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短編集 恋の卵

キス泥棒に恋をする

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「Trick or treat! Trick or treat!」
 コンコンと窓を軽く叩きながら忙しく繰り返す声に、俺は思わず肩をすくめた。
 これは間違いなく瑞希だ。
 夏にも同じことがあった。
 一階にある自分の部屋の窓から抜け出して、同じく一階にある俺の部屋の窓を叩き、深夜に手持ち花火に誘いにきたことが記憶によみがえる。

 俺たちは同じ歳で仲は良いけど、幼馴染という訳ではない。
 小学校の高学年で俺が引っ越してきたときに、瑞希は登校班の班長だった。
 世話焼きのお節介が服を着て歩いているような性格だから、グイグイと引っ張られて俺はかなり振り回された気がする。
 お前はオカンか? と言いたくなったけど、まぁ、それなりに世話になったのは確かだ。
 ただ中学ではお互いに名字で呼びあって微妙に壁ができたし、同じ目線でまともに話しだしたのは同じ高校に入学してからかもしれない。
 瑞希はチビだから通学の満員電車でつぶされそうになり、俺がいないと目的の駅で降りそこねるのだ。
 ほっとけないというよりも、一人でも降りれるから! と顔を真っ赤にして無駄な努力をしている瑞希を、からかうのがそれなりにおもしろい。
 今は登下校の時に俺が引っ張ってるから、お互いさまだろう。

 それにしてもサイズが小学生並みとはいえ、一応は瑞希も女の子である。
 近所に住んでいるからといって、こんな夜中に出歩くなよ。
 もうすぐ日付が変わるというのに、受験生がなにをやってるんだか。

 半ばあきれながらガラリと窓を開けると、黒いワンピースにフェルトの猫耳をつけた瑞希が立っていて、にゃぁ♡ と鳴いた。
 両手で軽く猫のポーズをとっているけれど、顔に蝙蝠のペイントをしているから夜の闇に浮かびあがると不気味だ。
 普通の化粧なら可愛く見えるのに、なんで蜘蛛の巣などの妙な柄も追加しているんだろう?

「Trick or treat! Trick or treat!」
 ぷぅっとふくれながら瑞希はくりかえすけど、だからなんだといいたい。
 お菓子が欲しいのかもしれないが、訪問先を間違えている。
 夜の俺の部屋を目指してきたって、お菓子なんてあるわけがない。

「ないぞ、菓子なんて」
 帰れ帰れと手を振って追い払ったけれど、ハロウィンなのに、と瑞希は口をとがらせる。
 そんな行事は俺の辞書にはないと胸を張ってやった。
 うかつな返事をして、仮装に付き合わされたくはないしな。

「ねぇ、それどうしたの?」
 突然、瑞希は首をかしげた。
 ものすごく眉根を寄せて不審そうだから、急に不安になった。
 そこそこ、と瑞希は指さして教えてくれるけれど、俺にはちっともわからない。
「は? なにが?」
「何か髪についてる」
 なんだと? と思って頭に手をやると、クスクスと瑞希は笑い出した。
「素直に、とってくれって、言えばいいのに」
 ほら、と言って手を伸ばしてくるので、俺は素直に身をかがめる。

 それから先は、一瞬の夢に似ていた。
 細い腕が頭を通り過ぎ、首筋にかかるとクイッと強く引かれる。
 よろめいて思わず前のめりになったところで、唇に暖かなやわらかさが軽く触れた。
 驚く間もなく、すぐに離れてしまったけれど。
 頬をかすめた吐息の熱も、触れた軽さも、暖かな人の温度で思考が停止してしまう。

「甘いもの、ごちそうさま♡」

 クスッと笑ってそんな捨て台詞を残すと、クルンと身をひるがえし瑞希は走り去った。
 あっという間にいたずらな黒猫は見えなくなる。
 夜風が彼女をかき消したのかと惑うぐらい、素早い退場だった。

 今、何が起こった?

 茫然としたまま俺は取り残される。
 唇に触れた感覚も、頬をかすめた吐息も、瑞希の体温だった。
 それがキスだとわかるまでかなり時間がかかって、俺は思わず倒れそうになる。

「まじかよ……」

 明日、どんな顔して合えばいいんだろう?
 俺のファーストキスを奪った瑞希はもういない。

 確かに彼女ほど親しい女の子はいないし、ハキハキしたところも、ぷっと膨れながら上目遣いにお願いしてくるところも、ぜんぶ気にいってるだけどさ。

 そのほどよい距離感を選んできたのは、近づきすぎるのが怖かったからだ。
 特別な意味を持って瑞希だけに向けることも、瑞希が俺にだけ向けることも考えないようにしていたのに。
 急に気持ちが動き出したことを、自覚してしまった。
 あの泥棒猫、キスだけではなく俺の心までさらって逃げてしまった。

 単純だって笑われてもいい。
 俺は、キス泥棒に恋をする。

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