短編集 ちょっぴり異世界

「たかい たかい」前編

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ある晴れた日。
グラン家の応接室にて、二人はお茶を楽しんでいた。
一人はデュラン。
東の剣豪を支える要の一人である。

もう一人は、ギルバート・ザトック伯爵。
 高貴な身分を持ちながらも若い頃には素性を隠し、戦場を駆け抜けた叩き上げの騎士である。
 二〇代も後半になって、伯爵家を継いだ現在。
そんな破天荒な行動は影を潜め、すっかり落ち着いて王国騎士団をまとめる立場に着任したばかりである。

「申し訳ありませんね。うちの大将は御存じのとおり、時間の概念がまったくありませんから」
 普通ならとっくに帰宅しているはずなのにと時間を気にしているデュランに、そんなことをよく知っているギルバートは快活に笑った。

 帰宅を待っているガラルドという男。
 英雄と呼ばれるのがダテではないほど、武功には優れた有名人である。
ただ、大雑把な上に直感で生きているので、約束があったことは覚えていても、それがいつだったかをコロリとよく忘れる。
 補佐を必ず一人はつけているが、そろそろ次の予定がありますからなんてサラリと次の行動をうながしても、細かいことは気にするななどと平気な顔でいる。
 今日は一番操縦の上手い副隊長が横についているはずだが、またどこかで油を売っているに違いなかった。

「なに、気遣いは無用です。もとより今日の訪問は、剣豪の御子息とわが愚息の顔合わせ。親の出番はない」
 ほら、と窓の外から聞こえてくる子供たちの声に、ギルバートはニコリと笑って見せた。
「確かに。子供には、子供の楽しみ方があるようだ」
 アハハッとデュランも声をあげて笑った。

 ゲームでもしているのだろうか?
 ガラルドの実子はディーン一人きりだが、自宅で養っている子供の数が一人や二人ではないので、中庭で遊ぶだけでも非常に盛り上がっている。
 楽しそうな笑い声が、時折はじけたように響いた。
 ランディのあんな子供らしい笑い声を聞くのは初めてだ、とギルバートは目元を緩めた。
 貴族の館では、遊び相手を見つけることすら難しい。

「ガラルド殿の私邸は賑やかですね」
「あの厳つい顔で、子供が好きなんですよ。やってみたら子育てにはまったみたいなんでね。おかげでいろんな所から、簡単に拾ってくる。奥方もてんてこ舞いですな」

 籍を入れた養子は少なくても、身寄りを失くした子を身の振り方が決まるまで、一時的に私邸に保護している。
 現在、幼児から仮成人前の年齢の子供が、合わせて一〇人ほど保護されていた。

「懐が広い、ということでしょう」
「大雑把なだけですよ。三三歳にもなるのに、思いつきでしか動かない困ったお父さんだ。まぁ引き取るにしても、それなりに見る目があるから、今のところ問題は起きてませんがね」
「この先は、わかりませんか?」
 嫌な突っ込み方をする人だ、というようにデュランは肩をすくめた。
「わかりませんね、ジャスティ王の体調が思わしくない」

「私としては、流派の方々の王都在中を望みます」
 涼しい顔でギルバートはお茶を口に運んでいた。
 ただ、心中は穏やかではない物をふくんでいる。
 流派との協調を推進してきた賢王と呼ばれるジャスティ王と違い、次期国王である皇太子はあまりに利己的で愚鈍だった。

 王権と流派は、その基盤がまるで違うのだ。
 いつなんどき、相反する道を選ぶかわからない。
 だからこそ、歩み寄りを果たした現在は貴重でもある。
 そんなことは承知したうえで、デュランはニコリと笑った。

「まぁ、大将も同じ考えでしょう」
 だからこそ、遠征先で拾った子を簡単に自宅に連れ帰ったりする。
 定住する気があるから、ホイホイとお手軽に私邸へ養い子を迎えていた。

 ガラルド本人がそこまで考えているか、実際は怪しい。
 だが、王権と共に歩む気があると示すには、単純だが効果的な方法だった。

「残念ですね。ランディが娘ならば、ガラルド殿に差し上げたのに」
 その逆でもよかったかな、とギルバートは気さくに笑った。
 あんまり朗らかな表情だったので、その台詞を聞いたガラルドをそのまま想像して、デュランは眉根を寄せた。
 仲の良い親同士がお互いの子供の婚姻を望むのはとても普通の話だが、東流派の長と王国騎士団の統括騎士団長の間では、意味がまるで違う。
はたから見れば政略結婚でしかないだろう。

「そんなことを冗談でも口にすれば、正面から罵倒されますがね?」
「冗談か……冗談を言うような暇はないのに」
「本気なら、さらに危険だ」

 友人とまともに話もできん世の中か! とぼやいて、面倒事から逃げるために王都脱出を画策するぐらい、平気でしてしまう。
 そういう困ったところもガラルドにはあるので、冗談ならやめてほしいところだ。
 想像だけで寒くなったと思いながら、デュランは茶をすする。

「まぁ、子供同士が本当に好き合えば、子煩悩ですからねぇ。愛こそすべて、なんて言い出しかねない大将だから、まとまるかもしれませんがね」
ギルバートが養女でもいいからほしいなんて言い出さなかったことで、冗談に変えるつもりで微笑んだ。
「息子同士では、仕方のない話です」
 何もかもわかった顔で、ギルバートも微笑み返す。


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「英雄のしつけ方」の8~9年後の世界。
拍手先の小話というか、ネタばれと言うか。
ガラルドさんたちの子供の話を書きたい・・・・・
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