Making Twilight

花粉症クオリティで遊んでみた? 前篇

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 南の島で心静かに療養しませんか?

 そんなキャッチコピー付きの治療プランを碧が主治医から渡されたのは、一カ月ほど前のこと。
 南の島と言っても沖縄諸島のひとつで国内だったし、療養期間中の衣食住も保障されているうえに、お金も支払うという確約付きの実に甘い誘惑だった。
 そのプランを示されたとき、怪しいとは思わなかった。
 なにを思ったかと言えば。

 へぇぇぇ~療養という名の研究材料ですか?

 そう、妙に納得していた。 
 碧のアレルギー症状ってそれなりに珍しいようだ。
 食事や皮膚炎系は幸いなことに出ていないのだが、体内に侵入する花粉やハウスダスト系には気管支や粘膜が過剰反応を起こすのだ。
 鼻水・鼻づまり・目の充血なんてかわいいものではない。
 涙ボロボロ、くしゃみで呼吸困難、痰が気道を封鎖する。
 発熱・窒息・肺炎の危機にさらされ、ズーズーゼロゼロハーハーを繰り返すから、投薬がないと生きるか死ぬかレベルだ。

 ちっとも笑えない状況で、特殊活性炭繊維で織りなされた4重構造のマスクを常用しないと、投薬を受けてさえ生活そのものがままならない。
 食事だってちょいとマスクを持ちあげて隙間からパクリなので、食べた気が全くしない。
 まぁ、鼻が詰まっている時期は味覚そのものも鈍るから、味もほとんどわからないのだ。
 一週間は使えるという特殊なマスクも、一日で使い捨てしなければ呼吸困難になるから、医療補助がなければ莫大な金額になる。
 つけたからといってそれで完治するわけではないので、季節が通りすぎるのを地味に待つしかないのだ。

 そんなに辛いの? お医者行けば? なんてしたり顔で言われることもあるので、碧の脳内思考はガラが悪くなる一方だ。

 行ってなお瀕死のこの状態で悪いか?
 仕事? 働きたいよ、働けるものなら。
 少しましになる夏・冬にバイトを始めてもさ、ちょっと慣れたころに花粉シーズン到来でまともに続けられない。
 特に花粉量の増える春秋は頭がぼーっとするから集中力も欠け、ズビズバーッと鼻をかみながら親の脛かじりだ。

 せめて、気の毒ねって笑えるレベルだったならよかったのに。
 花粉量が増えていくごとに、ひがみ根性丸出しになって鼻水と涙の海に溺れそうになってしまう。
 鼻に詰まった声にしびれるとか、色っぽく感じるとか、熱っぽく潤んだ瞳にそそられるなんて、勘違いもはなはだしいお言葉をいただくと殺意すら感じていた。

 実行する気力体力を奪う花粉に、君たちは感謝するがいい!
 などと八つ当たり思考で殺伐と過ごせたら、それはそれで調子のいい日だったりするのが現状だ。
 本格的にひどい日には座ってさえ眠れないから思考が低下し、ひたすらボーっとしたまますごしてしまうのだ。
 死んでるように生きている、とはこういう状態だろう。

 そんな中で沸いた治療プランを、少しでも楽になるならと受け入れた碧をうかつと攻めるのは酷だ。
 スギ・ヒノキ花粉が島内には存在せず、空気そのものがクリーンに保たれている専用施設内で、お金までもらいながら長期療養できる。
 この苦しさが半減するかもしれない可能性に、碧自身がその決断を許した。
 睡眠と食の楽しみが奪われているのがかなり辛いから、疾患原因と隔離された状態で衣食住が保証されるなら極楽だ。
 療養のゴロゴロで給与代わりに似た現金がもらえるなんて、怪しくてもかまわないと思えるぐらい後がなかったのだ。

 出立当日。
 行ってきますと気楽な調子で碧は家を出た。
 ついたら電話するね~と家族に告げて、妙な気負いもない。
 飛行機に乗って那覇に行き、そこからヘリコプターに乗った。
 滑走路がないからセスナが使えないのだと言う。
 後から考えれば実に怪しいけれど、空港で同じ便に乗る人間が五人もいるので、まぁそんなものでしょとその時の碧は思ってしまった。
 鼻づまりで思考能力が低下していたから、正常な思考が回っていなかったせいもある。

 飛び立ってしばらくすると島影が少なくなる。
 なんだかおかしくね? と全員が思い始めたのはそのころだ。
 地味な迷彩塗装が施された大きなヘリコプターは高速で、どこにたどりつくのか不安でいっぱいになるころ孤島にたどりついた。

 青い海、そよぐ風。
 パンフレットの写真を飾っていた白い砂浜はなかったけれど、目を引くのは中央にある巨大な建物だ。
 断崖絶壁が島を囲んでいるので、そそり立つ崖のせいで船が使えなかったのだと、一目で想像がついた。
 マスクにゴーグルにと重装備だった五人は、最初から花粉と長旅の疲れのためにグロッキーだったけれど、困惑を深めてさらに言葉を失って無口になってしまった。
 のどかな景色には異質すぎるサナトリウムの外壁が、陽光に白くテラテラと輝いて目に痛い。
 前もって聞いていた話と目に見える景色は、あきらかに違っていた。

 この建物がサナトリウムに違いないだろうけど、どこからどう見ても怪しい。
 航空写真には映るだろうけど、ここ、どこ? なんて疑問がふつふつとわく。
 病院や研究所というより、秘密基地のようだ。
 ヘリがなければ出入りできず、人っ子一人寄せ付けない感じが、さらに秘密感を増している。

 そして怪しさ満点の状態を裏切らず、着陸はサナトリウムの建物の屋上だった。
 ヘリは碧たち五人を下ろすと「アデュー」の一言だけ残してさっさと去って行った。
 遠ざかるそのプロペラの音に、どうしてここに降りてしまったのか、後悔が駆け巡る。
 晴天続きの穏やかな日に、ヘリをチャーターしない限り脱出できない。
 説明されなくても少し考えれば辿りつくその事実に、残された五人は言葉もなく立ちすくんでいた。

 ヒュルリと風が通り抜け、残されたままの五人はゆるゆると顔を見合わせる。
 ちなみに体格も服装も隠しようもないので碧以外はすべて男だとわかるが、帽子・マスク・ゴーグルの着用のため顔はさっぱりわからない。
 鏡で見た自分の姿を不審者そのものだと思っていたけど、こうして密集していると犯罪者集団のようで物悲しくなった。

 さて、これからどうしよう?

 そんなと言いかけが出る直前、背後から。
「いらっしゃいませなのです~♪」
 妙に陽気な声がしてふりむくと、七~八歳ぐらいのメイド服の女の子がいた。
 顔立ちはかわいいけれど、青い髪に白い肌。
 くりくりした瞳の色は白金に似て、明らかに金属の光沢を放っている。
 言葉も表情も少女らしいのだが、まばたきのない瞳に感情は写らないのだ。
 白いフリルのエプロンはかわいいけれど、カラーリングが異質で人間からかけ離れていた。

「博士が待っているので、中へどうぞなのです♪」
 博士? 博士って何?
 ここ、一応は医療機関で、サナトリウムだよね?
 声に出せない疑問が脳内を駆け巡る。

 トコトコといった感じで歩きだし、扉の前でくるりと振り向く。
 何かが変だと怯えるよう一斉に後ろに下がっていた一同に、ニコニコとメイド少女が建物の中に入るようにうながした。
「私のことはオトちゃんとお呼びくださいね♡」 
 それはそれはかわいらしい笑顔だったけれど、テカリと光る金属の瞳が怖い。
 愛らしく優しい声が逃げ場のない堕落へ誘っているようで、悪魔の微笑にしか見えないのだった。

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