Making Twilight

泣きたくなるのは間違いだ

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 宅配便で、箱いっぱいのリンゴが届いた。
 郷里を離れてからずっと続いている恒例だけど、思わず私は苦笑してしまう。

 ほんと、親って仕方ないなぁ。
 独り暮しなんだから、段ボール箱いっぱいに送られても困る。
 職場の同僚にでもあげなさいって言われても、田舎のおすそわけ文化が会社で通用すると思っているところが、やっぱり地域の差なんだろうなぁ。
 よかったらどうぞと持っていって何日も休憩室の机の上に残り、次第に艶を失っていくリンゴを見るのは辛かったりするんだけど。

 でも、と私は思いなおした。
 ミカンならもう少し手軽につまめたのにって笑っても、嫌がる人はいない。
 何年か続いていることなので、ひっそり楽しみにしてると言われたこともあるから、やっぱり明日は会社に持っていこう。
 最近、忙しくて会えなかった友達にも、久しぶりに連絡を取ってみようかなぁ。
 元気? って聞くだけだとなんとなく気が引けて、あのねって続く用事がないと連絡がとりづらいもの。
 いいよね、リンゴ。連絡を入れてもいい用事にしても。
 うん、そうしよう。

 開封するとさわやかなリンゴの香りが、ふわっと部屋いっぱいに広がった。
 売り物にするには形がいびつだったり、大きさが企画から外れていたり、出荷しても価格が落ちる物だけど、そんなのは味には関係ない。
 収穫したてのみずみずしい甘酸っぱさが、鼻孔から入りこんで私を満たす。
 食べなくてもその味の予想ができる、濃い香りだ。
 懐かしい、実家の匂い。

 ひとつとりだして、服の裾でごしごしと拭いた。
 ピンと張った深紅の皮が艶を帯び、室内灯の青白い光の中で艶々と輝いた。
 美味しそう、と思う。
 一口かじれば、間違いなく美味しいはず。

 少しいびつな赤いリンゴ。
 一口かじると、シャクリとした食感が口いっぱいに広がる。
 ほのかな酸味があって、蜜のはいった甘さを引き締めていた。
 白い果肉からわきだす果汁が、深紅の皮をツウッと伝って手のひらにまで零れ落ちてくる。

 間違いなく、我が家のリンゴだ。
 正月に帰るたびにそろそろやめようかなぁと話しているのを聞くけど、やっぱり大切な木だからと育て続けているリンゴ。
 誇っていいと思えるぐらい、美味しいリンゴなのに。

 なぜだろう、視界がぼやけた。
 かみしめるたびに、涙がにじんで胸が詰まる。

 今の生活は好きだ。
 田舎に帰ったからといって、リンゴ農家なんて私に維持できるとは思えない。
 だからといって、祖父母だけでリンゴを育てるにも限界がある。

 いつまでこのリンゴを食べれるのかな?

 そう思っただけで、気持ちがグラグラするなんて。
 今の生活を捨てる気もないくせに、ずっと続けと都合のいいことを願ってしまった。
 そんなの簡単じゃない。
 まだ大丈夫だと言われても、ずっと大丈夫なわけじゃない。

 リンゴの甘酸っぱさは、いつか思い出の中にしか存在しなくなってしまう。

 その現実に、打ちのめされてしまう。
 こんなにリンゴのこと、好きだったっけ?
 わからない。ただのホームシックかもしれない。
 急に押し寄せてきた感傷を、甘酸っぱさと一緒に急いで飲みこんだ。

 こんなに甘くておいしいリンゴなのに。
 自分を変える気もない私が、泣きたくなるのは間違いだ。


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にゃん椿3号へのお題は『泣きたくなるのは間違いだ』です。 http://shindanmaker.com/392860
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