Making Twilight

絶滅危惧種の獣人のしっぽを撫でる話 後編

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 そして今に至る。
 僕は、今宵はライア様の寝台に突撃すると決めていた。
 その決意だけは翻せない。

 鏡越しに不安げな表情を見せている自分の輪郭を指でなぞり、人としては繊細な美系だろうとぼんやり思う。
 少年らしいしなやかさと少女らしいまろやかさをあわせもつ肢体は、完全な人型を取ると両性を保有するふたなりであることが浮き立つ。
 覗く角度によって幾重にも色彩を変える虹色の瞳に、光沢のある長い銀髪。
 乳白色の肌は湯船に使った余韻で、甘い白桃のようにほんのりとやわらかに色づいていた。
 ライアの周りにいる人間はムキムキマッチョの巨漢ばかりで、ロウガらしい肢体は美醜の判断からいけば美しくともあまりに貧弱だった。

 拒絶されたらどうしよう?
 僕のご主人様になってくださいなんて、大それた望みかもしれない。
 うちの子じゃないなんて言われたら?
 湧き上がる不安をなんとか押し殺す。
 嫌われるのは嫌だけれど、このまま見つめるだけの日々なんて嫌だ。

 ライア様は男と女、どちらが好きだろう?

 ドキドキしながらノックする。
 すぐに扉は開いて、ライア様はバスローブ一枚の僕に驚いたみたいだけど、部屋の中に入れてくれた。
「どうしたんだい? 怖くて眠れなくなったのかい? もう銀を追いかけてくる奴らはいないよ。しかるべきところで、見合うだけの罰を受けているさ」
 心配してかけてくれる声が優しい。
 気持ちが高ぶって、思わずその胸に飛び込んだ。

「お願いです! 僕のご主人様になってください!」

 ライア様の身体に手を回し、その胸に顔を押し付ける。
 離れたくないと伝えたくて、ぎゅうぎゅうと回す腕に力を入れた。
 やわらかな胸に埋もれるつもりではなかったけれど、僕の身長が低くてやわらかくてふわふわの真ん中に僕の顔がジャストフィットしていた。
 ライア様も入浴してパジャマに着替えているので石鹸のいい匂いがする。 
 う~んとしばらくライア様は悩んでいて、ああなるほど、と腑に落ちたように言った。

「僕のご主人様って、つがいのことかい?」
 コクコクと必死にうなずく。
 そのたびにライア様の胸がたわわに揺れて、なんだかクラクラしてきた。
「自分より強いものが好きってのは本当だったのかねぇ~ちゃんと同族を見つけてやるから、それまでいい子にしてな」
「嫌です! 僕はライア様がいい!」

 あやすように頭をなでられて、必死で僕はいいつのる。
 困らせたくはないけど、気持ちの全部を伝えたかった。
 あれもこれも言いたくて「僕は! 僕は!」とうまく言葉を選べずに焦っていたら、ポン、と優しく頭を叩かれた。
「わかった。銀の好きにしたらいい」
 なんだか子供をあやすような口調で、今は受け入れてくれてもいつか同族と引き合わされそうな怖い予感に、僕は泣きたくなった。

 嬉しいけど何かが違う。
 どこかすれ違っている。
 そんな悲しい言葉が出る前に、チュッとライア様は僕の唇にキスをした。

「私も遠慮なく好きにするとしよう。銀は可愛いからねぇ」
 ふふふ、と笑うあでやかさに、僕は思わず目を奪われた。
 はじけるように嬉しさが広がって、思わず「ライア様!」と叫んだ……つもりだったけど、僕の口からこぼれたのはキューンという鳴き声だった。

 あれ? 視点が下がって、なんだかおかしい?
 自分の手を見るといつの間にか白銀の毛がふさふさと豊かに流れていた。
 動揺して激しく揺れる自分の尻尾の感覚に、さらに動揺してしまう。
 鏡を見るまでもなかった。

 この姿は戦闘モードなのに……いきなり獣化って?!
 どういうことだろう?
 コレってライア様の仕業ですか?!

 自分の意思に反する変身は初めてで混乱する。
 問いかける間もなく、ガバッとバスローブをはぎ取られた。
 ライア様は僕の後ろ足を持って、ピロンと大きく広げる。

「ほらほら、恥ずかしがらずに全部私に見せてごらん」
 なにを?!
 逃げ出そうとしたけれど、がっちりとつかまれて動けない。

「へぇ、もふもふと気持ちのいい手触りだ。ああなるほど、獣化しても両方ついてるのか。いいねぇ~うん、可愛い可愛い♪ ん? ここはどうなってるんだ?」

 ひぃ?! ライア様、どこを触ってるんですか?!
 人でも獣でも、ロウガはどっちの姿でも両性具有だし、尻尾は途中で二股に分かれてますけど!

「や~ん♡ 尻尾がもふもふ~♡ ほら、おとなしくおし! 好きにしていいって言ったのは銀だろう?」

 一体、なにをする気なんですか?!
 コロンと床に転がされて、お腹をもみくちゃになでられた。
 たまらずキャウンと鳴いて逃げ出そうとしたけれど、あっという間に捕獲される。

 うふふふふふ……ご機嫌で僕をいじくりまわすライア様から、僕は半狂乱で逃走の手段を探す。
 だけどがっちり捕獲されて、逃げ出すことができなかった。

 ひぃぃぃ~お許しを!
 ご主人様とはいえ、尻尾は、尻尾だけは触らないで!
 急所に近いから、つかんで顔を押し付けられて、グリグリ額を擦りつけられたりしたら動けなくなる。
 せめて言葉で抵抗したいのにキュンキュン鳴くことしかできず、逃げようにも腰から下の力が抜けてしまう。
 だから、そこはだめです! 人型でつがう相手にしか触らせちゃダメなんです!
 つがいたいとは言ったけど、これは違う! こんなのは違うんです!
 ああ、ライア様……動けない僕を、ここぞとばかりに襲ってくるのはどうしてなんですか?!

「可愛い~いい匂い~このまま私の枕になっておしまい♪」

 気をつけな。ライア様はあれでなかなか腐抜けた乙女思考だからな。
 あそこに積んである薄い本も絶対に見てはいけない。
 乙女の欲望ってのは恐ろしいもんなんだぜ。

 お兄さん、僕は今やっとあの言葉の意味がわかりました。
 男性と同じ格好で日常は押さえている欲望が、一気に解放されている気がする。
 モフモフは正義とか、モフモフはすべてを超越するとか、理解できない言語が奔流となって、容赦ないなでまわしとともに僕を襲う。

 こんな愛でられ方は嫌だ。
 もう、夜這なんてしようと思いません。

 だから、だから……誰か助けてー!!

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@にゃん椿3号は6RTされたら両性な絶滅危惧種の獣人でしっぽを撫でる話を書きます。 http://shindanmaker.com/483657?

主人公紹介 @にゃん椿3号 元特殊部隊教官で現在はコック。料理の腕も武道の腕も超一流。困っている人を見過ごせないお人好しだが、悪事をはたらく者には容赦しない 口癖は「予想通りだ」 http://shindanmaker.com/389754?
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