今日も黒熊日和 ~ ガラルドさんちの家庭事情 ~

煉獄の幻魔堂 前編

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「なんだこの注文は?」

 ゴードンは届けられた布の包みを開き、出てきた物に眉根を寄せた。
 東流派の精鋭たちが黒熊隊と名乗り、王都に居を構えたのはつい最近のことだ。
 そこから届くとなると誰もが武器・防具だと予想するはずだ。
 それなのに、柄が不自然にグニャリと曲がったフライパンと一枚の紙。

 ここは退魔用の武器・防具を扱う工房なのに、何故、巨大なフライパンが届く?

 壊れたフライパンの修理依頼をするにしても、ゴードンは武器を作成する鍛冶屋なのでお門違いだ。 
 反射的に投げ捨てようとしたが短気はいかんと思い返して、ペロリと薄い紙を取り上げる。

【婦女子が片手で扱えるほど軽く、ドラゴンの炎にも耐え、氷魔の槍も防ぐ高度を持つ、世界最強の実用品を頼む】

 東流派からの直接の依頼だと示す紋章もご丁寧に入っている。
 署名は黒熊隊の隊員たちの連名である。
 不思議なことに長であるガラルド・グランの名前だけない。

「……ふざけおって、あの熊どもが……!!」

 な~にが世界最強のフライパンだ。
 プルプルと紙を持つ手が震えてしまう。
 そんなものを何に使うというのか?
 武器専門の鍛冶屋に頼む神経はわからないが、調理の腕を磨き世界に誇る料理人を目指すための使用を求められるならまだわかる。
 フライパンそのものはどこまでも家庭用品で、世界最強の、などと御大層な銘文をつける必要はない。

 封書に入っていないからポイ捨てして適当に流そうと思っていたのに、正規の武器注文の様式だった。
 くぅっと低く唸る。
 もともとゴードンは、地方を流れ歩く鍛冶屋だった。
 難民の出だが古い血が濃く、周囲から浮いていたからさっさとそこを飛び出し、冒険者になった。
 そのうち武器そのものへと興味が移り、世界各地を転々としながら様々な工房を流れ歩いた。
 大きな都市ではなく、地方を巡れば日常の鍛冶屋が武器の作成をすることも多く、僻地であればある程、古代から伝わる特殊な武器も伝承されていてその魅力に取りつかれた。
 才能がそれなりにあったのと、地方で特殊鍛冶を継承できる人材は少ないことで、銘入りの武器の価値が出てきたのもここ数年である。
 このまま辺境の鍛冶屋で名をあげるのもいいと思い始めたところで、東流派から声がかかったのだ。

 剣豪が拠点を決め自分の隊を持つから、おまえもこないか? と。
 もちろん断った。
 冒険に出たこともあるのだ。東流派が世界にとってどれほど必要な存在かは身に染みて分かっているが、そんなしがらみに縛られくない。
 そう言うと思ったと笑いながら、交渉に来たキサルはニヤニヤ笑って言った。

「工房も店舗も全てこっちで用意するし、普段は自由に商売すればいい。急ぎの仕事や特注の品を優先してくれるだけでいい。損はさせないぜ」 
「損はさせないってことは、こき使うぜってことだろうが!」
「おいおい、お互いに損のない取引ってことさ。お前の腕を買ってるんだよ」

 嘘つき野郎が、と思ったものの。
 少年時代に一緒に冒険してやんちゃをした仲なので、交渉とは思えない気楽さで肩を組まれた。
 嫌だといって断っても、どうせこいつらは地の果てまでも依頼を持ってくるのだ。
 他の奴にはできそうもないからと、頭を抱えるような無理難題ばかり要望として出してくるから、俺だってできるもんか! と叫んだことは数知れず。
 意地でその要望をこなすゴードンも偏屈者だが、あんなしんどい思いはごめんこうむりたいのが本音だ。
 と思ったものの、箱モノだけでなく財務管理や店員の手配もしてもらえ、流派からの仕事をこなせば財務的に破たんすることもないといわれると、大いに心が揺らいだ。

 それに、何度も縁を切ろうと他国に出たのに、よう! と玄関先に現れたことは一度や二度ではないのだ。
 竜だの魔人だのを相手にしてる連中に、人間が太刀打ちできると思うのが間違っている。
 逃げるだけ無駄だ。
 ならば、うなずくのが賢い選択だろう。

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