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短編集 恋の卵

marry me?

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 除夜。
 薄暗い境内に響き渡る鋼の音に、私は日本に帰ってきたと実感する。
 空港に降り立った時よりも、高校を卒業して以来になる実家の玄関をくぐったときよりも、大みそかの夜に染みわたる青銅の音は懐かしさを呼び起こした。
 澄み渡るいい音だと思う。

 テレビで見るようなにぎわっているお寺とは違い、風に揺れる梢の音まで聞こえてきそうな夜なのだ。
 電車もない田舎だから、こんなふうに夜に人が出歩いているのも大みそかの夜だけだ。
 二十人ほどが一列になって撞きならすための順番を待っているので、私は最後尾に並んでいた。

 叩くのは百八つ。
 ひとり一回なんて、けちけちしたことは言わない。
 住職も歳だし年配者が多いから、私ぐらいの年齢だとどうぞどうぞとばかりに最後を勧められる。
 そして、残っている回数を思う存分撞きまくれるのだ。

 惑わせたり苦しめたりする心の働きを煩悩と呼ぶらしい。
 響き渡る澄んだ音色は、煩悩を打ち払う。

 小学生のころは眠い目をこすりながら自分の順番が来るのを待ち、ひとりではうまく持てない太い紐を父と一緒に握りしめた。
 大学受験の年にも日頃の鬱憤を晴らすがごとく、力いっぱい叩きまくったのも懐かしい。

 そう、今の私にも、この行事が必要だった。
 一年の締めのお約束だからではなく、心にたまった穢れや鬱憤をすべて打ち払い、新しい自分になるために。

 高校卒業と同時に留学した私は、ニュージーランドで学び、就職した。
 日本にはいつでも帰れるとか、自分のスキルを手放したくないとか、実家は山奥だから仕事がないとか、いろいろな言い訳をしながら異国を選んだ。
 ほんと、それだけで幸せなはずだったんだけどな。
 ふわりと脳裏に浮かんだ顔に、お腹の底にたまっている不服がうごめいた。

 大学時代から、付き合っていた人がいた。
 アラン。金色の淡い髪とエメラルドグリーンの瞳が、優しい面差しをさらにやわらかく見せていた。
 いい人だ。ほんとに、優しくて、穏やかな。
 そのぶん、結論を先延ばしにする気の弱いところがあって。
 それが私の持っている日本の空気になじんでいたから、なんだか居心地がよくて。
 外国人がはっきりきっぱりしてるって、決めつけちゃいけないんだって、彼と付き合って本当にそう思った。

 でもね。
 これからどうする? って私たちの未来に対して問いかけたとき。
 実家の牧場でそろそろ羊を飼わないといけないなぁって、会話が全くかみ合わないことは嫌だった。

 自分が実家へ帰る話や、いつごろになるのかは口にするのに、私との関係にはあいまいな言葉しかくれなかった。
 付き合いを続けるのか、別れたいのかすら、わからなかった。
 もともと燃え上がるような恋愛ではなく、穏やかな空気みたいな関係だから、もしかしたら永遠にどっちつかずなままかもしれないって、湧き立つ雲みたいに黒い不安がわいた。

 牧場は都市部から離れていたから、ついていくなら私は仕事を辞めることになる。
 牧場が軌道に乗るまで待ってくれと言うなら、仕事をしながら待ちもする。
 だからこその、これからどうする? なのに。
 百合の好きにしたらいいよ、としか言わなかった。

 ほんとにいいの? って聞いたら、うん、ってバカみたいに素直にうなずいて。
 なにも考えていないようなのほほんとした笑顔に、ポキンと心の芯が折れてしまった。
 わかったって私はうなずいて、さよならをアランに告げた。
 驚きに目を見開いたその顔を思い出すと、小骨が刺さったようにチクチクと心が痛い。
 友人たちがどんどん結婚していく中、のんびりして煮え切らないアランの態度に勝手に焦ったのは私だけど。
 仕事や祖国である日本や、指折り数えればいろんなしがらみが私にもあるのだ。
 その全部をポイと捨てれるほどの勢いは、年齢を重ねれば重ねるだけ失せていく。

 羊を飼うことが嫌な訳じゃない。
 見えない未来が嫌だった。

 本当に仕事も辞めて、私はそのまま日本に帰ってきた。
 思った通り田舎だとすぐに仕事もなく、肩身の狭い実家への居候生活だけど。
 両親は喜んでいるから、まぁいいことにする。
 育った場所なのに、まだ余所行きの気分だ。
 全部、全部、新しい暮らしになる。
 新しい一歩を踏み出すきっかけに、除夜の煩悩払いってふさわしいよね。

 ようやく、私の番が廻ってきた。
 最後尾だから、住職が止めるまで撞いて撞いて撞きまくれる。
 人のサイズよりも大きな青銅の塊を叩きまくるって、ストレス発散にもいいかも、なんて思うとワクワクしてきた。

 撞木を大きく動かして、力いっぱい叩きつける。
 硬く透き通った音が、空気を震わせて身体の中も突き抜けていった。
 音によって、身体の中の不浄まで清められる気がする。

 よかった、と思った。
 日本に帰ってきて、除夜にここに来て、よかった。
 もやもやや割り切れない気持ちまで、揺らして、叩いて、砕いていくような綺麗な音。
 身体ごと細やかに揺れて、溜まっていた不快が崩れ去る。
 こうして年末に地元のお寺で撞木のひもを握りしめると、キリリと気持ちまで引き締まる気がした。

 十回も撞くと日頃の運動不足もたたり、重い撞木なので息が上がってきた。
 想像以上に力がいるから、そろそろ他の人に代ろうかな?

 そう思いながら撞木を思い切り後ろにひいたら、力の緩んだ手からひもがすっぽ抜けた。
 あ、と思って慌ててつかみなおそうとした時。
 後ろから手が伸びた。

 大きな手。
 背の高い男のグローブみたいにしっかりした手が、シュルリとうごめく蛇みたいなひもをつかみ、綺麗に撞木を青銅の側面に叩きつける。
 冷えた冬の空気を震わせて、身体の芯まで響く澄み渡る音。
 ジンジンと心の奥底まで震えるその響き。
 驚いて見上げると、優しいエメラルドグリーンの瞳に出会った。

「アラン」
 驚きのまま、その名前を呼んだ。
 胸の奥が、キュッと鈍く痛んだ。
 忘れるつもりで、スッパリ切りとるつもりで、別れを告げて日本に帰ってきたはずなのに。
 会わなかったのはほんの数週間だったけど、顔を見ただけでなんでこんなに嬉しいんだろう?

 どうしてここに?
 そう聞く前に、アランは相変わらずののんびりした口調でつぶやく様に言った。

「忘れ物、届けに来たよ」
 コートの中から小さな箱を出し、私の目の前に差し出した。
 もしかして、なんて疑いようもなかった。
 蓋が開けられると、百合をモチーフにした指輪がきらめく。

「Will you marry me?」

 思わずにじんだ涙を、私は強いまばたきで隠す。
 アランは当たり前の調子で私の左手をとると、薬指に指輪をはめた。
 ぴったりと収まったプラチナが輝いて、ひんやりとしたその感覚が私にこれは現実だと告げる。
 夢じゃない。
 本物のアランで、本物のプロポーズ。

 悪びれない笑顔のまま、遅くなってごめん、と嬉しそうにアランが言った。
 百合を追いかけたくてもパスポートってすぐに作れないんだねぇと肩をすくめるのも、本当にいつも調子だから私も笑うしかない。
 まだプロポーズを受けるってうなずいてないわよ、と言ってやりたかったけど、そんな嘘が言えるはずもなかった。
 トウヘンボクでのらりくらりしてるアランが、こんな遠くまで追いかけてくるなんて思わなかった。

 軽くこぶしを握って、アランの胸をこつんと叩く。
「……バカ……」

 返事は? とアランはささやいてきたけど、今は無視をしておく。
 指輪は私の薬指におさまっているのだから、返事は決まってるだろうに。
 私が言葉を欲しがったときにはトウヘンボクにのらりくらりしていたのだから、少しは言葉をお預けにしたってかまわないよね。

 Yesと口に出すかわりに、私は思い切り撞木を叩きつけた。
 透き通った美しい音が響き渡る。
 ビリビリと空気が細かく震えて、天からの祝福のようだ。

 成り行きを見守っていた住職が穏やかな微笑みを浮かべて、そっと両手を合わせる。
 本職に拝まれてしまった。
 それがおかしいのと面映ゆいので、私とアランは思わず見つめあう。
 瞳の中にいる私たちは、お互いに微笑みを浮かべていた。

 少し手のしびれていた私に代わって、アランが除夜を仕上げる。
 人口の少ない日本昔話に出てきそうな田舎のお寺に、金髪の彼はちっともにあっていなかったけれどそんなことはどうでもよかった。
 鳴らせ、鳴らせ、と心の中で応援する。

 予感でも憶測でもなく。
 今から私とアランの、新しい暮らしが始まるのだ。

 ラストの一回は、二人でひもを握った。
 若い二人の初めての共同作業だな、とでも父がいたら冗談を飛ばしただろう。
 もうそれほど若くはないけどね、とかわいくない私なら答えるけど。
 このあとアランと実家に帰ったら、両親は一体どんな顔をするだろう?
 想像すると、おかしくてたまらなかった。

 響く、青銅の響きはどこまでも清らかで。
 意地っ張りの心を砕きながら、静かに打ち震える音色。
 魂が共鳴するように、身体の中まで突き抜けていく。

 百八の煩悩は年の終わりに祓っても、日々を重ねれば再びたまる。
 そう、苦痛も悩みもなくなることはないって、本当はわかってる。

 だけど。
 病める時も、貧しき時も、悩める時も、涙する時も。
 愛するあなたと手と手をつなぎ、共に歩むよき未来でありますように。

 A Happy New Year!

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蒲公英さま主催「かねのね企画」参加作品。
鐘の文字、擬声語は使わずに、除夜の鐘の描写を入れること。
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