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短編集 恋の卵

初恋は二度くりかえす 最終話

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 あの時の私は若かったと思う。
 まぁ、高校生だしね。
 多感な時期なうえに、気持ちも不安定だった。
 好きな人の、別人への愛の告白を聞いて、失恋したとたそがれているなんて。

 いい思い出だ。
 二度と会えないのはわかっているし、会ってもわからないと思う。
 だけど彼に胸を張れるよう、私は前を向いて歩いてきた。
 角膜移植が成功しても、失敗しても関係ない。
 これからだって前を向くんだ。

 なんて決意を固めていたけど。
 あっさり手術は終わった。
 退院してもいいと言われたけど、一週間は毎日通うことになると聞いて、家が遠いので再び入院生活である。

 数日間は眼帯生活だ。
 今まで見えなかったから行動に支障はないけれど、やっぱり快適になるまでは時間がかかる。
 眼帯を外せても防御用の眼鏡もかけないといけないし、重いものを持ってはいけないとか、激しい運動はいけないとか、かなりの禁止事項がある。
 点眼も忘れてはいけないし、けっこう面倒くさい。
 
 昔のように、ふらりと中庭に出た。
 懐かしい。
 記憶の中と、寸分の差もなかった。
 物の配置も変わってない。

 なんだか嬉しくなって、ベンチに腰掛ける。
 ここで彼とよく話したな。
 泣き言もいったし、くだらない話もしたし、病院食がおいしいとかまずいとかそんな話もした。
 思い返しても、あの時間は幸せだった。
 失明した不安と恐怖に震えることなく、日常に戻れた瞬間だった。

 知らず微笑んでいたら、ピタリ、と頬に冷たいものがあてられた。
 キャッと思わず声をあげてしまう。
 足音も聞こえていたし、人が近づいていたのはわかっていたけど、頬に冷たい缶ジュースを押し付けられるとは思ってもいなかった。
 なにするの? と声をあげるよりも早く、その人は私の横に座った。

「久しぶり」

 その声に、心臓が止まるかと思った。
 よく通る静かな声。
 夢の中でしか聞けなくなった、懐かしい声。

「あなた……」
 それ以外の言葉が出ずに絶句している私に、彼はそっと缶を握らせた。
「オレンジジュース、好きだったよね」

 私はうなずけなかった。
 どうしてそんなことを覚えてるんだろう?
 また泣きたくなるからやめて欲しい。

 思わず泣きそうになって、必死でこらえる。
 移植したばかりだから、涙は傷に触る。
 必死でこぼれそうになった嗚咽を飲みこんで唇をかみしめたら、ポンポンと頭を軽くなでられた。

「時間があまりなくてね。君が退院する時、少しだけここに来て欲しいんだ」

 それだけ言って、彼は立ち上がった。
 ここで会ったことは内緒にしてとそっと耳打ちし、お大事にと残して急ぎ足で去る。
 忙しそうだった。
 あっという間の出来事で、これが夢だったとしても私は驚かない。
 むしろ、現実に再会するなんて、思ってもみなかった。

 いつ目が覚めるんだろう?
 そんな不安を打ち消すように、手の中で缶ジュースが冷たく自己主張していた。

 それから何度か中庭を散歩したけれど、彼には会えなかった。
 手渡されたオレンジジュースだけが彼の存在を証明していたけど、時間のない約束を信じ切ることはできなかった。

 はっきり言って、怖かった。
 彼の年齢も、顔も知らない。
 彼も眼帯や包帯で覆われた顔の私しか知らない。
 手術は成功して視界は取り戻したけれど、ごつい眼鏡で防御したまま、まだ見ることになれない。
 
 でも、時間は止まらなかった。
 あっという間に退院の時が来た。

 病棟や看護師さんへと挨拶して、親に少しだけ先に行くよう頼んだ。
 不思議そうな顔をしたけれど、ちゃんと中庭を目に焼き付けておきたいからと言うと、みんなが納得したように笑った。
 私の努力の歴史のように明るく送り出されて、ちょっぴり後ろめたかったけど、震える足で中庭に足を踏み入れる。

 幸い、青空が広がっていた。
 芝生と、レンガと。
 薔薇の生け垣や、花壇も配置されていて、とても綺麗な場所だった。
 見えないときは気がつかなかったけれど、私が思っていたよりも小さく感じた。
 暗闇は距離感を伸ばすのかもしれない。
 手探りで進んだ日を思い出し、胸が詰まる。

 いつものベンチに向かい、思わず足が止まる。
 そこにいたのは、白衣を着た人だった。
 明らかに若い男のお医者様で、年は私より少し上だろうか?
 小さな花かごをベンチに置いて、彼は私を見ていた。
 混乱する私に、彼は微笑みかけてきた。

「退院、おめでとう」

 その聞きなれた口調は、間違いなく彼だった。
 数年前に、ぼやきあって、笑いあった彼だった。

 患者ではなかったんだ。
 お医者さまだとは思ってもみなかった。

 動けない私に、彼は苦笑を浮かべた。
 小さな花かごを手に近づいてきて、私の手に渡す。
 彼の瞳の中に映る私は、迷子みたいな顔で途方に暮れている。
 優しげな面差しだけど、意志の強そうな眼をしていた。
 甘い花の香りが、これは現実だと強く示していた。

「また会えるかな?」

 え? と私は思わず聞き返した。
 頭がついていかないから、間抜けな返事しかできない。
 そんな情けない私に、想定内だといいたげな顔で、彼は言った。

「今度は、病院の外で」

 連絡先はカードに書いてあると、花の中を示す。
 かわいらしい四つ葉をモチーフにしたメッセージがあって、私は胸が締め付けられる気がした。

「だって、好きな人、いるんでしょう?」
 うん、と彼は恥ずかしげもなくうなずいた。
「今でも変わってないよ」
 それなら、と花かごを返しかけた私の手を止めて、かるく身をかがめて彼は私の耳元で囁いた。

「君のことが好きで、困ってる」

 鼓動が、爆発しそうになる。
 私のことが好き? 
 好きで困るって、確かにそう言った。
 喜ぶよりも先に、手を伸ばしてはいけない人を好きだと言った、あの日の言葉がよみがえる。
 嘘つき、と言いかけたけど、彼はクスクス笑った。

「だって、研修医が患者に、しかも未成年の女子高生に手を出すのは、れっきとした犯罪だろう?」

 ああなるほど。そういうことなんだ。
 納得すると同時に、今が現実味を帯びた。
 そっと手を伸ばすと、彼は私の手を取った。
 包み込むように暖かな手で私の指先を握る。

「君のことが好きで、好きで。好きすぎて、困っているんだ」

 聞き慣れない甘い台詞だけど。
 耳に馴染む静かな口調は記憶のままだ。
 目を向ければ、初めて出会う表情で、甘く優しく笑う人。
 
 いつだって、彼が私の初恋だった。


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