短編集 ちょっぴり異世界

「たかい たかい」 後編

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「そういえば、ランディ殿はおいくつですか?」
「ディーン殿と同じで、もう少しで三歳になる」
「おやおや、それでは成人したあかつきには、恋敵になるかもしれません」
「ずいぶん先の話ですが」

 そうそうずいぶん先の話だと、ニコニコと笑いながら二人はうなずきあった。
 どこか嘘くさい笑顔になったことは、この際は触れないことにする。
 喰えない奴だなぁとお互いに思いながら、知らん顔を作っていた。

 そのとき。
 一瞬だけ、窓の外を小さな影がよぎった。

「……今、何か見えませんでしたか?」
「チラッとですがね……」

 下から上に投げられた何かが、高速で下に落ちた気がした。
 ちなみに、二人がいる部屋は三階である。
 もしかして、とデュランが眉根を寄せて立ちあがった。

 窓の外。
 目の前で、ピュウッと小さな影が高速で空へと消えたが、すぐに下へと落ちていく。

 中庭の子供たちが、妙にはしゃいでいた。
 先程までとは、明らかに声の調子が変わっていた。
 窓の外を覗いたデュランは、ああやっぱり、と肩をすくめた。
 なにか? と横に並んだギルバートは、外を見て絶句した。

「……」
「帰ったらすぐに、応接室に来いと言っておいたのに」

 なにをやっているんだか。
 子供たちに囲まれて、そのままガラルドは遊んでいる。
 なにしろ、普通を知らない男である。

 高い高いをねだられると。
 襟首のあたりをひょいとつかんで、子供を空に向かって放り投げていた。
 ポンポンとボールのように天高く投げられた子供たちは、ちゃんと受け止められて豪胆にもキャッキャッと笑っている。
 青空に吸い込まれそうなほどドビューンと音を立て、天高く小さな身体は舞い上がっていた。

 ガラルドとの遊びも初めてではないし、それが子供たちには当たり前の遊びとして定着しているので大喜びだった。
 次をねだって、ガラルドの足元に取り憑いている。

「ああ~また、あんなことをして。この前コテンパンにやられたばかりなのに……奥方に怒られても知らんぞ」
 ブツブツとぼやくデュランの横で、しばらく呆然としていたギルバートは大爆笑する。
「いや、怖がる子が一人もおらんとは! なかなか豪胆なのがそろっている!」
 屋根よりも高く放り投げられて、全員が遊び気分なのだから大したものだ。
 大喜びなのだから、そうとう図太い。

 ガチャッと窓を開けて、ギルバートは顔を出す。
「ガラルド殿、私も混ぜてください!」

 言うや否や、窓からポンと跳び下りるので、デュランは肩をすくめた。
 ギルバートは由緒正しい生まれの、生粋の伯爵様のはずだが。
 ガラルドの友人にピッタリかもしれない。

 せめて扉を使いましょうよ、と口の中でつぶやいた。
 庶民的な物が好きで気さくな人物だとは知っていたが、まさかガラルドと同じようにやんちゃなところがあるとは。
 まぁ、子供をボールのように投げあっても、あの二人が手を滑らせて地面に落とすことなど、絶対にない。

 少し風変わりでハードかもしれないけれど。
 遊びとして割り切ればいいのだろう。

 ただ、そう思わない人物がいるのも知っていた。
 買い物に出ている、ガラルドの奥方である。
 相手が誰であろうと、臆することなく説教を垂れる。
 だからこそ、破天荒で奇天烈な英雄思考の男を操縦できるのだが。

 自由気ままで自分本位なガラルドなど、反論をする隙をあたえず、見事な手際で毎回コテンパンにやっつけていた。

 まだ三歳にも満たない子を、五階建ての建物の屋根よりも高く投げ上げるなど、どこまでバカなスットコドッコイなの! と先日も怒り狂っていた。

 ガラルドの記憶は鶏並みだと思いながら、デュランはそそくさと窓を閉めた。
 そろそろ、奥方が買い物から帰宅するはずだ。

「知りませんよ~伯爵殿。大将の奥方は、世界最強の御婦人だからね」
 聞こえないとはわかっていても、そうつぶやいた。
 ポンポンとボールのように子供たちを投げて遊ぶ、二人のたどる結果は簡単に想像できた。
 デュランは心の中で合掌するしかない。

 君子、危うきに近寄らず。

 かくして。
 キャッキャッと子供たちの笑い声が響く中庭が静まり返り。
 フライパンを手に現れた奥方の説教タイムの始まりに、大きな肩書を持つ男二人が仲良く肩を並べて土下座するのも。
 このすぐ後のことだった。


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