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短編集 ちょっぴり異世界

誇り高い私の狼

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「俺は誇り高い狼だからな」
 身をなぶるような風に、ジンの口癖を思い出す。
 出会ったときから彼は、なにかあると自分のことを狼と呼んだ。
 癖のある銀髪を風になびかせ、この空と同じ澄んだ眼差しで前を見据えながら、胸を張っていた。

 衆人の前で罪人として引き回され、街の広場にあつらえられた刑場に立った瞬間。
 くっきりと思いだしたのがその台詞だったから、サラは思わず笑いたくなった。
 走馬灯のように過去を思い出すならまだしも、まさかジンの口癖を思い出すなんて。

 凍えるような冬の空は澄み切っているのに、風がどこからか粉雪を運んでくる。
 薄い罪人用の長衣は風を含んでハタハタとはためき、歩くことで傷だらけになった裸足に冷たさが染み込んでくる。
 ヒタヒタと軽い音をたてながら、一歩一歩前に足を運んだ。
 鋼鉄の鎖が両手首に喰い込んでジャラリと重い音をたてたが、サラは思う。
 もしもこれがジンならば、自分の運命からも目をそらしはしないだろう。
 笑いながら、悔しがりながら、憤りながら、心荒れたときも、その瞳は濁ることがなかった人を想い浮かべる。
 今、自分に向けられるのは冷ややかな眼差しや、好奇に満ちて冷めた眼差しばかりだと知っていたけれど。
 サラは微笑んだ。
 背を伸ばし、真っ直ぐに前を見据えて。
 もう二度と会えない人の姿を想い浮かべながら、私もまた誇り高き狼のように最期までふるまうのだ。



 サラの父は名のある冒険者だったらしい。
 サラと母に見せる父の顔は、普通の猟師のおじさんなので、すごい人だと聞かされてもピンとこない。
 山で獲物をとり、母に掃除の邪魔だと言われて悲しそうにウロウロと歩きまわり、ソファーで昼寝をするのが大好きな人。それがサラの知っている父だった。
 でも、それなりに有名人らしく、引退して母の田舎でのんびり猟師生活を始めているのに、元お仲間という不思議な人たちが顔をみせる。
「もう一度、力を貸してくれ」
 そんな言葉に押され、父が旅立つこともあった。
 他の誰かにはできないことだからと少し申し訳なさそうに告げて、必ず帰ってくると約束して背中を向けた。
 母はそのたびに心配そうに見送り、しばらくして父親が帰ってくると嬉しそうに迎えていた。

 魔法使いとか、剣士とか……色々な職種の人が現れたが、その中でもとりわけ不思議なおじさんがジンの父親だった。
 他の人たちと違って、なにをしている人か見た目だけでは全くわからない。
 がっちりした体格で背は高いものの、武器も短刀ぐらいしか携帯せず、普通の旅人にしか見えなかった。
「俺も引退してるからな、嬢ちゃん。息子と仲良くしてやってくれ」
 そう言ってガシガシと強引にサラの頭をなでまわすからよろめくと、サラの父親に「俺の娘になにをする!」と胸倉を掴まれていた。

 父親たちのどつきあいを見ながら、ボサボサになった髪の毛をもてあましていると、いつもジンが不機嫌そうに手櫛で整えてくれた。
 ありがとうと言うと必ず「俺は狼だからな」とよくわからない返事が返ってくるけれど、つっけんどんな物言いはどこか温かかい。
 お父さんとふたりきりなの? と聞くと、まぁなとジンは少しさみしそうに笑った。
 サラの母親の手伝いをそれとなくする姿に、胸をキュッとつかまれた。
 笑うときは無邪気なのに、考え事をするときは眉間にしわがよる。
 どちらかと言えばとっつきにくい、他人となじむのを拒絶している空気があった。
 他の街の子供と遊ぶこともないし、会える回数は年に一度か二度、ほんの数日の滞在だけれど。
 サラはあっという間にジンを好きになった。

 ほんの数日、ほんの数回の邂逅で彼のなにがわかるの?
 揺れる気持ちが不安で、母親に問いかけたことがある。
「その人のことをなにも知らないのに、好きだと思うのはおかしい事かしら?」
「それが恋よ。私もあなたの父様のことは何も知らなかったわ」
 少女のように頬を染めて微笑む母に、安心してサラも微笑み返した。

「また来てね、約束だよ」
 別れ際にそう言うと、ジンは軽く片手をあげて去っていく。
 それが嬉しくて、少し切ない。
 小さくなるジンと彼の父の背中を、手を振りながら見送るのがサラにできる唯一のこと。
 数年前にサラの母が亡くなってからは、半年に一度は親子そろって顔を見せてくれる。

 誇り高い私の狼。
 知っているのはたったそれだけなのに。
 私はジンが好き。
 それは二十歳を迎えた今も、サラの変わらない気持ちだった。



 サラの父親が「すまん」と頭を下げたのは二カ月前のこと。
 力を貸してほしいと、人が訪ねてきた。
 見た目は薄汚れた戦士に見せかけていたけれど、物腰が高貴な人としか思えなかった。
 剣帯の裏に刻まれた家紋は、街での御触れに必ず記さていれる王家のものに似ていた。
 父がどうしても旅立たねばならないと言うので、あっさり「いいよ」と見送った。
 大丈夫、もう大人だからひとりでも。
 畑もあるし、仕立ての内職もしている。
 待っているから必ず帰ってきてねと、きつく絡めた指のぬくもりは、ずっと忘れない。

 そして、サラは罪人になった。
 突然やってきた兵士たちに拘束され、牢に入れられ、今まさに処刑されようとしている。
 二週間もの監禁生活の中で、父親の罪状を知った。
 皇太子とその座を狙う第二王子との争いが起こり、敗走した皇太子を外国に亡命させたのだ。
 今、政を手掛けているのは第二王子とその一派。
 皇太子に味方する者たちへの見せしめとして、囚われたサラは処刑される。

「お前の父が、名の知れた者であったばかりに……」
 牢を後にする時、哀れと思ったらしい看守の言葉に、サラは笑った。
「私は父を、誇りに思います」
 聞いた看守がどんな表情をしたか、腰に結ばれた紐を強く引かれたサラには、終ぞわからなかった。
 それでも脳裏には「胸を張りましょうね」と微笑む母の姿が浮かんでいた。

 木を組み合わせて高く作られた台の上で、死神の仮面をかぶった黒服の男が待っていた。
 手にした抜き身の斬首刀が、陽光を受けて白く冷たい光を放っている。
 広場の端から引きずられるように歩き、とうとう階段の手前にたどりついたサラは腰の紐をほどかれたが、ほんの少し足をとめた。
 軽く空を見てどこまでも透き通った青に、一歩、階段に足を運んだ。

 一歩、また一歩と。
 踏みしめながらも、数えることはしなかった。
 美しい青い空に近づくのだと、ただそれだけを思いながら。

 祈りにも似た気持ちを抱えたまま頂上にたどりつくと、自分から執行人の前に膝をつく。
 手首には重い鎖が幾重にも巻きつけられていたけれど、指を組み合わせて首を垂れる。
 ゆっくりと執行人が動き、サラの上に影がかかった。

 もう一度、ジンに会いたかったな。

 そう思った時。
 切り裂くような獣の咆哮が、広場の空気を切り裂いた。
 長く強く、心を切り刻む強さで遠くまで響き渡る。
 それが狼の遠吠えだと気がつくとき、広場に集まっていた者たちが塔の上を見た。

 屋根の上に、弓をつがえた一人の男と巨大な狼が一頭。
 空に向かっていた遠吠えが不意にやみ、ヒュゥッと矢が放たれた。
 瞬く間もなく手の甲を貫かれた執行人は、斬首刀をとり落とす。
 悲鳴を上げながら間断なく放たれた矢を避けようとして踊らされ、処刑台から転げ落ちた。

 広場にいる兵士に向けられた狼の目がランと輝いた。
 屋根から跳躍し、風のように駆けおりると、向かってくる兵士たちを蹂躙する。
 逃げ惑う市民もいるので、阿鼻叫喚のありさまだ。
 混乱した人の中を巨大な狼は器用に走り抜け、兵士だけを狙っていた。
 太い前足で横殴りし、ふりかぶられた剣をかいくぐり、牙で喉笛を切り裂く。
 凄惨な光景であるはずなのに、銀色の毛皮が日の光にキラキラと美しく輝いて見えた。

 サラは膝をついたまま、茫然とその様子を見ていた。
 塔の上にいる男が父だとわかったけれど、一度に三本の矢をつがえて放ち、一本も外すことなく兵の手の甲や足を貫く超人は、サラの見知った父の姿ではなかった。
 子牛と変わらぬ大きさの狼も、いまだかつて見たことがない。
 うめく兵や赤いしぶきを見ても、なぜか美しくて、夢を見ている気分だった。
 処刑のために駆り出されていた兵がすべて、父と狼に向かって倒されていく様に、言葉を失ってしまう。

 不意に、腰に腕を巻かれた。
 強引に立ち上がらされ、驚きに目を見開いたけれど、サラは思わず息を飲んだ。
 けれど、驚きすぎて喉に声が張り付いてしまう。

「今のうちに逃げるぞ」

 ジンだった。
 銀色の髪も、青い瞳も、サラの知っているジンだった。
 だけど素手で鋼の鎖を引きちぎり、頭の上にふさふさとした獣の耳としっぽがある姿は、サラの知らないジンだった。
 戸惑いを見せるサラに、ニヤリとジンは笑った。

「言っただろう? 俺は誇り高い狼だって」

 てらいのない笑顔は、サラの大好きな笑顔だった。
 ちょっとぐらい知らない姿があっても、ジンはジンだった。
 胸の奥が暖かくなり、うん、とうなずいて言われるまま、背中に身を預け背負われる。
 器用に紐一本でサラの身体を固定すると、ジンは処刑台から飛び降りた。
 混乱している人の群れの中を器用に走り抜ける。
 逃げ出したことに気付いた兵が何人かいたけれど、ジンは疾風そのままの速度であっという間に引き離した。

 目を閉じていろと言われたけれど、サラは見ていた。
 広場の出入りをする狭いアーチをくぐり抜けるとき、向かってきた兵を右手の一薙ぎで倒したその怪力を。
 わざわざ剣で手をふさぐ必要はないのだ。
 ただ走るだけでも、人の持つ速度ではなかった。
 サラはしっかりとジンの首に手を回す。

 たとえその手が血にぬれていたとしても。
 愛しているわ、誇り高い私の狼。

 街から遠く離れた異国の地で。
 サラはジンに想いを告げた。

 母が父を愛したように。
 父が母を愛したように。
 想いを確かめながら寄り添いたいと。


 ジンはいつものように笑って答える。
「俺は誇り高い狼だから、つがう相手はお前だけだ」
 そして、出会ったときから決めていたと、耳元でつけたす。
 子供の頃から惚れていたと抱きしめられて、サラはほんのりと頬を染めた。

 父親たちがふたりと合流したのは数日後。
 一人は泣いて、一人は笑って。
 若い恋人たちの誕生からはじまる、父親たちの喜悲劇はまた別の話。

 それもまた、幸せの側面かもしれない。
 めでたしめでたし。

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