風の顎(かぜのあぎと)

第七話

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 どこまでも深い奈落も、二人で落ちるのなら怖くなかった。
 オウルは腕の中のベルを見た。
 見つめ合い、思わず笑みがこぼれた。

 態勢を維持できずにキリキリと身体は回ったけれど心は穏やかで、ほんのりと温もりが胸に満ちる。
 ベルを美しく飾っていた花がちぎれて、あっという間に闇に吸い込まれて消えた。
 編み込まれた長い髪がほどけて風にあおられ、闇の中でほのかに光って見えた。

 逝くときは二人一緒だ。
 このまま地面にたたきつけられるのだろうと、その瞬間を想像してベルを抱く手に力がこもった。しがみつく手が暖かくて、頼りなかった。

 助けたい、と初めての感情が不意にわきあがる。

 ずっと一緒にいると願ったのは、一緒に死にたいと同じ意味ではなかった。

 微笑んで、パンを分け合い、手をつないで家路をたどるような。
 ささやかな時間をもっともっと過ごしたい。

 ただ、それだけなのだ。

 ベル、と呼びかける。
 僕は、君と一緒に生きたいんだ。

 応える響きが頭の中に響いた。
――私も一緒にいたいの!

 互いに、何か特別な物を求めている訳ではなかった。
 ただ側にいて、想いを分け合えたらいいのに。

 そのとき、オウルは異変を感じた。
 背中が熱い。
 痛みに似た熱が、背中を焦がした。

 ビクン、と身体が跳ねる。
 体中の血が、沸騰しそうだった。
 燃え立つような何かが、血管を通して体内を駆けめぐっていく。
 集まっていく何かが、開放を求めていた。

 理由のわからないわき上がる熱に、思わずベルを抱く腕に力がこもる。

 二人を中心に、輝きが生まれた。
 オウルに自らの力を分け与えようと、ベルの瞳も青く燃え盛っていた。
――オウル!
 ベルの叫びを感じると同時に、背中に強い痛みを感じた。

 バッと鋭い音を立てて、幾筋もの鮮血が空に飛び散る。
 薄い服の布地を引きちぎりながら、白金の大きな翼が闇に広がった。
 ずっと眠り続けていた翼の種が、この瞬間に発芽したのだ。

 強く輝きながら光る翼が風を受けてきしみ、二人の体は空に向かって巻き上げられた。
 天空へと噴出する風からなんとか逃れた。
 何が起こったのかすぐに理解はできなかったけれど、オウルは強い風を受ける翼の痛みに、これが夢ではないことを知った。

 気を抜くと、キリキリと回転しそうになる。
 オウルは何とか態勢を立て直すと、生まれたばかりの翼を広げた。
 ほんの少しでも油断すれば、翼が根元から引きちぎられそうだった。

 落下するのは止まっても、この奈落を飛べる者などいないという司祭の言葉がよみがえる。
 嘘ではないと示すように、強い風が荒れ狂っていた。


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