喫茶ペロリストシリーズ

こっちみてよ」

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 夏だ。
 ミンミンと蝉がうるさく鳴いている。
 俺が喫茶ペロリストにマスターとして雇われてから、初めての夏。
 営業前の時間なのに、ウサギたちはだらしなく伸びている。
 うん、暑いからな。毛皮を着てるから、俺より暑いはずだ。
 などと思いながら、ランチの仕込みをしていた。

 個性的なオーナーたちは相変わらずゴーイングマイウェイのままだが、奇跡的に店はつぶれていない。
 やはり、珍しいウサギ喫茶であることと、コスプレ上等の話のネタが当たり前に転がっているからだろう。
 料理の評判もそこそこいいので、俺も自信がついてきた。
 新規の客だけでなく、地道に常連も増えている。
 マスターのおかげだよ、なんてオーナーたちから褒められて、地味に気分がいい。
 両手をあげて大喜びできないのは、オーナーたちが少々変わっているからだ。
 どうも世間一般の基準から離れているので、素直に喜べなかった。

 しかし、夏なのだ。
 あの暑苦しい着ぐるみ姿はお目にかからなくなった。
 フリフリのメイド服やネコ耳は現れても、ぬいぐるみがワサワサと動いているような視覚の暴力はなくなった。

 それに、暑さの苦手なゆえさんも椿さんも薄着になる。
 ふふ、と俺はひそかに笑った。
 性格や行動はともかく、めったに見れないほどの立派なあの乳を、毎日拝めるのだ。
 全体的にむっちりしているだけに、自己主張する見事な巨乳は隠しようがない。
 いいぞ、夏。
 
 まぁ、ちらちら見てしまうと「エッチ!」と言われるので、さりげなく視線を外しつつ、隙を見てチョイ見をするという高等技術を手に入れてしまった。
 いいじゃないか、見るぐらい。なんて堂々と言えないのが辛いところだ。

 そんな風に、すっかりペロリスト生活に染まっている俺の前を、不思議の国のアリスをモチーフにしてるワンピースを着た椿さんが横切った。
 手には宅急便の箱を抱えている。
 うん、かわいい女の子の恰好でいるから、俺も気分がいい。

 しかし。
 ふんふん♪ と鼻歌交じりに箱を開けた椿さんの手が、ピタリと止まった。
 とりだした納品書を、ジーッと仰視している。

「ねぇ、マスター。これって、水着って書いてあるよね?」

 そういえば、水着を買うとか言っていたな。
 いや、別に一緒に海に行ったりはしないが、それでも水着だぞ、水着。
 立派なあの胸の谷間を拝むチャンスじゃないか。

 いかん、妄想しているのがばれたら、エロ魔王認定されてしまう。
 ピラリとこちらに見せるので、ランチを作る手を止めて厨房から出ると、納品書を受け取った。

「確かに、水着って書いてるけど。なんだ、この、あなたにぴったり闇鍋水着って?」

 また怪しい物に手を出して……あきれる俺の前で、う~んと椿さんは悩んでいた。
 茶色の不透明な袋をほんの少しだけあけて、怖々とのぞいているのが嫌な予感をかきたてる。
「どう見ても、水着じゃないんだけどなぁ~とりあえず、これ、マスターのね」

 おい、俺のもあるのか?
 嘘だと言ってくれ、頼むから。

 しかし、手の中におさまった包みは、確かにメンズ表示だった。
 いらない、こんなものは。
 などと強気でつき返せない俺を、誰か笑ってもいいぞ。

 椿さん以上に恐る恐るその封を開けてのぞいたけれど、思わず取り落してしまう。
 言葉を失っている俺が立ちつくしているので、椿さんが拾って中身を見て、わー♪ と嬉しそうに笑った。

「よかったね~マスター! 日本男児らしいふんどしだ♪」
 きっと似合うよ~と言われても、喜べるわけがない。

 マスターがふんどしなら、恥ずかしくないかも!
 などというセリフが続いたから、めまいがした。
 ふんどし姿と並んでも恥ずかしくないってのは、どんな水着だよ?
 想像しただけで倒れそうだ。

 思わず机に突っ伏した俺の肩を、ツンツンと椿さんがつつく。
「こっち見てよ、マスター」
 えへ♡ などとかわいい声を出すから、新しい水着を着たのかもしれないけど、本能が見るのはよせと叫んでいる。

 しかし、いつまでも見ないままではいられないだろう。
 椿さんの「こっち見てよ」コールが激化する前に、笑ってやり過ごさなくては!

 固い声でもいいから、似合っているよと言うつもりだった。
 しかし、そんな決意は顔をあげると同時に、儚い夢と散った。
 見た目はどう見てもラッシュガード生地のTシャツだった。
 日焼けに悩むこともないから、それほど珍しいものではない。

 しかし。
 胸に燦然と輝く「ヘタレ」の巨大文字。
 立派に自己主張する見事な巨乳を、その三文字がドーンと太字で覆い隠していた。

「ちょっと恥ずかしいから、マスクとサングラスは必須だね!」

 おい、マスクとサングラスで顔すらわからないヘタレと、俺にふんどし姿で並んで歩けと言うのか?

 灼熱の太陽で、そろって脳が沸騰したと思われるだけじゃないか。
 マスターと一緒なら恥ずかしくないね♪ なんて喜んでいる椿さんが恐ろしい。

 本気でその姿で海に行く気か?
 俺も一緒に行くことになるのか?
 誰か嘘だと言ってくれ

 嫌だと言っても、泣き落としにかかる図が浮かんでしまう。
 いかん、どうやって逃げればいいかわからない。
 俺は声にならないため息を、空に向かって吐き出した。

 幸せって何だろう?
 この世から、夏は消えていい。


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貴方は椿で『こっち見てよ』をお題にして140文字SSを書いてください。
おや? 椿で……って私をキャラにするのね~なにやら入力を間違えた気がするw

 まぁ、椿で創作と言えば「喫茶ペロリスト」のマスターの卯月君の視点でしょう。
 自作からキャラを引っ張ります。←宣伝じゃないよw

http://shindanmaker.com/375517?
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