短編集 恋の卵

君と花火に 後編

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 歩きだしても、しばらくは無言だった。
 どう切り出せばいいのかよくわからないし、私は長谷川君と歩調を合わせることで精いっぱいだった。
 めったに話さない人と一緒に帰るなんて、知っている道なのになんだか落ち着かない。

「君には、あのキャッチコピーの意味がわかる?」
「きいていい? 長谷川君はどんなふうに考えたの?」

「ひどい奴だと思ったよ。約束して一緒に出かけた友達をほったらかしにして、お祭りで会った恋人とすごすなんて。それなら最初から恋人と二人で出かければいいだろう?」

 え? 私は思わずその横顔を見つめてしまう。
 それは大きな勘違いだ。
 長谷川君はもしかして、一緒に出かけた友人と恋人が、同一人物だと気がついてない?
 声には出さなかったけれど、ちらっと私を横目で見た長谷川君は軽く肩をすくめた。
 私の表情で考えていることを読みとったのだろう。
 目に見えて表情が陰ってしまった。

「僕の勘違いは史上最強で、笑いすぎて腹筋が六つに割れるとまで言われたけど、どこを間違えているのかすら、僕にはわからないんだよ」

 それがあまりにさみしげな口調だったから、ちょっぴり胸が痛くなった。
 頭のいいとっつきにくい人だと思っていたけれど、長谷川君は想像していたよりナイーブなのかもしれない。
 赤城君らしい発言だけど、確かにひどすぎると思う。

 長谷川君は勘違いしているけど言葉通りに受け取っただけで、きっと真面目すぎるのだ。
 これが恋の始まるだとすら気付いてない。
 好意を持っている異性の友達を花火大会に誘って、夜空に大きく開いた満開の花火の下で告白して、両想いの恋人同士になって帰宅するって、思いつきもしないのだろう。

 どんなふうに説明すれば上手く伝えられるかな?

 キュッと気持ちが長谷川君に惹き寄せられたとき、彼は立ち止って私を見つめた。
 私も立ち止まって、彼の視線を正面で受け止める。
 少しも迷いがない眼差しはまっすぐで、怖いぐらい真面目な顔をしていた。

「わからないことを知りたいと思うのは普通だろう?」
 うん、と私はうなずいた。その気持ちはわかる。
「だから須藤さん。来週末の花火、一緒に行ってもらえないかな」
 え? それはわからない。
「私と花火に? どうして?」

 確かに来週は大きな花火大会があるけど。
 急な誘いだったからものすごく驚くしかない。
 私の動揺をよそに、長谷川君はどこまでも真面目だ。

「気になる女子を花火に誘えば、いくら俺でもわかると赤城の奴が」
「それが、私?」
 ドキリとしたけど、長谷川君はサラリと言った。
「僕より国語の成績がいいのは須藤さんだけだし、教室でもよく本を読んでいるだろう? 国語も君にだけは勝てそうにない。だから、このキャッチコピーの意味がわかる女子は誰かと考えたとき、君の顔が一番最初に浮かんだ」

 ガクリ、とその思い違いに倒れそうになった。
 いやいやいやいや……長谷川君。
 それ、気になる女子の意味そのものを、ものすごく間違えてるから。
 確かに私、国語の成績だけはいいけどね。

 赤城君ったら! こんな真面目な人に、なにをけしかけてるの?!
 あのニヤニヤ笑いの元はこれだったのかと納得する。
 ひどい。ものすごくひどい人だと思う。
 しかも、長谷川君、そこまで言われてもわかってないし。
 うんってうなずいたら、私まで赤城君にからかわれるんだろうな。
 からかわれるのは嫌だけど、長谷川君に八つ当たりをするのも何か違うし。
 どうしたものかと返事に迷っていたら、長谷川君はクシャリと表情を崩して照れ臭そうに笑った。

「それにさ。僕がバカな間違いをしても、須藤さんはからかったり笑ったりしないから、相談しようと思ったんだ」
 君はそこがいい。
 当たり前の調子でサラリと言うから。

「いいよ、来週の土曜日、一緒に花火に行こう」
 反射的にそう答えていた。
「一緒に花火に行って、長谷川君がどんなに考えてもわからなかったら、私がキャッチコピーの意味を教えてあげる」

 ありがとう、と長谷川君は爽やかに笑った。
 好きとか気になるとか、そういう気持ちはまだわからないけど。
 嬉しそうな笑顔を見るのは嬉しい。
 ちょっとだけドキドキする。
 今は、それでいいと思った。

 きっと長谷川君は一緒に花火に行っても、あのキャッチコピーの意味がわからない人だと思うけれど。
 浴衣を着て、屋台を回って、花火を見て。

 そして、一緒に帰ろう。
 あのキャッチコピーみたいに。


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