短編集 恋の卵

「そして、君に二度目の恋をする」  後篇

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 それから何回かは彼女と話したけれど、受験に追われてクラスメイト以上にはなれなかった。
 そもそも二月になると登校日が極端に減るし。
 卒業式の日にも、元気で、とは言えたけど、告白なんて思いつきもしなかった。

 俺も気持ちが不安定な時期だったから、気の迷いだと笑われるのが怖くて、誰にも話していない。
 俺に出来た精いっぱいと言ったら、なんとか手に入れた彼女の住所に、その年の夏に暑中見舞いを出したことぐらいだ。

 そう、年賀状と暑中見舞い。
 今でもそれだけが、俺と彼女を細くつないでいた。

 わかってる。
 彼女は元同級生から届く季節の挨拶に返信しているだけで他意はない。
 それでも、胸が苦しかった。

 中学を卒業してから一度も会ってないが、きっと今は大学生になっているだろう。
 大学受験に見事失敗して、浪人生活をしている俺とは違う。
 諦めると言うより、もともと始まってもいない恋だったから。
 これからも彼女とのつながりは、はがき一枚でいい。

 新年早々、切ない気分でたそがれていたら、目を開けたまま寝るなら自分の部屋に行ってと、母親から邪険にされた。
 入試が近いのに勉強でもすれば? と付けたされて、さらに気分がダウンする。

 悪かったな、浪人生で。
 確かに勉強しないとまずいけどさ。
 自分の見たいDVDを流すのに俺がリビングにいたら邪魔なだけだろ? 
 予備校に通うお金も出していただいているから、文句は言えませんがね。
 なんだかクサクサする。

 ふと思いついた。
 初詣に行こう。

 彼女から届いた年賀状を便りに、神社をサイトで検索する。
 後生大事に持っていた古いお守りにある名前の神社を探し出すのは、意外に簡単な作業だった。
 電車で数駅先だから、思いつきで出かけてもすぐだ。
 そのまま、神頼みしてくる、と言って家を出た。

 なんで今まで思いつかなかったのだろう?
 電車に乗り、地図アプリを頼りにすれば、一時間もかからない距離。
 高校在学中に父親が一軒家を買って引越ししたから、見える景色も懐かしいものだった。
 引越して、育ったアパートや地域から、すごく離れた気がしていたけれど。
 小じんまりした神社の鳥居をくぐりながら、俺はそのあっけない感覚に笑いたくなった。
 思い立ちさえすれば、こんなに近かったんだ。

 まばらに人影は見えたけれど、地元の人だけが参拝しているようだ。
 お孫さん連れらしいお年寄りや、今までコタツに足を突っ込んでましたって感じのドテラ姿のおじさんとすれ違う。

 だけど中には、俺みたいにキョロキョロとする受験生らしい姿もあった。
 ちょっとだけのぞき見ると合格祈願の絵馬が鈴なりで、他県の住所が書かれているものもあって驚いた。
 本当にご利益がありそうだ。
 知る人ぞ知る、なのかもしれない。

 よくは知らない神社だけど、勝負事には強いらしい。
 手水で手や口をすすぎ、神殿前で鈴を鳴らして手を合わせる。
 拍手の数も柱に張ってあった参拝方法を見ながらで、こんなときばかり神様頼みで悪いなぁとチラリと思ったのは内緒だ。

 少し考えて、後生大事に持っていた彼女のお守りを神社に返す。
 これのおかげで高校に合格した。
 気分的にずいぶん助けてもらったし、甘酸っぱい感情を呼び起こしもする。

 だけど、年賀状の仲だ。
 ひとつ前進するために、初恋からも卒業しよう。
 そんな気分で、古いお札やお守りが入っている箱に、彼女からもらったお守りを入れる。

 これで一区切り。それが妙にスースーして心が寒い。
 ぽっかりと胸に穴が開いた気分で、新しいお守りを買おうと社務所に足を向けた。
 が、そのまま俺は動けなくなる。

 鳥居をくぐって、着物姿の女性が歩いてきた。
 アイボリーのショールが葡萄色の着物の色を、さらに鮮やかに浮き上がらせる。
 普段着みたいな気楽な感じだったけど、黒い髪を軽く結いあげて、髪飾りはつけていない。
 だけどその顔は、まぎれもなく懐かしい彼女だった。

 小深田さん、と呼びかける前に、彼女は一度足をとめた。
 少し驚いている様子だったけど、口元に淡い微笑みが浮かぶ。
 そのまま俺のほうに歩いてきて、至近距離で見上げてきた。

「高崎君、あけましておめでとう」

 頭の中が真っ白になった。
 本物の笑顔の威力がすごすぎて、太刀打ちできるわけがない。
 おめでとう、とバカみたいにオウム返しする。

 中学生のころとは違って、軽く化粧をした彼女は綺麗だった。
 面影はあったけど一気に大人の女性になっていて、他愛のない微笑み一つに頭がクラクラする。
 しかも、すぐ側に立つと彼女からは花みたいに甘い香りがして、それがよけいに落ち着かない気分になった。

 ボーっとしている俺に彼女は何か言っていたけど、その意味を理解する前に俺から離れて、優雅なしぐさで本殿に手を合わせていた。
 指先一つまで神経が通った丁寧さに、本物の彼女だと実感する。
 ただ、真白なうなじが目に焼き付いて、視線のやり場に困った。

 鈴の音が、心を揺らす。
 シャンシャンと軽やかに、今の俺の心を揺らす。

 すぐに俺のところに帰ってきた彼女は、社務所を示す。
 誘われるままに肩を並べて歩いて、恰好悪いけど浪人生だって話をした。
 大人になった彼女があまりに綺麗だったから、照れ隠しに自分の事ばかり話してしまった。
 だからお守りを買いに来たと、言い訳みたいに聞かれもしないのにベラベラしゃべっていたけど、彼女は耳を傾け静かにうなずいていた。

 もともと目的にしていたお守りを買い、誘われるまま一緒におみくじを引いた。
 キラキラした表情でおみくじを引いているから、着物姿で大人びて見えた彼女が、一気に普通の女子大生に戻った気がした。
 女の子ってなぜか占いやおみくじが好きだよなぁ~と思いながら自分の卦を開き、そのまま血の気まで引いてしまった。

 凶だよ、おい。
 神様あんまりだ、と思って肩を落としたら、少し背伸びをして俺のおみくじをのぞいた彼女がクスリと笑った。

「高崎君、こういうのを信じるの?」
「ん~時と場合による、かな」
 今この段階での凶は嬉しくない。

「時はかかるが望みは叶う、になってるから大丈夫だよ?」
「まぁな~でも、今年も大学に落ちると、就職することになるから」

 今後の人生も、大きく変わってくるだろう。
 バイトで学費を補いながらの大学生活と、高卒で就職するのもどっちがどうとは言えないけれど。
 幸せなんてものは、通り過ぎてからでないと判断できないからさ。
 まぁでも通えるものなら、大学にちゃんと通いたいんだ。

 そう、と軽くうなずいて、彼女はクスクスと笑った。
 くすぐるような笑い方がなぜか心地よくて、俺は戸惑う。
 かっこ悪いところばかり見せているのに、なんだか肩の力が抜けてくる。

「なら、私と取り変えましょう? ここの神様は心が広いの」
 そう言って中吉の託宣が渡され、凶が手の中から引き抜かれる。
 自分のおみくじと俺のおみくじを取り換える際に触れた細い指先は少し冷えていて、それがこれは現実なのだとつげる。
 運を取り換えるってできるかどうかはわからないけど。
 その心遣いがありがたくて、胸がいっぱいになった。

 いいの? と問いかけると、うん、と彼女はあっさりうなずいた。
 凶ってこれから運気が上昇するだけだし、今は数を減らされているから出てくるだけですごく珍しいのと、何でもないことのように笑う。
 高崎君が希望の大学に受かりますように、と真摯な調子で付けたされる。

「今度は大丈夫。ここ、本当にご利益あるから」
 やわらかな微笑みが、俺の心臓を撃ち抜いた。
 もう、何も言えない。

 神様、と心の中で呼びかける。
 これがご利益なのか、どうかはわからないけど。
 あきらめたその瞬間に、初恋の人に再び出会ってしまった。

 そして俺は、君に二度目の恋をする。

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