短編集 恋の卵

エイプリルフール 最終話

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 駅前のベンチを見つけて、徹はあたしを座らせる。
 ホラよ、と軽い感じで手にしていた鞄からラッピングされたプレゼントを取りだした。
 オフホワイトの包みに、ピンクのリボンがかわいらしくあしらわれている。
 二〇センチ四方ぐらいの四角い箱には、HappyBirthdayのカードが添えられていた。
 そう、今日はあたしの誕生日なのだ。
 あたしはビックリして、徹を見た。

「覚えてたの?」
 嬉しくてウキウキしているあたしに、まさか、と身も蓋もない返事が返ってきた。
「亜樹からメールが来たんだよ。トウヘンボクは一生独り身でさみしく枯れろ! つってさ。お前も最近変だし、何かあるって思うのが普通だろ?」
 え~亜樹の入れ知恵? と明らかにがっかりしたあたしに、さすがに焦ってそっから先は自分で調べたんだぜ、と徹はちょっぴり慌てた様子を見せるのでおかしかった。

「うん、嬉しい。ありがとう」
 本当に嬉しい。会えるなんて思ってもいなかった。
 ただの我儘で実現なんてできないはずだったのに。
 プレゼントまで用意してあるなんて、素敵なサプライズだ。
 開けていい? と聞くと、どうぞ、と答える笑顔が眩しかった。
 なんだか付き合い始めの頃を思い出した。
 高校生の時はこうして並んで座るだけで、世界が変わる気がした。
 ドキドキしながらリボンを開き、箱のふたを開けると。

 ポコン☆

 のぞきこむと同時に、飛び出てきた中身がおでこにヒットした。
 痛くはなかったけど、あたしは驚きすぎて声も出なかった。
 なにが起こったのか、すぐには理解できない。
 バネで飛び出てきたぬいぐるみのうさぎが、ビヨンビヨンと笑うようにあたしの目の前で揺れている。

 ビックリ箱だ!
 なんて手の込んだいたずらなのかしら。

「ほら、エイプリルフールだからさ」
 アハハッてはじけるように徹が笑いだすので、次第に腹が立ってきた。
 こんなものでひっかけるなんて……あたしの純情をなんだと思ってるの?

「バカ徹!!」
 むかついてふりあげた手を、徹はつかんだ。
「ほら、まだだって。プレゼントは全部のリボンをほどかないと意味がないだろ?」

 ちゃんと見ろと言われて、ふざけた動きをする白いうさぎを見ると、その首に不似合いなぐらい大きなリボンが結ばれていた。
 ボリュームのある赤いリボンに、あたしはため息をついた。

「なに? これもまたエイプリルフール?」
「まさか。特別なものさ」

 すげーぞなんて徹はニヤニヤしているから、あたしはムッとする。
 驚くに決まってる、なんて当然のような顔しないでほしい。
 今日はしてやられてばかりだけど、全部が徹の思い通りになるのは腹立たしいもの。

「そう簡単に、何度も驚いてあげないんだから」
 絶対に驚いてやるもんか! なんて、赤いリボンをほどいたけれど。
 あたしの決意なんて、簡単に破壊する威力がソレにはあった。

 むき出しになった白い兎の首に、金の指輪が揺れていた。
 細いチェーンに通されたエンゲージリング。
 ウサギと一緒に、ゆらゆら揺れる輝きは本当に特別な物。

「これでおまえ、売約済みな」
 不覚にも泣きそうになってしまった。
「徹と結婚するなんて、あたし、言ってない」
 一人で決めないでよ、なんて吐き出したけど。
 徹はポンポンとあたしの頭を軽く叩いた。
「俺にしとけっつってんの」

 バカ徹、と言いながらも、涙があふれてくる。
 こんなサプライズ、想像もしていなかったから、素直な言葉が出てこない。
 本物の徹が側にいるだけで、現実味が薄れてしまうってどうなの?
 胸がいっぱいになって思考がまとまらない。
 感涙にむせびそうなあたしの感情を無視して、徹はさらっと言った。

「と、いう訳で、今夜泊めて」
 は? という訳って、なによ。
 一人暮らしのあたしのアパートには余分な布団なんてないから。
 ムリよって言っても、徹は強引だった。
 久しぶりの添い寝だなんて、妙に喜んで。

「最大のプレゼントは俺自身だ。リボンみたいにネクタイほどけよ。あったまろうぜ、二人で」
「あなた、バカじゃないの?」

 あきれた、本当にどこまでも自由行動なんだから。
 あけすけ過ぎて、ムードなんて星の彼方に消えてしまう。
 放り出すのは簡単だけど、徹のこういうとこ、好きなんだよね。
 わかったって、折れるしかないじゃない。

「ねぇ。あたしが追い返したら、野宿するつもりだったの?」
「まさか~乗り込むぜ。お前の実家まで」
 挨拶まで一足飛びでちょうどいいだろ? と笑うから、あたしは赤くなるしかない。

 お前が何を言おうが周りから固めるぞ~そうそう何度も仕事をほっぽり出せるもんかって、勝手に決めた段取りを語り出す。
 だけどその言葉で、この指輪も本気なんだってわかった。
 信じてない訳じゃないけど、実感がなかったから。

 今日は両親への挨拶抜きで、俺たち二人の再会を祝そう、なんて。
 当たり前に明日からの段取りを語るから、あたしはそっと彼に寄り添った。
 うん、ディスプレイ越しよりも、やっぱり本物はいい。

 あたしの家に向かって歩きながら、キュッと徹の手を握る。
 大きくて温かいその手は、懐かしくてとても馴染む。
 時差でだるいなんて、あくび交じりぼやいている言葉も愛しくて。
 徹がここにいるって、じんわりと気持ちにも染み込んできた。

 ずっと嫌いだったんだ、私自身の誕生日。
 嘘で塗り固められて嫌な思いをしてきたから。
 罪のない冗談だって言われても、不快な感情が膨らむ嘘なんて、気分が下がるし最低だもの。
 楽しいのは嘘を仕掛けた相手だけなんて、本当に嫌になってしまう。

 だけどこんなふうに驚くなら、エイプリルフールも悪くないね。
 幸せに変わる嘘ならいくらでも許せるわ。
 騙されても嬉しいって、本当に変だけど。

 動き出したあたしたちの未来も、幸福な驚きで満たされますように。

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