「喫茶ペロリストシリーズ」
あったかいハート

戦い終わった、その夜に

 ←ブーブー星人? →すべての人にメリークリスマス!
 最後の客を見送った。
 赤いテールランプが遠ざかっていく。

 普段は電車利用者が多いけれど、クリスマスの二日間はマイカー来店も多かった。
 お酒は提供していないので、別に気にする必要もないけどな。
 見た目に惑わされて道に迷うなよ。などと心の中でエールを送る。
 この辺りは県道や市道よりも農道が立派だ。
 電車もバスもあるちょっとした郊外で便利な立地なのに、田園も豊富でさりげなく僻地の条件も持ち合わせた、なぜか不思議な場所なのだ。
 不思議な場所だから、不思議な人が集まっているのかもしれない。
 それにしてもこれからドライブデートか……別にうらやましくはない、ホントだぞ。

 とにかく、喫茶ペロリストの戦闘は終わった。
 夜はすっかりふけて、吐く息も白い。
 そのまま表に出しているメニューボードを店内に入れ、クローズ表示をかける。
 実に心地よい疲れを感じていた。

 大盛況。
 繁盛。多忙。休憩なし。
 普段であればほとんど縁のない言葉が相応しい二日間だった。

 まさしくお客様は神様です。
 たとえ幸せ光線でまぶしかろうとも。
 自慢のウサギマシュマロもお土産に完売した。
 クリスマス仕様にウサギ2種類だけでなくハート模様も新作として作成したので、いつもより割高だったが、イベント限定品だと告げると飛ぶように売れた。

 無敵だな、クリスマスだけの限定品って。
 なにを見ても「かわいい」と言って盛り上がる女性におねだりされて、買わない彼氏がいるものか。
 出費の多いリア充たちの年末年始の財布に、軽くダメージを与えてやったぞ。
 ザマミロ、なんて言えるほどのダメージではないけどさ。
 その程度のむなしい優越感に浸るぐらいは許されるだろう。

 いかんいかん、どうにも自分に縁のないモノばかり見せつけられて、いつになく気分がささくれだっているようだ。
 それに疲れているのは俺だけではない。
「後は俺がしておくから、先に上がっていいよ」

 オーナー二人に声をかける。
 この二日間で貼りついた営業用の笑顔のまま表情が固定しているが、あきらかに疲労困憊している。
 まっすぐ歩いているつもりだろうが、ヨロヨロとして明らかに歩き方そのものが変だ。

 そもそも故さんは冬に弱いし、椿さんは体力がない。
 二人そろって、見た目に似合わず病弱でしょっちゅう寝込むのだ。
 健康の足りない部分を、脳内の妄想パワーで補っていると言っていい。
 この二日間の労働の間、元気に動き回っただけで奇跡だろう。
 バタンキューって、いつ倒れるか非常に心配だった。
 無事に終了して、何よりである。

「一人だと、大変だよ?」
「掃除も洗い物も、テンコ盛りだよ?」

 こんな時には、この二人らしいなぁと思う。
 よろしく~♪ なんて言って、さっさと帰っていくオーナーだったら、きっと俺も働く意思が激減していただろう。
 やると決めたことには手を抜けなくて、全力で取り組むから無駄に律儀だとも思うけど、そういうとこが気にいってるから仕方ない。
 ちょっとぐらい甘やかしてやりたくなる。
 俺も疲れているけど、自分の足につまづくほどじゃないしな。
「洗い物を片付けたら俺も休むし。ホラ、ウサギたちもぐったりしてるだろ? 今夜はそっとしておいて、掃除は明日にまわさないとかわいそうだ」

 あ、なるほどーと素直にオーナーたちはうなずいた。
 うん、ウサギを引き合いに出せば、納得すると思った。

 洗い物を手伝うよ~三人なら早いし、との申し入れは、丁重にお断りしておいた。
 だいたい足元だけでなく、手元も危ないのだ。
 皿を落として割られるのが目に見えている。

「気にしなくても、なんとかするさ。明日にまわせる物は明日するし。どうせ二人とも明日は動けなくなるだろ? 俺のできる範囲で片付けるよ」
 だいたい、二人の会話に付き合わされると精神的ダメージが増える。
 一人で黙々と仕事すれば集中できるしな。
 悪気はなくても、オーナーたちと会話しているとペースが乱れて、能率が落ちる。
 なんてことは、直接言うわけにはいかないけどさ。
 当たり前だが、俺の心の声は聞こえなかったらしい。

「マスター♥」
「ありがとう♥」
 カッコいいなんて、うるんだ目で感謝の言葉をつけたされると、気分がいい。
 イベントはいいな、二人とも可愛い女の子に変身している。
 心の中では邪険にしていたけど、それは永遠に秘密にしておこう、うん。

 今日の二人はバニーメイドさんだ。
 故さんは黒、椿さんは赤の少しデザインの違うワンピースメイド服だ。
 クリスマスらしい演出なのかショートボレロ付きで、フワフワの毛皮のブレスレットとアンクレットをつけている。
 違いと言えば故さんの衣装は胸元が詰襟だが、椿さんの衣装はホルターネックだ。

 特にホルターネックは目の御馳走で、じっくり見なくても椿さんの素晴らしい谷間がのぞいている。
 すごいな、やっぱり本物だった。
 うつむいても、やっぱり爪先が自分では見えないだろう。
 直視できないほど目にまぶしい巨乳なんて、クリスマスに感謝だ。
 いかんいかん、このまま見惚れていたら、エロ魔王認定されてしまう。
 残念だがそっと視線を外すしかない。

 俺の不審な視線には誰も気づかなかったらしい。
「そしたら、マスターは時間外労働になっちゃうね」
「明日はお休みのはずだったのに……」
 ごめんね、なんて殊勝な言葉を久々にもらった。
 よかった、時々勘が異様に鋭いからな。
 煩悩に満ちた思考を読まれる訳にはいかない。

「そのぶん、ボーナスでよろしく」
 軽い気持ちで付け足した台詞に、シーンとありえないほど重い静寂が落ちた。

 おい、そこでなぜ黙る?
 ブーイング一つないと非常に心配になるじゃないか。
 とか思っていたら、二人とも立ったまま目を閉じて、ユラユラと揺れていた。
 寝てる。なんて器用な。立ったままだぞ、おい。

 どうしよう? と思っていたら、二人ともハッ! と正気に戻った。
「今、異次元を見た気がする」
「星の海に溺れるかと思った」
 だろうな、とは言わずに「おやすみ」と告げる。

「疲れてんだよ。休んだ方がいい」
 うん、とオーナー二人は素直にうなずいた。
 いつもこうだといいのに、と思うほど殊勝な仕草で、後はお願いしますと頭を下げると、フ~ラフ~ラ揺れるように歩き出した。

「おやすみ、マスター」
「マスターも無理せず、早く休んでね」
 そう言い残すとなぜかテラスに続くガラス戸を開けて、二人してウサギ小屋に入っていく。

 なぜ、ウサギ小屋?
 家に帰るはずなのに、ウサギ小屋にどうして入るんだ?
 巨大な「?」が脳内を飛び回り、パタンと扉を閉めるまで無言で見送ってしまった。

 どういうことだ?
 俺は好奇心を抑えきれず、ウサギ小屋へと向かった。
 深呼吸を二つして、思いきって扉を開ける。
 いない。
 二人ともウサギ小屋からは姿を消していた。
 やっぱり、と言うべきか。
 消えてしまった、と狼狽すべきか。
 小屋の中を探しても、二人の姿は影も形もない。

 いるのはウサギたちだけで、怠惰に身体を伸ばしている。
 疲れた様子ながら、迷惑そうに侵入してきた俺を見るばかりだ。
「お前らに聞いても、わからないよな? オーナーがどこに行ったか、知ってるか?」
 我ながらバカなことを聞いてしまった。

 しかし、ウサギの反応はもっと変だった。
 俺と目が合うとフイッと視線をそらす。
 右に回り込むとフイッ、左に回り込むとフイッ、抱き上げると死んだふりと芸達者だ。
 なんてしらじらしい。
 俺の疑問を理解しているのか、聞かぬ存ぜぬを貫き通すしぐさにしか見えない。
 ウサギのくせに、こいつらってやけに賢いよな。

 それにしても、オーナーたちは、一体どこへ消えたんだろう?


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