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短編集 恋の卵

星の彼方から 前篇「祖母の恋」

 ←ラムネ →星の彼方から 後編「サヨナラ、またね」
「あなたのおじい様はね、星の彼方からやって来たのよ」
 そう言って頬を染めながら笑う祖母は、まるで少女のように愛らしい。
 確かに幼稚園児の時は少し信じていたけれど。
 だけど、宇宙船に乗って星間運送業のパイロットをしているなんて語られる祖父は、テレビ番組の中だけに存在する困ったときのお助けロボットぐらい作り話だと思う。
 テレビだって車だって飛行機だって現代にはあるけれど、星の彼方を渡る宇宙船なんて存在しないことはわかっている。

 祖父がどんな人間だったか、本当のところはわからないらしい。
 気付いた時には祖母が大きなお腹になっていて、ひと騒動あったそうだ。
 問い詰めても今と同じ調子で答えるから、誰にも真相がわからなかった。
 確かに、最愛の旦那様は星雲の果てを飛んでいると言われても、脳みそにお花畑が広がっているとしか思えないだろう。
 語られる旦那様像は髪の毛一つ分のブレもないけれど、宇宙船はありえない。
 異国の船が往来する大きな港町が隣にあるので、祖母はそこの喫茶店で働いていたから、外国の船員と恋をしたのだろうと曽祖父母は思っていたようだ。
 祖母と同じような身の上の女性は他にもいたから、珍しい話でもなかった。
 かと言って、すんなり認められる訳もない。

 親族会議まで開いたらしいけれど、祖母は産んだ子は自分で育てるとケロッと言い放ち、未婚の母の未来を憂う肉親たちの阿鼻叫喚の絵図が生まれたらしい。
 せめて養子に出してくれと懇願しても、祖母は頑として譲らなかった。
 そのころだけは家の中に笑い声がなかったと、少しだけ切なそうに祖母は語る。
 だけど最終的に、生まれてくる子供に罪はないからと。
 納得できる話ではなかったはずなのに、祖母から生まれてくる子供なら自分たちの孫だと、曽祖父母は認めてくれた。
 苦悩はしただろうけれど朗らかな祖母と暖かい母の関係を見れば、我が肉親ながらその判断は間違っていなかったと思う。
 もしも、祖母が母を手放していたなら、私はこの世に生まれなかったかもしれない。

「一発で大当たりしちゃうなんて、運命の人だって神様が認めてくれたみたいでしょ」
 祖母は昔話をするときは必ず、困っちゃったわ、なんて全然困っていない幸せそうな顔で、クスクスと笑っている。
 いい歳なのに、いつまでも少女みたいな人だ。
 生まれた子供……私の母は栗色の髪に藍色の瞳をしているから、明らかに日本人離れした子供を持つシングルマザーが、苦労しなかったはずはないのに。

 祖母はいつも幸せそうだった。
 今度会ったときは家族にちゃんと挨拶してもらうからねって、宝物みたいに祖父を語る。
 祖母の明るく朗らかな笑顔が勝って、みんな笑いながら何年も何年も過ごしてきた。
 生まれた赤ちゃんが私の母になって、母から生まれた私が高校生になった今も、祖母の想い出話の鮮やかさは変わらない。

 いつか会えるかもしれないけれど、見知らぬ世界を船で渡る人が祖父だった。
 海を渡る異国の船も、星雲を渡る船も、見知らぬ世界へと渡る船には違いないのだから。
 祖母が語る祖父がすべてで、正体不明の不思議な存在でも、それでよかった。

 もともとどこにいるかわからない人なんだから、外国にいても宇宙にいても大差ない。
 おじいちゃんの話をするだけで、おばあちゃんはこんなに幸せそうなんだもの。
 見たことのない祖父が宇宙人だったとしても、別にいいじゃない。
 それが家族みんなの気持ち。

 祖母の想いは、いまだに祖父のものだ。
 ファンタジーなのか、SFなのかわからない、少し不思議な恋の話。
 宝物のように語られる祖父との出会いも、星雲の彼方にはなればなれになって数年もの時を経て再会するその恋模様も、祖母のときめきと恋心の鮮やかさがそのまま伝わってきて、私はいつもワクワクしながら耳を傾けた。

 夏の暑い夜に麦茶を飲みながら語らう時よりも、冬の身を震わせるような澄んだ空気の中で夜空を見上げる日のほうが、祖母は幸せそうだった。
「はじめて会ったときは五歳の時で、夏祭りの夜だったのよ。だけど最後に見送った冬の流星があんまり綺麗だったから」
 またねって約束はあっても別れる日は悲しいし、やっぱり少しつまらないわね、そう言って祖母はクスクス笑う。
 その笑顔があんまり愛らしいものだから、私は苦笑するしかない。
 年齢なんて関係なく、祖母はいまだに恋する乙女だ。

 宇宙人だって前置きがなければ、祖母と祖父の出会いは普通だった。
 赤い鳥居のある神社の夏祭りで、迷子になった祖母をなぐさめたのが祖父だ。
 途方に暮れていたときに声をかけてくれたのが、ライダースーツを着た二十歳代のお兄さんだったらしい。
 あんまり祖母が泣くものだから最初はあやしていたものの途方に暮れてしまい、祭りの輪から連れ出したそうだ。
 二人きりで近くの河川敷に降りて、蛍の群れを見せてくれた。
「どうだ、星空が降りてきたみたいだろう!」
 なんて自分の手柄のように胸を張るから、幼子だった祖母は泣くのを忘れた。
 確かに蛍は綺麗だったけれど、随分と子供っぽいお兄さんだと思ったら涙が引っ込んだらしい。
 祖父の名前は教えてもらった通りに、アレクセイだと覚えた。
 その後のことは記憶があいまいだと苦笑している。
 気がつくと自宅の布団の中にいて、新しい朝の光の中で夢か現実か迷った。

 二度目にあったのは中学生になった秋の神社。
 絵を描くのが好きだったから写生に向かって、階段を上りきったとき。
 出会った時とほとんど変わらない姿の祖父が境内に立っていて、思わず名前を呼んでしまったそうだ。
「アレクセイ!」
 ぎょっとしたように振り向いた祖父、まぁそのころは若者だったから祖父と呼ぶのは気が引けるけれど、いたずらが見つかったような子供の表情で肩をすくめたらしい。
 それで彼が自分のことを覚えているのだと祖母は知ったという。
 夢じゃなかったのだと、ただただ驚いていたけれど、懐かしそうに細められた眼差しに出会って、思わず笑みを返していた。

「ああ……大きくなったな。記憶なんて、消したつもりだったのに」
 記憶を消す? オウム返しで問いかける前に、祖父……アレクセイは空を指差した。
「俺は星の彼方から来たんだ」

 あ、この人って頭がおかしい。と祖母は思ったらしい。
 その疑わしく曇った表情に、アレクセイは「嘘じゃねーよ!」と力説した。
 はるか遠くにある星雲と星雲を結ぶ貨物船のパイロットで、地球での取引はないけれど必要物資の補給に降りたのだと言う。
 天体に疎かった祖母は、星の名前ひとつとっても良くわからないので、妙なことでムキになるのねぇ~ぐらいにしか感じなかったそうだ。
 でも、自分のような子供の白い目にも負けず、疑問に思うだろうことを適当に流さずにもてうる限りの知識を披露して、とにかく理解してもらおうとする姿は好ましかった。

「わかったか、お嬢ちゃん」
 長々と難しい言葉の単語を放出しつくして、どうだ参ったかとばかりに胸を張るので、祖母は思わず吹き出した。
 全然わからない。
 ものすごく熱を入れて語られたけれど、詳細を語れば語るほど祖母の理解から離れていったのがおかしくてたまらなかった。
 アレクセイの話はちっともわからないけれど、それでいいと思ってしまったから、今の私がいるのよ。なんて祖母は今でも笑う。

「私、お嬢ちゃんじゃないわ」
 子供扱いされるのが少し悔しくて、そんなふうに反論してみた。
 ちょっとびっくりしたように眼を見開いて、マジマジと祖母を見つめる。
 そっか、そうだよな……とつぶやいて、ニカッとアレクセイはかっこよく笑った……らしい。
「お前、名前は?」
「千夜子」

 不思議なところはあるものの、ストンと心の中に入り込んでくるような笑顔と眼差しに、祖母は惹きつけられた……らしい。
 思春期の憧れをともなった、くすぐったいような甘い胸のうずきがわき上がる。
「ほんと、世間知らずで若かったからねぇ」
 宇宙人とのお付き合いがどんなものか、想像もつかなかったから。
 素直な気持ちのままに、微笑み返してしまった。
 ともあれ、ここから祖母の長い恋は始まったのだ。

 数年おきに祖父は千夜子の前に現れた。
 神社であったり、買い物先のスーパーであったり。
 当たり前の朝に通勤している途中で、よぅ! と手をあげることもあった。
 そう、いつも予告なしで、突然登場する。
 アレクセイが姿を見せるの数日間は地球にとどまるときで、いつ物資の補給や仕事をしているのかわからないぐらい千夜子のすぐ近くにいる。
 堂々と仕事をさぼるようなデートもしたけれど、じゃぁな! と別れの言葉を聞いたそのすぐ後には、周囲の記憶ごとアレクセイも消え失せる。
 デートそのものがなかったことのようになっていて、さぼったはずなのに欠勤の事実そのものが消えていた。
 一緒に歩いているところを見られた友達も、アレクセイのことなんて知らないと言う。
 もしかして、アレクセイそのものが千夜子の作り出した幻影なのでは? なんて思ってしまうぐらい、綺麗さっぱりすべてなかったことにされてしまうのだ。
 記憶消去だと聞いてもそれまでは信じていなかったけれど、目の前に現実があると何も言えなくなる。
 宇宙を旅する俺の記憶はこの星に不必要なものだからなと、寂しそうな横顔にかける言葉が浮かばなかったそうだ。

 星と星の間を飛び回るアレクセイは、地球とは違う時間を生きていた。
 彼にとっての数カ月は、地球では数年経っていることもある。
 それは地球に限ったことではなくて、別の星に生きている人の時間と宇宙航行している時間もずれるそうだ。
 アレクセイの生まれ育った母星では、弟が孫を膝にのせていると笑いながら、照れくさそうに頭をかいていた。
 それは微笑ましいようでも、アレクセイを直接知るものがいなくなるのも時間の問題ということで。
 還る場所がなくなるのも時間の問題だとさみしそうだったから、祖母は私を還る場所にすればいいでしょと思わず言ってしまったらしい。

「よせよ、本気にするだろうが」
「あら? 私はいつだって本気よ。いつ会えるかわからないあなたを、この歳になっても待ってるようなおバカさんですもの」
 もうとっくに、出会った時の五歳の女の子ではなかった。
 そしていつまでも独身でいて良い歳の女でもない。
 祖父は出会った頃とほとんど姿は変わらなくても、祖母はすでに結婚を求められる歳だった。
 見合いの話もひっきりなしに舞い込んできていたが、きっぱりと断ってきたのは心の中にアレクセイが占めていたから。

「言っただろ? 俺の仕事じゃ、千夜子が生きてる時間と違いすぎる」
「なら、私を星の彼方へ連れて行けばいいじゃない」

 中途半端に顔を合わせるだけで、いつか来る別れを待っているよりも、一緒に生きられるか試してみればいい。
 上手くいっても、うまくいかなくても、きっと飛び込んだぶんだけ後悔しない。
 そこだけはわずかな迷いもなく言い切れたから、アレクセイはあっさり陥落の苦笑を浮かべた。
 わざわざ地球に立ち寄るのは、千夜子に会うためだったから。

「簡単に言ってくれるねぇ……知らないってのは強い」
 信じられないぐらいお前は馬鹿だと何度も繰り返し、でもそこが良いんだよなぁとぼやく。
 手続きの厄介さは重々承知しているけれど、なんて前置きしながら、祖母を抱き寄せた。
「降参してやるから、とうぶん顔を出せなくても待っててくれよ」

 二人が結ばれた夜は、透き通るような冬の夜だった。
 別れの日もすぐにきて、指輪の代わりにペンダントをもらったそうだ。
 すぐにつれていけなかったのは、千夜子が異星人だから、という理由だけではないらしい。
 宇宙を闊歩する水準には到達していない星との交流は、非常にデリケートでやっかいな問題を含んでいる。
 でも、前例がない訳じゃない。
 少し手続きに時間がかかるだけで、不可能でもない。
 大丈夫だ、と言い放つアレクセイに、これは相当待つことになるわと祖母は思ったらしい。

 もともと大ざっぱでソコツなところがある人だから細かい手続きなんて苦手分野だもの、うっかり続きで失敗して何度もやり直しているはずよ~なんて朗らかに笑うから、孫の私も笑うしかなかった。
 なんて理解のある奥さんなのかしら! としか言えない。
 まぁ、結婚式はしていないし、結婚生活も送ってないけれど。
祖母は確かに祖父の一番の理解者のようだ。

 私自身はまるで関係ない時間なのに、昔話を聞くときは祖母のときめきが入るので、祖父というよりも恋物語の主人公について語っているような気がしてくる。

 祖母だけが知っているアレクセイ。
 祖母だけしか知らない彼のこと。
 心は結ばれていても、遠く離れて過ごす二人。
 一緒に過ごせない時間は埋めることができるけれど、ずれていく命の時間を埋めることはできるのだろうか?
 ふわふわと甘い砂糖菓子みたいに語られる祖父の話はとても好きだけど、やっぱりどこか切なかった。
 恋とか愛とか、そんなの私にはわからないけど、祖母は確かに祖父を愛している。

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