Making Twilight

「いらない愛」

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 真夏の太陽がいやがらせのように強く降り注ぐ。
 それでも樹木の多い公園内だと、木陰にいればそれなりに心地いい。
 風が吹き抜けるベンチに座ってくつろぐ、つかの間の昼休憩だ。
 
 ふうっと息をつく間もなく、どこからともなく彼女が現れた。
 あたりまえのように俺に近づくと、何も言わずに寄りそってきた。
「よせ、暑いだろう。夏なんだから、離れろ」
 きつく睨んでも、彼女は聞こえないふりをして俺にもたれてくる。

 ふわりとした体温が、俺の心臓をわしづかみにする。
 ここで甘い顔を見せるわけにはいかないと、ともすれば甘く緩みそうな心を奮い立たせた。

「いいか、勘違いするなよ。俺とおまえはただの通りすがりの仲だ。一度甘い顔をしたからって、バカみたいに毎日寄ってくるな」

 少し身をずらすと、彼女は初めて俺を見た。
 じっと見つめてくる透明な瞳。
 俺のいらだちなんてまるで気にしていない無垢さが怖い。
 いたたまれなくなって俺から目をそらす。

「俺の家には長い付き合いの奴がいるし、おまえの入る余地はないんだよ。匂いがついただけで大騒ぎするから、おまえとこうしてるだけでいい迷惑なんだ」
 どっかいってしまえと吐き捨てたけれど、こつんと腕に当たる柔らかな感覚に見下ろせば、艶やかな黒さが木洩れ日に揺れていた。
 何を言われても気にしていないと示すように、うっとりと眼を閉じている。

 バカ野郎、そんな幸せそうな顔をするな。
 お前の愛なんていらないんだよ。

 そう言って突き放したかったけれど、あんまり幸せそうに寄り添ってくるから、結局は許してしまった。
 無心に頼ってくるその重みが、俺の胸を締め付ける。

 結局、暑くて食欲がなかったから、買っていた鮭弁当を彼女に譲る。
 健康志向で、一応減塩の鮭だが、彼女には味が濃いかもしれない。
 それでも夢中でほおばっている姿を見ると、思わず口元がゆるんでしまった。
 心の弱い己を戒めながらも、やっぱりこいつを捨て置くわけにはいかないと、そんな思いがポツリと湧いた。

 昼はまだいい。
 人通りもあるし、それなりに快適だ。
 しかし、夜はどうだ?
 それでなくても物騒な世の中だし、何が起こるかわからない。
 こいつに帰る家はどこにもないんだ。
 だが俺の家にはすでに妬きもち焼きの古株がいるし、連れ帰ったとしても仲よくできるのか?

 どうする俺?

 迷っているうちに時間が過ぎてしまい、無情にも昼休みの終わりが近づく。
 このところずっとこんな調子で思い悩んでるな。
 そんな風に思いながら彼女を公園に残して職場に戻りかけたけれど。

 張り紙を見つけて、思わず足を止めてしまった。
 野良猫を駆除するための日程が張り出されていた。

 思わず空を見つめる。
 安全だと思っていた公園にも、彼女の居場所はなくなるのか。
 俺を見送っていた、青みがかったグリーンの瞳とつややかな漆黒の毛並みを思う。
 ちゃんと引き取り手が現れればいいけれど、駆除対象ならその後は殺傷処分かもしれない。

 昔の話を持ち出ししても仕方ないが、俺の家にいる不細工なミックスも元野良猫で、駆除対象だったのを引き取ったのだ。
 人間だったら昔話でわかり合うところだが、猫同士はどうなんだろう?
 まぁ、二人とも似た境遇だったから、案外うまくいくかもしれないしな
 ぶさかわのミックスよりも彼女は貰い手が現れそうな美猫だけど、幸運の星を持っていれば野良でいるはずもない。
 四の五の迷っている暇はなさそうだ。

 その日の夜、俺は彼女を家へと連れ帰った。
 ダメでもともと。彼女の愛らしさを駆除されてたまるか。
 しかし心配していたミックスとの関係は、意外なほど良好だった。

 お前ら、女同士だぞ?
 どうしてベタベタとくっつきまわって、いちゃいちゃしてるんだ?

 ブラッシングをするつもりで俺が近寄ると、ミックスの奴は警戒して彼女を隠す。
 彼女もそんなミックスを信頼しきって、俺に冷めた瞳を向けてくる。

 なんてことだ。
 甘い声を出すのはご飯の時間だけ。

 どうやら、俺の愛はいらないらしい。
 


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