Making Twilight

「はいはい、可愛い可愛い」

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 人里から離れた森の中で俺は暮らしている。
 正しく言えばまともな人間が絶対に近寄れない魔の森である。
 
 俺は何の因果か生まれつきの魔力が高いらしい。
 制御する方法を学ばないとただの危険物扱いで、周囲にワイワイ騒がれたからなりたくもない魔術師の勉強もしたのだが、どうやら俺は普通の人間からかけ離れているらしい。
 成人するまでは当たり前に成長したものの、そこからの時間の流れが周囲とは大きくズレてしまった。

 感覚的に言えば常人の一年が俺の一日ぐらい。
 そんな歳の取り方なので、周りの人間は新陳代謝よろしくバタバタと死んで、新しい子供が育っていくのに、俺一人だけポツンと変わらない。
 いつだって一人だけ俺は取り残されてしまう。
 生まれてからまだ百二十年ほどだが、すっかり嫌になったしまった。
 肉体は老化しなくても、精神の弱さは普通の人と変わらないんだよ、なんてぼやく。
 寂しいのは嫌で人と関わってきたが、知った人があっという間に消え変わらない俺に対する怯えの弊害に、人里がさすがに嫌になった。
 遠巻きにされ、こそこそと小声でなにか言われる毎日なんてストレスの元だ。
 そう、どうせ独りになるなら、最初から一人でいればいい。

 最初から一人なら辛くない……と思っていたのだが。
 森の奥深くだから、静かで静かでたまらない。
 聞こえるのは葉擦れの音と鳥の声ぐらいだ。
 たまに動物や魔獣のような変わった生物が顔を見せるが、俺が顔を出すと怯えたように遠ざかってしまう。

 おい……どういうことだ?
 そんなに俺の気配は怖いのか?
 飢えたドラゴンへの反応に似ているが、俺は自分から襲ったりしないぞ。
 人よりも過敏な拒絶反応に、さりげなく傷つく毎日である。

 これってつらくない状態……なのかな?
 人里にいたころとなんら変わりない。
 人外にすら受け入れられない俺って何なんだろう?

 ほんの数カ月で根をあげそうになったが、かといって再び人の住む場に戻る元気もない。
 そういえば長寿の一族は土地に固執せず旅から旅へ流れると聞いたなぁ~人社会で生きたほうがマシなのだろうか? なんてたそがれていたのだが、妙な生き物を拾った。

 気を失った状態で、崖下に転がっていたのだ。
 元の色がわからないほど泥にまみれて、長い毛がべったりと張り付いている。
 不細工な泥人形みたいだと思いながら、意識不明をいいことに家に連れ込んだ。
 上手くいったら使役できるかもしれないからな。
 ボッチ生活からの脱却に一役買ってもらおう。

 大きさは狼ぐらい。
 しかし形が違う。
 なんとなく猫に似てはいるけれど、尻尾が太い。
 額一本の角があったので、魔獣か幻獣の一種かもしれないと記憶を探ったが、ピンとくる種族にはいきあたらなかった。
 なにかの変種か、人にとって未知の種族かもしれない。
 魔の森にいると知っているものが少なく、人の世界で知った知識がほんのわずかだと実感する。

 あまりに汚いので水で洗ったら目覚めて大暴れしながら俺をかじったが、魔力で縛って動きを封じ、こびりついた泥を流した。
 反抗する爆発的なパワーを見れば、けがや病気で倒れていた訳ではないらしい。
 触ると骨の形がわかるほど痩せているので、空腹で動けなかっただけかもしれない。
 フーフーとうなってうるさいぐらいだから、どうやら元気な状態らしい。

 フカフカに乾かしたら、非常に美しい獣になった。
 サラサラの長い銀の毛並みに、青みがかった光彩のない瞳。
 額にある角が目立つが、気品のある姿を現す。
 ただ、当たり前と言ったら当たり前なのだが、牙をむいて唸るぐらい態度が反抗的なのでひとまず呪をかけた石の部屋に放り込んでおいた。
 どれほど大暴れしても破壊的な力は封じてしまうから、そのうちつかれて寝るだろう。
 干し草のベッドがあるし、ミルクとチーズも入れておく。
 人間と同じものを食べるかどうかはわからないけれど、ないよりはましだろう。
 
 一晩明けて、俺は驚いた。
 扉を開けると干し草のベッドの上に、十二~三歳ぐらいの半獣の子供が寝ていた。
 ゴロン、グリンと忙しく寝がえりを打ちまくっている。
 見知らぬ場所で熟睡しているとはそうとう図太い。
 ふわふわした銀髪がたてがみのように背中の半分までを覆い、三角の耳がピコピコと動いていた。
 幸い身体にぴったりした不思議な服を着衣しているが、痩せた身体つきでもはっきりと性別がわかる。
 女の子だ。人の目から見れば美系だと思う。
 人化するだけなら珍しくないが角もあるし、こんな生き物は魔術師社会でもまだ認知されていないだろう。

 昨夜、用意していた食事は消えていた。
 グラスも皿もまぶしいぐらいピカピカになっているから、よほどお腹がすいていたのだろう。
 皿まで食べなかったことをほめていいぐらいだ。
 うん、人と同じ物が食べられるならちょうどいい。
 言葉が通じるかどうかわからないが、久しぶりに朝食を囲む相手ができた。

 清々しい気分で俺がいそいそと食事の用意をしていたら、物音と匂いで目覚めたようだった。
 足音を忍ばせて彼女が背後から近寄ってきた。
 襲うつもりで飛びかかってきたようだが、見えない障壁にドカンとはねとばされた。
 痛いと言って鼻と腰をさすっている。

「言っておくが俺に攻撃かけると、全部自分の身に返ってくるぞ。危ないからやめておけ」
「もう少し早く言え!」

 おお、言葉が通じた。
 場違いかもしれないが非常に嬉しい。
 ひさびさの会話である。

「おまえ、迷子か?」
「無礼な! 我は大人になったのだ。独り立ちせねばならぬのだ。ちょっと足を滑らしただけなのじゃ。大きな顔をするでない!」
「崖から落ちたのか? ケガしてないか?」

「近づけば刺す!」
「寄り添えば刺す!」
「我は誇り高い一族だぞ! おまえなんか、おまえなんか人間の癖に~!」

 一生けん命ひたいの角をアピールしているが、なんで涙目なんだろう?
 当たり前だがちっとも怖くない。
 ツンツンととがったセリフが次々に繰り出されるが、俺はニコニコ笑って少女を見つめてしまう。
 上手くやっていけそうな予感がした。
 どこまでも可愛い性格の予感がして、やさしく丁寧に接することを決めた。
  
 まずはスキンシップ。
 毛並みをなでてやるところから始めてみる。
 
 ふにゃーっと腰砕けになれそうなほど顔が真っ赤になるから面白い。
 反抗的な言葉を吐くわりに、背中を向けると慌てて追いかけてきて、不安げにウルウルと瞳を潤ませているところもいい。
 食べるか? と聞いて朝食を用意していると、食い入るように食べ物に視線が張り付いた。

「よいか、人の物でも食べてやるが、気やすく近寄れば刺す!」
 上目遣いに口をとがらせながらの悪態なんて、聞けば聞くほど顔がゆるむ。
 少女の頬が真っ赤になっているからなおさらだ。
 黙って食べろと頭をグリグリすると、ひどいと言ってにらむ癖に、なでてほしいとばかりに頭を近づけてくる。
 まぁ、いくらでもなでてやるけどさ。

「はいはい、可愛い可愛い」
 そう言いながら近づくと彼女の頭に触れた。

 それが未来まで続く日課になることを、今の俺は知らない。


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おもしろ~~~~~~い!

嬉しいです(//▽//) 

Maryam F D 様♡

うわ~い♡ 嬉しいお言葉をありがとうございます\(^o^)/
私、モフモフとふわふわが大好きなのです~♪
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