「英雄のしつけかた」
第一章 王都で暮らしましょう

第20話 らしくない話 2

 ←ホワイト・ノエル  (テーマ:再会) →第21話 ガラルドという男 1
「まぁ、それにしてもニコニコニコニコとよく笑う二人だ」
「なにしろ動物と縁起物に似ているしな」
「まったくだ、緊張感がそがれちまう」
「へっ俺らしくねぇな」
 ラクシが笑いながら、机の上にドカッと足を上げ、即座にデュランに払い落された。
「よせ、飯を減らされるぞ」

 食堂の机には食事の品以外は置いてはいけないことになっていた。
 書類なども入口の台の上に置くように言われているので、足を上げているのが見つかれば、確実に一品はおかずを減らされる。

 ウオッとラクシが顔をひきつらせて、居住まいを正した。
 扉の方を振り返り、ミレーヌがいないことを確かめる。
「恐ろしい事を言うなよ。飯は減っても夜市に行きゃいいが、お嬢さんに見つかったらと想像したら、肝が冷えたじゃないか」

 それがあまりに本気だったので、どっと笑い声が上がる。
「それにしてはにやけてるじゃないか」
 口々にからかわれ、ラクシもニッと笑う。
「みんなそうだろ?」
「まぁな」とか「いいじゃないか、スイッチの切り替えになって」と、そろってうなずいた。
 色気はないが、側にいるだけで気分がいい。

「二人ともいい女だからな」
 ゲラゲラ笑っていたが、誰も否定しなかった。
「確かにいい女だなぁ」
「相手にされていないがね」

 ミレーヌに「同じ住まいでも非常時以外ではあなた方の部屋に近づかない」と剣の誓いを立てたら、コロコロと笑い飛ばされてしまった。
「まぁ、なんて大仰な! 流派を担う方が夜這いなんてつまらないマネはしませんわ」

 鈍いのか、自分たちが範疇外なのか。
 その情景を思い出し、野獣の中の羊のようなこの現状にも無関心だったぞと腕を組んだ。
 そんなことよりもと、食事の好き嫌いを夢中で問いかけてきた。
 あの様子では口説いても無駄だ。
 せっかく気立てのいい若い娘が近くにいるのに、最初から討ち死にするのがわかっていると手を出しにくい。

「鈍いがいい女だろ?」
「二人とも美人じゃないし、一人は歳だがね」
 ミレーヌがいつ食堂に帰ってくるかわからないので、声を落としてコソコソ話す。

「おしいな、せっかくいい女なのに色気がない」
「金を積んでもあれは無駄な女だろうしな」
「そんなのが良ければ花街にでも行けよ」
 金でどうにでもなる色気のある女は間にあってるさと、キサルがつまらなそうに茶をすすった。

 恋愛するよりも、女を買うのはお手軽である。

「東だろうが西だろうが花街はなぁ」
「どうする?」
「どうとは?」
「ミレーヌさんだよ。仕事で行っても、軽蔑されるんだろうなぁ。情報を買うだけと説明しても、信じてもらえんぞ」
 鋭いデュランの突っ込みに、ウッとその場にいた全員が言葉に詰まった。

 武人との距離の取り方は身についていても、内情をミレーヌは知らない。
 仕事がら日常的に花街に出入りする事になる。
 花街には隠れた商売があって、色だけではなく情報を扱う場所なのだ。
 虚偽か真実か理解しがたいほど雑多な噂や、流している相手の思惑の見え隠れする情報が飛び交っている。

 それをわかって出入りしている傭兵や上流階級などの感覚とは違い、下街娘のミレーヌには理解しがたいだろう。
 どうしたものかと眉根を寄せ、普通の青年の顔に戻ってしまった。

 どんなに言葉をつくしても、買っているのは情報だけではない。
 まともに筋の通った情報を買うには、信用のおける馴染みの女を作るのはあたりまえで、やることはやっている。
 弁解すればするほどドツボにはまりそうだ。
 あけすけに話してもいいのだが、クリクリした愛嬌のある顔を想像すると言葉に詰まった。
「花街だなんて不潔ですわ!」
 なんて正直な言葉で軽蔑されると、かなり精神的にこたえてしまう。

 嫌われたくないな、と口をそろえた。
 単なる想像なのに、気持ちがなえてしまう。

 しばらく無言になった。
「なぁ、そろそろ大将が帰ってくるぞ」
 ポツン、とサガンが呟いた。

 ガラルドは二五歳。
 サガンと同じ歳で、二〇歳のデュランやラクシよりも年上だが、日常の思考は一〇歳の子供よりも自分本位だった。

 そう、英雄らしい威風堂々とした姿でいるのは現場だけなのだ。
「見に行くか?」
「行くべきだな」
「二階の書庫、覗くにはちょうどいいぞ」
「あの小窓か?」
「なるほどな、玄関に行くのはまずいだろうし」
「おもしろそうだ」
 ゾロゾロと二階へと移動を開始した。

 ガラルドには困ったクセがあった。
 それを見逃すようなミレーヌではないだろう。
 ミレーヌは二〇歳と若い娘でも苦労してきた節があり、既に女主人のような貫録があるから、初対戦になるかもしれない。

 もしも諍いが起こるようなら、ガラルドではなくミレーヌの味方をしよう。
 皆が同じことを心に決めていた。


にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村


人気ブログランキングへ

関連記事
スポンサーサイト
総もくじ 3kaku_s_L.png 交換詩・贈答物語 七色の海
総もくじ 3kaku_s_L.png 英雄のしつけかた
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編集 ちょっぴり異世界
総もくじ 3kaku_s_L.png ミルキィ☆ロール
総もくじ 3kaku_s_L.png 喫茶ペロリストシリーズ
もくじ  3kaku_s_L.png 短編集 恋の卵
もくじ  3kaku_s_L.png Making Twilight
もくじ  3kaku_s_L.png 詩集 kurayami
総もくじ  3kaku_s_L.png 交換詩・贈答物語 七色の海
もくじ  3kaku_s_L.png 潮騒の詩
総もくじ  3kaku_s_L.png 英雄のしつけかた
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編集 ちょっぴり異世界
総もくじ  3kaku_s_L.png ミルキィ☆ロール
総もくじ  3kaku_s_L.png 喫茶ペロリストシリーズ
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【ホワイト・ノエル  (テーマ:再会)】へ
  • 【第21話 ガラルドという男 1】へ

~ Comment ~

NoTitle 

こんばんは!
更新お疲れ様です♪
お久しぶりです、時間が取れずなかなか読みに来れませんでした。ようやく読めるー><
ガラルドとの初対面、見ものですね!!
兄貴たちがミレーヌに嫌われたくない、とシュンとする姿いいですね(^m^ )クスッ
あとデュランが一番、良識がありそうな気がする(笑)
続き楽しみです!

Re: NoTitle 

> こんばんは!
> 更新お疲れ様です♪
> お久しぶりです、時間が取れずなかなか読みに来れませんでした。ようやく読めるー><
> ガラルドとの初対面、見ものですね!!
> 兄貴たちがミレーヌに嫌われたくない、とシュンとする姿いいですね(^m^ )クスッ
> あとデュランが一番、良識がありそうな気がする(笑)
> 続き楽しみです!

こんばんは!
忙しい中、ありがとうございます(*^_^*)
やばいものをどこかでもらったのかと、勝手に思ってました←オイ
ほんとに、お互い気をつけましょうね!

デュランは一番、法とか弁舌に長けている設定にしたのですが、ガラルドさんが出たとたんに全員どんぐりに堕ちて個性が消されてしまいます(^^;

奇人変人を書くことに挑戦しているので、楽しんでもらえるといいなw
管理者のみ表示。 | 現在非公開コメン卜投稿不可です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【ホワイト・ノエル  (テーマ:再会)】へ
  • 【第21話 ガラルドという男 1】へ