Making Twilight

「夜の橋 3」 もしくは 『顎までしか届かない』

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 今宵も月がのぼる。
 妖しく染まる赤い月が。

 貴方は今日も夜の橋に向かう。
 右手に一振りの剣を携え、ただそれだけを相棒にして。
 貴方が倒れれば、次の主に剣が託される。

 異界からやってくる魔物を倒すのが貴方の役目だから。
 おまえに会うのもこれが最後かもしれねぇな、なんて。
 軽く笑ってから歩き出す背中は、いつも迷いすらなく振り返りもしない。

 それが悔しくて、悲しくて。
 魔物ではなくあたしを見てほしくて。
 夕焼けを背に準備をするあなたに、剣の次の主はあたしよって、告げた。
 確かにあなたは父さんとそれほど変わらない歳の大人で、私は体格も未熟な未成年だから。
 相手にされないのは、充分承知しているけど痛いばかりだ。

「バカ言ってんじゃねぇ、おまえ、歳を考えろ。それに女の仕事じゃねぇ」

 そんなふうにおでこを指ではじかれたけど。
 もう15歳よ。子供じゃないわ。
 頼りないお譲ちゃんでもない、ひとりの女よ。

 戦えないと決めつけないで。
 貴方がその剣を持ったのと同じ歳でしょ?
 教えてよ、そいつのことを。
 貴方が挑み続ける、魔性の女について教えてちょうだい。

「ガキがいっちょ前の口をききやがって」
 そんなふうに毒づきながら、貴方はくわえていたタバコの煙を吐き出す。
 ふぅっとわざとあたしに煙を吹きかけるから、眉をしかめながらも必死でこみ上げる咳を飲み込んだ。

 私はもう、子供じゃないわ。
 強い想いを瞳に込めて、貴方をにらみつける。
 届かないとわかっていても、想うぐらいは許されるはずだ。
 
 ハニームーン。
 
 魔物のことを貴方はそう呼ぶ。
 異界から人の行き血を求めてやってくる魔物のことを、どこか愛しげに眼を細めながら語るのだ。
 その戦いの詳細も。
 今まで体感した技も、間合いも、息遣いまで。
 語られる過去の時間すべてはあの女のもので、貴方の命に等しい想いだった。

 憎らしいわ。
 赤い月に導かれ、異界から現れる女。
 貴方をこんなにも惹きつけている魔物。

 腹の底から湧き上がる憎しみと私の秘めた想いに気付きもせず、貴方はゆらりと立ち上がった。
 ゆったりとした動作で、タバコをもみ消す。

「そろそろ行くわ」
 たったそれだけで背を向けようとするので、あたしは走り寄る。
 両手を伸ばして、グイッとその襟元をつかんだ。

 驚いた顔の貴方が身を引く前に、両目を閉じてつま先立ちになる。
 唇が、その顎に触れた。
 小鳥の羽根が触れるよりも軽い口付け。

 ああ、私がどんなに背伸びしても、貴方との距離感そのままなのね。
 顎までしか届かない。

 思わずため息をこぼしたのは、私なのか貴方なのか。

 貴方に会えるのはこれが最後になっても恐ろしくはない。
 一度もあたしを見なかったことは、悲しいけど。
 精いっぱいの顎へのキスも、その表情でなかったことにされたのがわかる。

 スッとあたしから離れて上着を羽織ると、貴方は何も言わずに背を向ける。
 深紅の夕日に照らされ溶けていく背中に、あたしはかける言葉すらなかった。
 血の海に似た赤い空が、禍々しい夜の到来を告げるようだ。

 ただ、強く誓う。
 ハニームーン。
 貴方を惹きつけてやまない魅惑の女。

 殺してやる、いつかあたしが。


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