Making Twilight

眠れない狼

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 健やかな寝息が寝台を占拠する。
 男はソファーに身体を丸めて無理やり目を閉じたが、すぐにそわそわと寝がえりを打つ。
 横になり、座り、やっぱり横になり、落ち着かない。
 見ないようにしようとすればするほど、視線が彼女に吸いつけられる。

 のびやかな肢体。クルリとやわらかにウェーブがかかった長い髪。
 白い肌。ほんのりと紅をさしたようなやわらかな頬。
 愛らしい顔立ちをしているが、寄る辺ない身の上だった。
 森の奥に迷い込んできた少女。
 保護した時には薄汚れたボロ雑巾のように見る影もなかったが、無防備な今の寝顔は妖精のように綺麗だった。
 年のころは15歳ぐらいだろうか?
 幼い子供でもないし、かといって婦人と呼べるほど大人でもない。
 健やかに育ってきた透き通る瞳をしていたけれど、住んでいた村が戦場になったのであてもなく逃げてきたと言っていた。
 一人きりでさまよい、たまたま男にひろわれた。

 森の奥に一人で住む男は、はぐれ狼と呼ばれている。
 人としての名前も持っていたけれど、そんなものはとっくに忘れていた。
 狼と呼ばれるだけで話が通じる。
 獣を狩り、魔物を封じ、月に一度は人里に姿を現すが、誰とも馴染まない。
 幼いころに戦争で故郷を失った。
 少年時代に戦場にも立った。
 血なまぐさい生き方をしてきたから、人との過ごし方なんて知らない。

 だから、少女も里に送り届けるつもりだった。
 しかし、少女本人に拒絶された。
 人のいる場所は嫌だと。
 逃げてさまよう間に、両親は騙された。
 親切そうな言葉。優しい物腰や態度のその奥にあるものなんて、目には見えない。
 二人の命を奪ったのは戦争ではなく、人間の謀。
 自分は隙を見て逃げ出したけれど、兄弟は売られた。
 人が人を売る現実。肉親にも、もう二度と会えない。
 人間なんて、もう二度と信じない。
 そんな強い憤りをのせた言葉を吐いた。

 俺も人だと言っても、あなたは狼でしょと返された。
 簡単に信用するなよと言っても、人里に行くぐらいならと物騒な行動を取ろうとする。
 せっかく助けたのに、目の前で死なれては寝覚めが悪い。
 問答を繰り返したが、今まで人と関わることを徹底的に避けていた狼が、口の達者な少女に口論で勝てるわけもなく、勝手にしやがれ、と降参するしかなかった。

 少女はとても素直で純粋だった。
 クルクルと手際よく家事もこなした。
 朝がくれば早くに起き出して、無骨な狼におはようと言うのだ。
 輝く朝日の中で、その光よりもきらめく笑顔を向けて。
 純粋な信頼を宿す瞳を見るたびに、狼の心が騒ぐのを少女は知らない。

 少女のために何でもしてやりたい。
 守ってやりたい思いがわくと同時に、不埒な欲もわいた。
 やわらかな微笑みが似合う少女からは、甘く優しい女の匂いもするのだ。

 もう少し子供ならよかった。
 それとももう少し大人だったなら、これほど悩ましくはなかっただろうか。

 この腕に抱きしめることは叶わない。
 人里に捨て去ることもできはしない。
 触れたいと、触れたりしないの間を、心が揺れ動く。

 惹きつけられる想いを持てあましたまま。
 狼は今夜も眠れない。

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