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短編集 恋の卵

嘘つきピアノ

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 学校は嫌い。
 勉強も大嫌い。
 友達なんてどうでもいい。
 大事なものはピアノだけだ。

 リスト、ショパン、ベートーベン。
 俺の中でモーツァルトは外せない。
 暗記した古典も好きだけど、俺だけのオリジナルはもっと好きだ。

 ピアノの鍵盤を叩けたらそれで幸せ。
 降り注ぐ太陽の光のように脳内にあふれてくる音を、指先でメロディーに変えて奏でる時間が一番好きだ。

 なんて口癖は嘘だ。
 もちろんピアノが好きなのは本当だけど。
 それ以上に好きなのは、美晴の存在。

 美晴と出会ったのは小学校のころだ。
 幼馴染、と言っていいと思う。

 学校の名がついた集団の中で、俺は最初から浮いていた。
 両親がともに音楽家である俺の家は少し変わっていて、常駐の家政婦がいた。
 他の家には家政婦がいないと気がついたのは、学校に通い始めてからだけど。
 海外公演が主になるので年に数回帰ってくるだけで、学校に通い出してからは実の親とすごした記憶が少ない。
 記念日を記録したのは、大きなカメラを手にした家政婦だ。

 俺にとって学校は衝撃の世界だった。
 慣れない日本。騒がしい教室。
 もっぱら母の海外遠征について回っていたので、小学校に入学するまで同年齢の子供集団の中に入ったことがなかった。
 大人との会話しかしてこなかったから、子供同士の会話だと速度展開が速すぎて、秩序の乱れた日本語をうまく聞き取れず意思の疎通もままならない。

 そんな集団からはぐれている俺に、美晴はいつも優しかった。
 日に日に浮いていく俺を、美晴だけがニコニコ笑って受け入れた。
 なにが彼女をそうさせたのかはわからない。

 遠足とかオリエンテーションで、適当なところでリタイヤしてやり過ごそうとする俺の手を取り、行くよーっと引きずるように突っ走った。
 よけいなことすんなって噛みつく俺に、こんなこともできないんだ~へぇぇぇ~なんて、イラリとする言い方でプライドを刺激して、できるに決まってるだろ! なんて、ついのせられたことも数知れず。
 奏は猫みたいと言ってケラケラ笑って、奏は私がいないとダメだから、なんてあれこれ世話を焼いてくれた。

 記憶の中で、俺の側にはいつも美晴がいた。
 美晴ひとりのために、笑ったり泣いたり、とにかく毎日が忙しかった。
 お互いに引っ込みがつかなくなって、取っ組み合いのけんかもした。
 仲直りしたのに気が高ぶって、わんわん泣いたこともある。
 本気で感情でぶつかる存在は、後にも先にも美晴だけ。

 俺の家の居間に飾ってある記念日の写真。
 そのすべてに美晴は俺と肩を並べていた。
 それは、別々の大学に通い出した今も変わらない。
 俺の側には、今も美晴がいる。

 奏はグータラでマイペースすぎると、今だに美晴には怒られるけど。
 俺は音楽大に進み練習という、音楽に没頭できる言い訳を得たことで、講義以外の時間をピアノの前で過ごすようになっていた。
 普通の大学なら浮いていたかもしれないけれど、それなりに名の通った先生に認められて、ピアノ狂いでも熱心で将来有望な学生という扱いになったのは幸いだ。
 親の七光と言われようが、卒業後の活動もほぼ確定している。
 一生、音楽に満たされながら生きていくだろう。

 健康でさえあれば、未来は輝いている。
 ただ、体が資本なのに寝食なんてどうでもいいから、俺はすぐに忘れる。
 震えるピアノの旋律が身体に満ちていれば、空腹なんて感じない。
 血管の中まで美しい音で満たされ、全身を高揚感が巡るから。
 気がつくと窓の外が真っ暗だったり、太陽が真上にいたりと、時間がよくわからなくなる。

 そんなどうしようもない状態を知っているから、美晴はダメ人間だと怒りながらも、講義の合間や休日は俺の家にくる。
 家政婦は遠慮があって強く言わないのに、美晴は違う。
 初めて自宅に遊びに来たのが、小学生の低学年時代なので慣れもあるけれど、美晴の性格も大きく関係していると思う。
 言葉も行動も、まったくもって容赦がない。
 俺の母親の数倍は口うるさいし強引だ。

 ちゃんと寝なさい、ちゃんと食べなさい、ちゃんと生きてよ。
 そんな風にプンプンしながら、それでも俺がピアノを弾きだすとキュッと唇をかみしめて黙る。
 そして五線譜のノートを広げて、耳を澄ませてその音を書きうつすんだ。

 高学年のころだっただろうか?
 俺が曲を弾く手を止めて音符を書きとめているのを見た美晴が、私が書いてあげると言いだした。
 音楽の成績が散々なのは知っていたから「できるもんか」という俺に、口をとがらせて「やってみないとわからないでしょ」と言い張って。
 本当に耳で聞いた音を、そのまま正確に書記できるようになった。

 美晴はしてやったりといったキラキラした瞳で。
「私と友達でいる間は、ずっと奏の曲を書いてあげる」と朗らかに笑った。

 その笑顔はとても綺麗で。
 ピカピカ光る太陽よりも眩しくて。
 ドキリと高鳴る心臓に、これは恋だと気がついたのに。
 美晴の笑顔が綺麗すぎて、ずっと友達だぞ、としか俺は言えなかった。
 あれからずっと、俺たちは誰よりも近い友達でいる。

 ふたりで作りだす時間。
 あふれてくる俺の旋律を、白い楽譜にうつしとる美晴の指先。
 紙をすべるペンのサラサラと流れるような滑らかな音が、ピアノの調べと重なって耳に心地よい。

「奏のピアノ、やっぱり好きだなぁ~この曲、いいね」
 ポツンと美晴がつぶやいて、うっとりとした表情で楽譜を見つめる。
 ほんのりと高揚した頬がやわらかそうで、その甘い色に触れたくなる衝動から俺は目をそらす。

 本当に好きなのは、美晴とすごすこの時間だ。
 友達以上、恋人未満の透明な空気は心地よくて。
 関係ごと壊れるのが怖くて、好きだと言えない。
 側にいることが当たり前すぎて、特別だと伝えることができない。
 できることは、白と黒の鍵盤に指を走らせることだけ。

 俺だけの曲。
 俺だけの旋律。
 俺にしか出せない音。
 口に出せない美晴への想い。

「いつでも聴かせてやるよ、友達だから」

 この曲に隠したのは俺の気持ち。
 好きなのはピアノだけだと、今日も俺は嘘をつく。

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