「喫茶ペロリストシリーズ」
あったかいハート

すべての人にメリークリスマス!

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 はてしない疑問を抱えたまま、俺は調理場へと戻った。
 黙々と洗い物を片づけていく。
 確かにめまぐるしい二日間だったが、心地よい疲れを感じていた。
 やわらかなオレンジ色のランプの灯りが、気持ちを緩やかに和ませていく。
 なんだかんだ言いつつ、充実してるよな、俺。
 しかも毎日笑っている。迷惑な笑いもあるけどさ。

 洗い物を片付け、厨房の確認をしてから、すっかり綺麗になったと満足する。
 そして、奥からこっそり隠しておいた包みを、カウンターの上に二つ並べておいた。
 かなり大きいけれど、今まで隠せてよかった。

 神出鬼没のオーナーたちは、疲れてるとかさぼりたいと口にしながら、明日も必ず現れるからな。
 大嫌いな掃除をするために。
 片付けの終了までがイベントだと言い張るから、律儀なんだよな、なんだかんだ言っても。
 明日は空元気を発揮して、モップスリッパをはいて店内をスケートリンクに見立てて遊ぶかもしれないが、そのぐらいは大目に見てやろうと思う。
 いや、雇われてるのは俺だけどさ。
 そんな二人だから、一日遅れのクリスマス気分でも喜ぶだろう。

 名前を書いたカードをよく見えるように配置して、俺は二階に上がった。
 階段を上がる時、想像してたより足が重かった。
 立ちっぱなしだったしな。
 自分が思っているよりも疲れているのかもしれない。
 今はまだ気が張っているけれど、明日の夜ぐらいに疲れのピークがきそうだ。

 ん? 時間差がありすぎるって?
 仕方ないだろう。
 それなりに歳をくったから、筋肉痛だって時間差で出るようになったんだよ。
 後生だからそれ以上は言わせるな。

 適当に風呂に入って、サッサとベッドにもぐりこむ。
 だが、すぐには眠りが訪れない。
 あれだな。まだ脳内が仕事中のままで、気が張っているようだ。
 自分でも驚くほど緊張していたんだと思いながら、意地でも寝てやろうと布団を深くかぶる。

 眠れない夜には深呼吸がいいと言ったのは、椿さんだったかな?
 故さんはちょっとだけ楽しいことを考えると言っていたような気がする。
 なんてことを思い出しながら目を閉じる。

 少し、うとうとしていたようだ。
 どこかでクリスマスソングが鳴り響いている。
 明るくて綺麗な曲だ。
 この二日間、ずっとクリスマスソングばかり聞いていたから、脳内でも無意識に演奏されるのかもしれない。

 なんて思っていたけれど。
 それは店内のBGMではなく、廊下から聞こえてくると気がついた。
 ん? なぜ、BGMと共に、鈴の音が?
 近づいてくる。
 幻聴ではなく、確かに音楽は近づいてきていた。

 不審すぎて、目が覚めた。
 起きあがるべきか、もう少し耳を済ませて様子を探るべきか。
 寝ぼけた頭で必死に考えてしまう。

 俺の部屋の前で、鈴の音が止まった。
 しかしBGMのクリスマスソングは途切れることなく流れている。
 幻聴ではなく本物の音楽だ。
 トントン、とノックの音がする。

 どうする俺?
 こんな妙な行動をとるのは、あの二人しかいないぞ。
 まさか自室で襲われるとは!
 何をする気だ? などと、背中を冷や汗が伝っていく。

 行動を決めかねているうちに、キィッと扉が開いた。
 そう、俺の部屋には鍵がない。
 まぁ、盗まれるような物もないから、今まで気にしたことはなかったけど。
 ホームセンターで買っておかなかったのは何故だと、激しく後悔した。

「こんばんは~サンタだよ」
「そしてトナカイたちなのです」
「プレゼントを届けに来たから、怪しい人ではありません」
 キッパリ。
 清々しいほどに言いきっているけれど、俺を怯えさせるには充分だった。

 うお、やっぱりオーナーたちだ。
 存在が充分怪しいから、その台詞は大きく間違っているぞ。
 疲れきって夢の国に旅立っていると思っていたのに、何の用だよ?
 しかし、今起きあがると確実に恨まれるから、寝た振りをするしかない。
 なんてことだ。サンタの猛烈アピールがこれほど恐ろしいとは。

「お待ちかねのかわいいサンタさんなのです♪」
「よい子にはプレゼントを配ってるよ❤」

 いらね~と叫びたくなったけど、誰も俺を責めないだろう。
 布団をかぶったまま息をひそめ、必死で魔除けの呪文を脳裏から引っ張り出す。
 頼む、サッサと満足して、この部屋から速やかに出て行ってくれ。
 俺の安眠はどこだ。

 ガタガタ震えることもできず、息をひそめる俺の枕元に、二人は忍び足で近づいた。
 枕元に、ポスッと軽い音がする。
 プレゼントを置いたのだろう。見なくてもそのぐらいわかる。

「メリークリスマス。暖かいハートをマスターに」
「メリークリスマス。暖かいハートに包まれてね」

 そっと響いた声は、ひどく優しかった。
 それこそ寝たふりをしているから、メリークリスマスと返せないのが、残念なほどに。

 しかし、油断するのは早かった。
「よかったね、マスターがぐっすり寝ていて」
「でも残念だったね、枕元30センチに、めぼしい物がないよ」
「ほんとにね~マスターの秘密がわかると思ったのに」
「エロ魔王じゃなかったみたい~なんにもないってことは無趣味なんだ」
「無趣味……34才独身で無趣味って、寂しいね」
「見るからに運が悪そうだもんね。暖かいハートで、きっと恋愛運もアップするよ」
「サンタさんに夢で会えたら、マスターにかわいい女の子をお願いしてあげるね」

 おい。勝手なことを言うな。
 年齢は言わない約束だろ、お互い様で!
 それに枕元30センチって。
 あれだな、椿さんが弟たちは万年床で枕元の手の届くところに、趣味の本やエロいビデオを置いてると、前に言っていた気がする。
 危ないところだった。
 見られてまずい物は、枕の下だ。俺の作戦勝ちだな。
 どうでもいいが、そのままUターンしてくれ。
 扉の外へ、速やかにゴー!
 心の叫びが聞こえた訳ではないだろうが、スッと二人がベッドから離れて安心した。

「おやすみなさい~よい夢を」
「モフモフに囲まれて、幸せな夢を見てね~」

 パタン、と扉が閉まる。
 クリスマスソングと鈴の音が廊下を遠ざかって、階下へと消えていく。
 すっかり静まってから、俺は深い息をついた。

 やれやれ、異様に緊張したぞ。
 などと思って布団の中で脱力したが、すぐに異変に気がついた。
 ポス、ポス、ポス、と軽く跳ねながら、足元から小さな物が俺の頭のほうに近づいてくる。
 おい、もしかして……ガバッと起きあがると、ビックリ顔で固まるぶちょーとごはんの姿があった。
 限界まで見開いた目と目。
 うさぎとベットで見つめ合う日が来るとは、今日まで思ってもみなかった。

 くっ、やっぱり、ウサギを持ちこんできたか。
 トナカイたちと「たち」を強調していた時に、気がつくべきだった。
 御丁寧にぶちょーとごはんには、トナカイの角が装着されている。
 まさかウサギにまでアイテムを付け足すとは、コスプレ魂を見た気がする。

 えらいぞお前ら、そんな余計なアイテムをつけられても耐えているなんて。
 ちなみに、ぶちょ―は世界最大のうさぎで、ごはんは光に照らされると銀色に輝くグレーの毛並みのうさぎである。

 勢いよく起きあがったせいか、しっかりと目覚めてしまった。
 せっかくうとうとしていたのに。
 ポスポスと小さく跳ねて俺に近づいてきたウサギたちは、元気出せよといいたげに手をペロペロしてくれた。
 ペロリストの名に相応しく、全ての衝撃を吹き飛ばして、ついデレてしまいそうな愛らしさだ。

 お前ら、実は人間の心も理解してるんじゃないか?

 なんて癒されながら、枕元に置かれたプレゼントの包みを手に取る。
 明日まで待つなんて、恐ろしいことはできない。
 現物を確認しないと、夢に見てうなされることだろう。
 何が入っていることやら……まともなものであることを祈るばかりだ。

 けっこうな大きさがあるが、軽い。
 なんだろう?
 まさか、ピンクの着ぐるみパジャマか?
 恐ろしい。
 いや、あの二人は力いっぱい嫌がったことは、絶対にしない。
 ピンクの着ぐるみのうさぎだけはあきらめたはずだ。
 だけは、と言うところがミソで、ピンクのサルはあり得るのが恐ろしい。
 首をひねりながら手早く包みを開ける。

 着る毛布だった。
 ブラウンの、着る毛布。

 まともだと思うだろう?
 俺も一瞬ホッとして、そう思った。
 しかし、すぐに俺は固まってしまった。
 野球ボール大のハート模様が、びっしりと背中一面に描かれていたから。

 これを俺に使用しろと?
 門外不出、室外に持ちだすことは、一生ないぞ。
 ピンク色のハートを、今日ほど恐ろしいと思ったことはない。

 暖かいハート……なるほど、暖かいハートかよ。

 ヒュルリ~と心の中を、木枯らしが吹きぬけて行った。
 俺のハートは北極点の外気と変わらない。
 誰かこの毛布を染め直して、単色にしてくれないかな?

 ふっ、しかしオーナー二人だって、無傷ではいられないぞ。
 この時間に活動していると言うことは、俺のプレゼントも開封したはず。
 あの二人が明日まで期待したまま、ワクワクと開けずに待つなんてことはできるはずない。

 簡単には持てないサイズの大きな箱に、甘い甘いワンホール・ケーキや焼き菓子、クッキーにマカロンなどを、これでもかと詰め込んでおいた。
 疲れた時に甘い物の誘惑を断ち切るのは難しい。

 この時間に思う存分甘い物を食べるとどうなるか、それは想像するまでもないだろう。
 俺の安眠を妨害した罰だ、太るがいい。
 ワンホールケーキ、どこまでお腹に収めたか、明日の朝、確認してやる。

 椿さんにはチョコケーキ、故さんにはフルーツタルトを仕込んでいる。
 ちなみにチョコケーキは故さんが苦手で、フルーツタルトには椿さんの苦手なパイナップルを目に見える形で使用しているので、お互いに分け合うのはムリだ。
 まぁ、あの二人なら後のことを考えず、喜び勇んでケーキに飛び付くだろうけどな。

 俺の大人気ない思考を読んだのか、ウサギたちがやれやれとあきれたように首を横にふった。
 お前ら、本当に賢いな。可愛いものだ。

 とにかく、だ。
 長い一日は終わった。
 オーナーたちも戻ってくることはないし、これで本当に終了だろう。
 朗らかで笑いの絶えない毎日を過ごせますようにと、俺は星に祈るのだった。

 全ての人に、メリークリスマス!


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