Making Twilight

天使の歌声 2 ~暖かな歌声~

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 覚えたばかりの歌をハミングする。
 声質の変わった俺のためにつくられた曲。
 公開までまだ時間があるから、本気では歌わない。
 収録日までには完璧に仕上げたい気持ちはあるけど、焦ってもいいことないしな。

 天使の歌声。
 声変りをする前の俺のソプラノは、そう呼ばれていた。
 それなりに売れっ子で、子役からミュージカル出演、現在は歌手活動にまで広がった俺の仕事も、人間なら当たり前の成長期の影響で、もうしばらくはスローペースだ。
 声変わりのためしばらく喉が落ち着かないはずなので、つかの間の休日といったところだ。
 もともと役者だから、俺には演技がある。
 子役で売れた人間は、成人して成功しないと意地悪く言う奴もいるが、俺はつぶれたりしない。
 それに澄んだソプラノだった声はなくしたけど、どうやら甘いテノールに落ち着きそうだ。
 声変りを終えたばかりで喉に負担をかけたくないから、今は軽くハミングするにとどめていた。
 
 天使から王子様になるのかも。
 なんて言った幼馴染は、今、俺のために昼食を作っている。
 もともと親同士が親友同士だし、俺の親は仕事で家を開けることが多いから、常日頃から俺は幼馴染の家に入り浸っていた。
 急にわいた休暇だけど顔が売れすぎて気軽に外出できないから、高校の勉強を教えろと今日も乗り込んでみた。
 連絡もいれずに急襲したのに、嫌な顔一つせず彼女は俺の世話を焼いてくれる。
 あんたの嫁じゃないんだから迷惑かけないの! と、この前お袋に頭をどつかれたけど、彼女の側は居心地がいいからやめられない。

 それに。暇さえあれば会いたいぐらい、俺は彼女が好きだし。
 少し伏目がちで控えめに話すところも、些細な変化に気がついてそっと寄り添ってくれるところも、人見知りで俺にだけしか向けないくつろいだ笑顔も、ぜんぶ好きだ。
 俺の活動がテレビや舞台とやたら派手だから、利害関係抜きの感情が心地いい。
 自分なんかが側にいてはいけないと腰が引けたことを言うくせに、こうやって乗り込むと「嬉しい」ってふわっと花みたいに笑うところも気にいってる。
 十六年間も一緒に育っただけでなく、俺のだらしないところも嫌いなものも受け入れて、妙なアイドルフィルターを付けない立ち位置にいてくれる特別な人だ。

 お袋には「迷惑でしょ。あんたにはもったいない娘だからあきらめたら?」なんて言われたけれど、それが実の息子に対する言葉か?
 芸能活動優先の俺の身辺は、確かに落ち着かないけどさ。

 時々、考える。
 彼女の幸せってなんだろう?

 お袋の言うように、俺が身を引けば一番いいのかも。
 とはいえ、他の奴に取られるのも嫌なんだよな。
 なんて考えていたら、いつのまにか彼女が側に来ていた。

「あたたかい歌だね」
 俺のハミングに軽く耳を傾けて、目を閉じている。
 そうでもない、と俺がハミングをやめると、彼女は不思議そうな表情になる。
 アップテンポの曲調に騙されてしまうけど、これは片思いの曲なのだ。
 楽譜を渡すと、少し泣きそうな表情になった。

「あなたの隣に居させてほしい 
 この想い どうしたら届くだろう?」

 軽く一節を口ずさんだ彼女の優しい声が胸を揺さぶった。
 ただの歌詞で、俺に向けられたわけでもないのに。

「いい曲だね」
 ポツンと彼女がつぶやくから、うん、と俺はうなずいた。
 確かにいい曲だとは思うけれど、どちらかと言えば女性心理だ。
 音階は俺のために作られているけれど、男の俺が歌うべきかどうか、事務所でかなりもめたと聞いているから複雑な気持ちになる。
 天使のソプラノだったら似合っていたかもしれないが、俺でいいのか?
 まぁ、与えられた仕事はきっちりこなす。
 俺はプロだから。
 そんな事情を知らない彼女は、純粋に感銘を受けているようだった。

「本当にいい曲」
 どこか切ない口調だった。
 片想いに共感している表情でいるから、なんだかドキリとした。
 確かに彼女も年頃だから、恋のひとつでもしていて当然だけどさ。
 そんなそぶり、今まで見たことがなかったから内心で動揺する。

「お前さ、好きな奴いるの?」
 え? と彼女は驚いた顔をした。
 率直に聞きすぎかもしれないけれど、知りたい欲を押さえこめなかった。
 彼女は戸惑って視線を揺らすから、その瞳をのぞきこむ。

「それ、俺ならいいのに」
「えっと、お芝居の練習?」

 そんなわけあるか! と言えたらいいが、台詞合わせにちょくちょく付き合わせるから妙な誤解をうけてしまった。
 本気だから、と言うかわりに、手を伸ばして彼女の頬に触れた。
 ピクリと身体を震わせて、不安そうに俺を見つめてくる。
 俺も真っ直ぐに彼女を見つめ返した。
 視線だけで想いが伝わればいいのに。

 ゆっくりと顔を近づけて唇を合わせようとしたら、スウッと彼女の瞳から涙がこぼれた。
 ひとしずく、なめらかな頬を滑り落ちていく。
 嫌なのかと思って柄にもなく動揺したら、ふわっと彼女は微笑んだ。

「キス、できる日が来るなんて思ってなかった」
 うん、と俺はうなずいた。
 だけど、すぐに謝る。
「ごめんな、堂々と好きだって言えない」
 うん、と彼女はうなずいた。
「お仕事があるもの。いつ、会えなくなっても、仕方ないって思ってる」

 それがあまりに当然だという調子なので、なんだか悔しい。
 だけど俺のせいで、パパラッチや記者に彼女が追いかけられるなんてごめんだ。
 俺は慣れているけれど、彼女は普通に過ごせないだろう。
 子供のころから彼女の家に入り浸っているから、そういう面で今はノーマークだけど、ずっと平和が続くとも限らない。
 しょっちゅう押しかけて彼女の時間を拘束しているのに、いつ会えなくなってもおかしくない現実に、時々不安になる。

 子供のままじゃいられない。
 だけど、大人にもなりきれない。
 俺たちは十六歳。

 愛とか恋とか、ありふれた言葉でまとめたくない想いだけど。
 キスの予感だけで涙があふれさせる彼女を、大切にする力が欲しい。
 彼女だけでなく、俺自身のプライベートも守れるだけの力がほしい。

 天使ではなく人間として。
 当たり前のことを、当たり前として勝ち取るために。

 暖かな歌を、俺は歌い続ける。


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@にゃん椿3号へのお題は『どうしたら届くだろう』『暖かい歌』『あなたの隣に居させて』 #切ない片思いお題 http://shindanmaker.com/565380?
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