Making Twilight

「夜の橋 2」 もしくは 「惚れたほうが負け、とはよく言ったもんだ」

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「ねぇ、遊びましょう……月が消えるまで」

 甘いささやきが鼓膜を震わせる。
 赤く艶のある唇からこぼれる柔らかな声は、ひどく場違いなものだ。
 
 キィン!
 鋼の打ち合う音も、空気を切り裂く音も鋭い。
 上段から振りおろされる赤い刀身をはじきざま、俺は刃を返し深く踏み込んだ。

 人にはない素早さで、ふわりと女は宙に身を躍らせる。
 その高さも優雅さも、楽しみに満ちた笑い声も。
 すべてが彼女を魔物だと示していた。

 長い髪も、白い肌も、つややかな唇も。
 出会ったころから少しも変わらない、美しい女。
 妖しく揺らめく赤い月とともに現れる魔物。
 初めて見たときには、かなり年上のお姉さんだと思っていたが。

「ちっとも変わらねーてめぇが悪い」
 そう毒づいてしまうほど、今ではきらめく若さで輝いて見える。

 残虐さと酷薄さを湛えた、赤い瞳。
 自分の美貌を知っているから、今日は新しいドレスなのよ、などと誘うように、スリットから伸びたしなやかな足を見せつける。
 チッと舌打ちするしかない。
 甘美な誘惑に俺の胸の奥が揺らぐのは、彼女が美しいからだ。
 だが、一瞬でもその美しさに惑わされれば、俺の喉は掻き切られるだろう。

 一度、俺は彼女に倒された。
 それこそ、初めて出会ったときだ。
 うふふ、と笑うあでやかさに、ほんの一呼吸だけ見惚れてしまった。
 その瞬間、視界は赤く染まり、俺の身体は冷たい地面に横たわっていた。
 何が起こったかわからなかったけれど、全身が痺れて指すら動かせなかった。

「こんなのつまらない……坊や、もっと強くなりなさい。私と遊べるほどに」

 もがきながら地面をかきむしる俺の手を取って、彼女は嫣然と微笑んだ。
 のぞきこんでくるその悪戯な表情は、駆け出しの俺にとって屈辱以外の何物でもなかった。
 放せ、と叫ぶ寸前の唇に、甘い吐息が触れる。
 優しくやわらかな感覚。
 それが口付けだと知ったときには、女は夜の橋から消えていた。

 記憶に焼き付いて離れない、初めての口付け。
 濡れた唇は、俺の血の味だった。

 あれからずっと、俺は赤い月が出るたびにここにくる。
 俺にとっては戦いで、彼女にとっては遊びの時間。
 命がけの逢瀬だが、夜の橋で彼女を待っている。

 あでやかな微笑みが、俺の闘争心を掻き立てる。
 骨までしびれる重い剣撃。
 繰り返されるギリギリの攻防。
 弾む息に、限界まで脈打つ鼓動。
 赤いハニームーンはどこまでも美しく、俺を惹きつける。

「戦うさ。俺の命が尽きるまで、何度でも」

 惚れたほうが負け、とはよく言ったもんだ。
 わき目も振らず、彼女だけを追い求めてきた。

 叩きのめしたその先に、二度目の口付けは俺から贈るだろう。


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椿へのお題は『惚れたほうが負け、とはよくいったもんだ』です。 http://shindanmaker.com/392860
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