
可愛く笑っている顔とか、ツンツンとんがったものいいとか、子供の頃のぷくぷくした感じとか、そういうのしか記憶にないので、ただ「もう二度と会えない」というそれだけを受け入れるのすら難しい。

悲しみ方がわからなくて、とにかく告別式に行こう、と用意をしているときにその子を知ってる知人からかかってきた電話に気持ちが殴られた感じで、そこからなかなか抜け出せない。
同じ歳の子供さんがいて、一緒に行こうって誘いかと一瞬思ったのが、悪い意味で裏切られて。
それほど(親御さんと)仲も良くないし、告別式にはいかない。発作で死ぬことはないから自死じゃないの? とかそういう妄想をえんえんしゃべられて、どう思う?って。

そんなの、知らんがな。
親御さんが発作って言ってんだからそれでいいじゃん。
まぁ、その人の子供さんが転換などの発作餅だって言ってたので、自分の子供が発作でなくなると言う可能性を消したいから言い出したことなのだろうけど、自分の不安を消すために他人を自殺したことにするってどうなの…
何で死んだの? なんて勝手な理由探しして、ご家族の方の話と自分の見解の違いを語られても、おまえは医者でもなんでもないし勝手な第三者やん。

生まれてくるのだって、死ぬのだって、理由なんてない。
交通事故のようにわかりやすい理由があることのほうがレアなんだから、突然死や自然死(加齢や病気)は「突然すぎて受け入れるのが難しいけど悲しい」で良いんじゃないの?
まぁ、他人の思考にどうこう言うのもおかしいんだけど、知ってる子が亡くなってて告別式の準備をしてる時に、いろいろ投げられてもそれどころじゃないんだよ。
言った側はすっきりしてるみたいだけど、聞かされた私はものすごくモヤモヤしている。
純粋に思い出話をしたり、いい子だったのにねーって振り返ったり、それだけでいいのに。
ただただ悲しい。
一人だけでも悲しいのに、二人続くと、受け入れるのも時間がかかってしまう。

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なかなか 

未分類

一度、気持ちが完全に途切れてしまうと、再始動かけようとしても思うように動けない。
興味とか関心とか、あるのはあるのだけれど、優先順位を低くしてしまってるのかなぁ。
小さなことで良いから、報われる事が続けばいいのにな~と思う。
自分にできる事をしても、報われたって実感できないと、やる気も枯渇してしまう。
というか、報われたとか積み重ねできてるってわかりやすく満足できるほうに流れちゃうよね。
去年は本当に不快なつながりが続いて、削れるばかりだった。
自分の利益しか考えずに、したり顔でああしろこうしろって、うんざりする。
なんだろうなぁ…関わりたくない物が増えるって詰まらない。
あーあ。

今年はそのぶん補充できると良いな。
楽しい事を楽しいと気軽に言えるような関わりが増えれば生きやすいだろうなぁ。

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きがつくと 

未分類

あっという間に一月も半ば。
いろいろと心が削れる事が多かったので、どこかで補給しなければなのだけれど、その補給場所がないので困ったものです。
削れる事はもういらないので、危険回避センサーだけ残して、あったことの記憶リセットできるボタンがあると良いのにな。

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きもちわる・・・ 

未分類

ここ一年ほど、小説サイトではとっくに削除した作品に拍手が入ってる事が何度もあって、薄気味悪い。
機能は生きていても、拍手機能と連動している作品は消滅してるのに…しかたないので、昨日の大元を削除してみた。
もらったコメントとかも消えるから嫌だったんだけど、薄気味悪い状態よりはましだから……ほんま、どうやったらそんな異常なことができるんだろう? 気持ち悪い…

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全部冬のせいにする 

未分類

気圧がさがると、実際に身体にかかる圧力が減って、血管や関節の中が膨張するんですって。
頭痛くなったり、不調になったり、気が滅入ったり、そういうのは全部冬の低気圧のせいにしとけばいいのです。
あったかくして楽しいことをしよう。

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夜の花 

Making Twilight

 その日。小菊は突然の夕立に往生していた。
 父親の晩酌用の酒を買いに来たので、急ぎ家に戻りたかったがすぐにはやみそうにない。
 走ろうか雨宿りをしようか軒先で立ちすくんでいると、横から傘をさしかけられた。
 驚き振り仰ぐと、知った顔があった。
 名は佐吉。忙しいのか長屋には寝に帰るだけのようで、同じ棟に住んでいる小菊も顔を覚えるまでに二つほど季節を過ぎていた。
「入りやすか? 確か、同じ長屋でしょう」
 反射的に「いいえ」と断ってしまう。
 挨拶はした事がある。生業は知らないが、どこぞの商家に呼ばれて雇われた職人だろうとは、カンザシ職人の父の見立てだった。
 悪い男ではない。けれど、素生のしれない男と肩を並べることは難しかった。
 会釈を残し、そのまま走って逃げようとしたら、雨に足を取られて鼻緒が切れてしまった。あっと思ったときには身体がかしいだ。
 徳利を抱いたまま目をきつく閉じたけれど、小菊が地面に倒れこむことはなかった。
 ふわりと鉄臭い不思議な香りに包まれ、ゆるゆると目を開けると支える腕があった。
 佐吉だった。傘をさしたままで、倒れそうな小菊を抱きとめていた。痩躯に見えていたので、小菊を軽々と抱きとめた力に驚いた。
「持っていておくんなせぇ」
 佐吉は茫然としている小菊に傘を渡し、しゃがみ込むと切れた鼻緒を簡単に直した。
「それじゃぁ、あっしはこれで」
 小菊に傘を持たせたまま去ろうとするので、今度はあわてて佐吉を呼び止める。
「あの! 同じ長屋ですから、やっぱり……」
 最後までうまく言えず足元に視線を落とす小菊に、佐吉は黙ってうなずくと傘を持った。
 戸惑いに震えたのはどちらが先か定かではないが軽く触れた佐吉の手は固く分厚かった。
 肩を並べている間、小菊の口から言葉は何も出てこなかった。
 佐吉もしゃべらなかった。だから佐吉が何を思っていたのか小菊にはわからない。
 ふたりきりの道行きを雨の音が包み込む。
 別れる時も会釈をしただけで、佐吉は簡単に背を向けた。小菊に傘のほとんどをさしかけていたから、着物を絞れば水が滴るほどに重く濡れている後ろ姿が遠ざかっていく。
「生きた小割物に出会っちまった」と雨に溶けそうな声で聞こえた気がするけれど、今でも小菊にはその意味はわからない。
 一年が過ぎても、佐吉はどこか不思議な男のままだった。忙しいのか夏も冬も出ずっぱりで、凍えるような乾いた日は長屋に帰ってこない。そのくせ雨の日や梅雨時期は、日中でもその姿を見せる事があった。
 誰にでも挨拶はするが気さくとは言い難く、どちらかといえば会話は苦手な口で、礼に小鉢に入れたに物を持っていくと「ありがてぇ」の一言ぐらいはくれるがその先はなく、眼差しに潜んだ熱だけが炎のように揺れる。
 もどかしさが慕わしさに変わり、想いが募っていく。思うように会えないのが辛くなる。
 ある夏の日の事である。
 小菊は納涼の花火大会に佐吉から誘われた。
 寝る間も惜しむように仕事に出ていた様子なのにといぶかしく思っていたが、惚れた男からの心弾む誘いには違いなかった。
 ふたり宵闇に歩きだす。人ごみの中、はぐれちゃならねぇからと差し出された手に、そっと手を添えたらしっかりと握られる。
 ただそれだけで、小菊の心臓は踊りだした。
 河川敷で花火を待つ間、佐吉が言った。
「今日の尺玉はあっしが作りやした」
 いつも火薬臭いでしょうと苦笑する。
 花火職人と明かし、花火について語りだした佐吉は饒舌だった。
 割物が大きく丸く開く花火。
 小割物は小さな玉を放出して、多数の小花を一斉に咲かせる花火。
 花火がどれほど素晴らしいか流れるように語っても、佐吉の話には終わりが見えない。
「夜を照らす星や花を作ると言えば聞こえはいいが、あっしの仕事は危ねぇもんです」
 神経をとがらせていても、火薬をあつかっている限り、いつ何が起こるかわからない。
 それでも花火師をやめられないと苦笑する。
「とんだ花火狂いと笑われますがね……小菊さんを初めて見た時……小割物だと思いやした。触れちゃならねぇ綺麗な花だ」
 つないだままの手に、強く力が込められた。
 意を決したのか、ひたと見つめてくる真剣な眼差しに、小菊は息が止まった。
「でも小菊さんは一瞬の夢じゃねぇ」
 周りの人たちの歓声も、打ち上げられ始めた花火の音も、小菊には聞こえなくなる。
「一生、あっしの側で咲いておくんなせぇ」
 ドンとひときわ大きな音がした。佐吉の眼差しで、彼が作った最高の尺玉だと知る。
 夜空に咲いた大輪の花の下。
 小割物よりも鮮やかな微笑みを浮かべ、小菊はゆっくりとうなずいた。

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