短編集 恋の卵

エイプリルフール 第二話

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 やさぐれた気持ちで亜樹ちゃんに電話した。
 こんなときは気の置けない友達とおいしいものでも食べるに限る。
 亜樹ちゃんは高校時代からの同級生で、徹との山あり谷ありの時期も知っている。
 仕事の後で夕食を一緒に摂る約束をして、なんだかほっとした。
 ちゃんとあたしには頼りになる親友がいるのだ。
 いっぱい愚痴って気分転換して、現状維持に努めよう。
 なんて、思っていたけれど。

 居酒屋に入ってあたしの話を聞いた亜樹ちゃんは、ブフッと妙な笑い方をした。
「そこ、笑うとこじゃないから」
 ふてくされるあたしに、亜樹ちゃんはくつくつと笑った。
「ごめんごめん。でも、なに? いまさら?」
 ニューヨークまでついてけばよかったのにーと簡単にけしかけられて、そういうのじゃないの、としか答えられない。

「今から行く? 観光でもいいじゃない。顔見たら、すっきりするかもよ?」
「もー簡単に言ってくれるんだから」
 それもなんか違うんだよなぁって苦笑するしかない。

 自分でもよくわからないんだ、このもやもやの訳が。
 徹とのことも、自分の気持ちも。
 ニューヨークにポンと飛んで、やぁって言っても、何も動かない気がする。
 きっと逢えば嬉しいし、楽しい会話も交わせると思う。
 でも、じゃぁねってあたしが日本に帰った途端、また同じ毎日になりそうだ。
 時間も環境も変わっていくのに、高校時代からあたしたちだけが動いていない。
 これって明確な嫌ポイントは見つからないのが、むしろ怖いんだ。

 なんかやだなーとこぼすあたしに、亜樹ちゃんは飲め飲めとお酒を勧めてくる。
 明日は休みだからつぶれてしまえと無責任な言葉に、あたしはのった。

「よし、今日は飲むぞー」
「メニュー票、完全制覇だ!」
「いや、それはさすがに無理」
「いけるとこまでいっちゃえ」

 甘いお酒も、辛いお酒もあった。
 綺麗な色のカクテルは徹が教えてくれた。
 ああ、でもあたしはジンライムが好きだ。
 フレッシュな香りの中、氷をゆるりと溶かしながら、カランカランとグラスごと揺らす。

 酔っ払うのは嫌いじゃない。
 泣いても笑っても、全部をアルコールのせいにできるから。

 ゆらゆら揺れる視界の隅で、亜樹ちゃんがつっぷしたあたしの頭をなでる。
 つぶれても運ぶから心配するなって笑いながら、亜樹ちゃんはそっとささやく。
「なんだ、割り切りすぎってあきれてたけど、あんたも普通の女の子だったんだねぇ」
 ため息みたいに吐き出されたそのセリフが耳に残ったけど、あたしはそのまま眠りに落ちた。

 盛大に二日酔いにはなったけれど、亜樹ちゃんのおかげで少し落ち着いた。
 今の在り方をちっとも割り切っていないって、自分の気持ちの状態を自覚できたからだと思う。

 もちろん、このままじゃいけないと思う。
 だけど、このままでもいいと思うあたしもいる。
 グルグル思考は回るけど、動きだすのに必要な決定的な何かが足りない。
 だから現状維持を選び、あたしは変わらない毎日を過ごしている。

 仕事して、休日も楽しんで。
 徹との連絡も欠かしていない。
 生活は変わらないけど、あたしは確実に揺れていた。
 姿を見せない揺れはグラグラと大きくなっていくのに、答えなんてどこにもないんだ。
 難しいな、自分の気持ちもわからないや。

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