短編集 恋の卵

メロンクリームソーダ 第二話

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「今日はずいぶんおとなしいね」
 うん、と私は小さくうなずいた。
 言いたいことが胸のあたりで渋滞して、うまく出てこない。
 顔を上げると、高橋さんは私をそっと見つめて、ゆっくり話してごらん、と伝えるように微笑んでいた。

「不安になっても仕方ないか。進路を決めるのって、簡単じゃないよね」
 言葉を慎重に選んでいる穏やかな物言いに、キュッと胸を掴まれた気がした。
 確かに口実にしたけど、本当はそんなことを相談したいんじゃない。
 高橋さんがあまりに保護者の顔をしているから、はじけそうで行き場のない私の想いがそのまま唇からこぼれていた。

「あの……そんなに、不安そうに見えますか?」
 うん、と高橋さんは軽くうなずいた。
「君が不安なのか、俺が不安だからそう見えるだけか、わからないけど」
 軽く肩をすくめながらの言葉だったけど、理解するまでに少し時間がかかった。

「高橋さん……不安なんですか?」
 よくわからないことを言うので心底不思議がっている私に、ハハッと高橋さんは笑った。
 それはいつもと少し違って少年めいた感じで、私の緊張をほぐすためかも知れない思ったけど、おどけた感じの明るさにドキリとした。

「おかしいかな? これでも結構、聞きたくて聞けないことって、あるんだけど」
 私は見つめ返しながら、こうやってまともに目を合わせたのは、今日、初めてだなとぼんやり思う。
 私の不安はともかく、高橋さんが不安に思う理由って、なんだろう?

「たとえば……とか、その先を聞いていいですか?」

 うん、とうなずきながら高橋さんはテーブルに肘をつくと、組んだ両手の上に自分の顎を乗せた。
 仕事帰りだと証明するスーツ姿なのに、めったに見ない砕けた姿勢を取るから、私はどぎまぎする。
 そういう愛嬌のある上目づかいは反則だよ、なんて言いたいけど、言いたくない。
 溶けたアイスの隙間から、グラスの底に沈んだサクランボみたいに、私の気持ちはかき乱される。

「大学は自宅から通えるトコを狙うのかな~とか?」
「それ、さっき言ったと思うけど?」

 思わず目をパチクリしてしまった。
 わざとなのがわかる表情だけど、高橋さんってこんな人だったっけ?

「嘘か本当か、わからないだろう?」
「そんな嘘、ついてもしかたないです~頭がついていかないから第一志望は危ないけど、嘘なんてつかないもの」

「そっか。なら、遠くには行かないね」

 よかったなんて、声にならない言葉が聞こえてきそうな空白の時間に、なぜかいたたまれない。

 せっかく目をそらしたのに、高橋さんの視線を痛いぐらい感じた。
 動揺を隠そうとしてソーダに口をつけたけど、指先が震えてうまくいかなかった。
 ダメだ、きっと今、私、赤くなってる。
 期待しちゃいけないのに、心臓が勝手に速度を上げていく。


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