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Making Twilight

破滅の姫 ~ mother 2 ~

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 嫁いでから初めて出る城外。
 そこに想定していた夜空は見えず、打ち捨てられて久しい小屋の中で軽く驚いた。
 城からさほど離れていない場所なのは確かだろうが、壁がところどころ崩れ落ちている。
 薄暗いさびれた様子の小屋は埃っぽいが、通路よりも冷えた空気に満ちていた。
 そのまま小屋の扉を開けて外に出る。
 なんとか役目をはたしているちょうつがいが、鈍い音を立てて闇にきしむ。

 まだ暗い夜空が視界に広がると同時に、スッと頬を涼しい風がなでた。
 気配はなかったのに、影に似た静けさで座っている人がそこにいた。
 驚きに一瞬身体がこわばったが、その顔を見てほっとした。
 扉の横に座って目を閉じているのは、見知った人物だった。

「老師」
 思わずつぶやくと、老師は静かに目を開けた。
「久しいが息災で何よりだ」

 穏やかな声音に、私は自嘲的な笑みを浮かべるしかない。
 我が子が破滅の子で殺されると言うのに、息災と呼べるのだろうか?
 思わずこぼれそうになった否定を、強く首を横に振って振りはらう。
 今はそんな議論をしている場合ではない。

「この子を、お願いいたします」

 すやすやと眠っている私の姫を、そっと老師に差し出した。
 老師はそれまで抱いていた小さなおくるみを地面に置き、私に眼差しで示す。
 それが何か理解して、触れるのをためらっている私を尻目に、老師の動きは淡々として素早かった。

 老師は私の手から姫を受け取ると、手早く服を脱がせる。
 私はためらいながらも、老師が連れてきた生まれたばかりの赤子の遺体に、脱がされた上等な服を着せていく。
 真新しい赤子の死体に、胸に不安が湧き上がる。
 確かに身代りは必要だけど、どこかで泣いている母親がいる気がして、チリリと胸を刺した。

「この子は?」
「貧しい農村では、口減らしなど珍しくはないのだよ」
 思わず問いかけた私に淡々とそう答えると、老師は着替えを済ませた姫を片腕でしっかりと抱いた。
 私が次いで問いかける前に、スッと立ち上がる。

「では、これで」
 そのまま身をひるがえそうとするので、私はハッとして呼びとめた。
 左腕から青い石をあつらえた細い腕輪を外し、すやすやと眠っている姫の腕にはめる。
 出自国にいる遠く離れた老師に、窮状を伝えたのもこの石の持つ力だ。
 魔法のかかったその腕輪は見る間に大きさを変え、赤子の腕で当たり前のようにキラリと光を放つ。
 
 問いかけるような老師の眼差しに、淡く微笑んで見せた。
「もう、私には必要ありませんから」
 幾度か瞬きしたものの、老師は何も言わなかった。

 見つめ返してくるのは、感情のうかがえない強い眼差しだったけれど。
 もしかしたら、不憫だと言いたかったのかもしれない。
 国のために見知らぬ異国へ顔も知らない王の元へと嫁ぎ、我が子と親としての情も交わせないまま、別れる選択しか用意されていない。
 そう。落ち延びさせたことが露呈した場合を想定し、追跡の手段を減らすために姫の名すらつけていないのだ。

 一度だけ私に深く頭を下げると老師は背を向けて、姫を抱いたまま足早に歩き出す。
 淡い月光の中、遠ざかる背中をただ見送った。
 姫を託した時には非常に大きく見えたけれど、ざわめく風にはためくマントが翻弄される木の葉が重なり、思わず身震いしてしまう。
 掻き立てられる不安は、夜が見せる紛い物の未来だと、震える胸に手を置いた。
 黒々と浮き上がる暗い木々にまぎれて、すぐに見えなくなってしまう。

 もう会えない。
 ひとりになるとその現実が恐ろしいほどの重みで迫ってくる。
 けれど、唇をかみしめて耐えた。
 
 老師は祖母の代から王家に使え、裏方を取り仕切ってきた剣士だ。
 確かに老齢ではあるけれど、現役を離れた今も壮年のころと変わらないと聞く。
 彼に守れぬならば、他の誰にも守りきれないだろう。
 我が子に名前を付けることも許されず、他人に託すしかない我が身がふがいなかった。

 零れ落ちそうな涙をこらえるために、自室へと戻る前に空を見上げる。
 私のかわりに今にも泣き出しそうな分厚い雲が、空を一面覆っていた。
 こぼれそうな涙のかわりに、深い息を細く吐きだした。
 雨の匂いを含んだ風が、スルリと頬をなでて過ぎていく。
 これでいいのよ、と何度も自分に言い聞かせた。

 命を長らえるためには、手放すしか方法がないから。
 これが母としてのエゴだとわかっているけれど。

 あの子は生き延びたとしても、勝手な大人の都合で翻弄されるだろう。
 悩み苦しむ時間を、あの子に与えただけかもしれない。
 どんなに言い訳しても、名前すら託した現実は変えられない。
 私はあの子を産んだのに、母らしいことは何もしてあげられない。

 だから。
 たとえ二度と会えなくとも、さみしい……なんて言わないわ。


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