「喫茶ペロリストシリーズ」
あったかいハート

ブーブー星人?

 ←初雪マジック? →戦い終わった、その夜に
「遠慮するよ。クリスマスのメニューも決めておきたいし、掃除もあるから」
 よし、ナイス俺。
 もっともらしい理由だし、掃除嫌いの二人だから「一緒にするか?」と誘えば逃げるに違いない。
 しかし、俺の想像は即座に裏切られた。

「掃除当番、変わるよ?」
「メニュー、一緒に考えるよ?」

 ありえない。
 この二人が純真無垢な調子で、こんなもっともらしいことを言うとは。
 怪しい。本当に怪しすぎる。
 何をする気なんだ、いったい?
 これで疑いを抱かない奴がいたら決闘してやる。

「……何を企んでるか聞いていいですか?」

 えへ♥ と二人は可愛らしいしぐさで、胸の前でそっと手を組み合わせた。

「私たちの夢、聞いてくれる?」
「ずっとなんていわないの。ちょっとだけでいいんだけどなぁ~♪」
「初雪のジンクス、マスターなら叶えてくれるよね!」
「女の子の夢を叶えるぐらい、朝飯前だよね?」
「私たちのお願いを聞いてもらうだけじゃ申し訳ないから、マスターのお願いも叶えたいの♪」

 クッと俺は心の中で呻いた。
 何が女の子だ。わんこと子供コスプレのくせに。
 やはりロクでもないことを企んでいたようだ。
 今ここで転移魔法が使えたなら、どれほど幸せだろう?
 可能ならば自室に逃げ、いませんよ~と叫んで、そのまま引きこもりたい。
 逃げることもできない現実が辛い。

「……聞くだけならな」
 ものすごく嫌な予感がするから、聞く前に却下するべきかとも思うが、とりあえず勇気を出してみる。
 そう、俺はしがない雇われ人だ。クビはなくても減給は嫌だ。
 妙だ変だと思っていても、オーナー二人は女の子だし。
 女の子のお願いを聞かずに断るほど、狭い心の持ち主だと思われたくない。
 なんて心持ちで、そのお願いを聞いてみたが、やっぱり後悔する事になった。

「一度でいいから、マスターもうさうさになりきって、一緒に戯れてほしいの」
「うんうん、もふもふで夜明けを待つなんて、ものすごく暖かいと思うし。それにね、うさうさに埋もれてると、幸せ気分になれるから♪」
「ハッピー・ペロリストで、年賀状も作成できるよ♪ ネット通信、目玉になるよね?」

 たっぷり30秒は呼吸をすることを忘れてしまった。
 とうとうこの日が来たか。
 俺にもウサギになれと……着ぐるみ星人の仲間入り要望が来るとは。
 しかも写真に撮って、年賀状にして配りまくる上に、ホームページにも掲載だと?
 オーナーたちの純真無垢なお願いを、これほど恐ろしいと思った日は他にない。

「却下! 強烈なブーイング、かますぞ」
 ここぞとばかりに、拒絶の意思を示しておく。

 しかし。
 わ~い♪ などとオーナーたちは実にご機嫌で、更に盛り上がってしまった。
「ブーブー?」
「ブーブー星人? なら、OKだよね?」

 おい、お前たちの耳は壊れているのか?
 却下の台詞すら、認識できなくなるとは。

「人類から引き離さないでくれ。なんでOKになるんだよ?」

 勝ち誇ったように、オーナー二人はのけぞりつつ胸を張る。
 そして「ビコーズ!」と、人差し指を同時に俺へと付きつけた。
 申し合わせてもないのに、まったく同じ動きだ。

「ブーブーはウサギ語で嬉しいの意味なのです!」
「ブーブーはウサギが嬉しいを表す、心からの喜びなのです!」

 あ、なるほど。
 確かにウサギをナデナデしたりブラッシングして、ご機嫌に気分が変化した時はブーブーと鳴いた。
 最初、ウサギのくせにブーイングするとは! と本当に驚いたのだ。
 まさか機嫌がいいとは。
 怒っているとしか思えかったのに。
 などと感心している場合ではなかった。
 俺はウサギじゃないぞ。

「都合よく解釈するなよ。ウサギ語なんて知らないからな」
 まったくもう、とため息をついて「暇ならウサギ小屋の掃除がありますよ」と、シッシと手を振って、もう相手にしないアピールをしておいた。
 俺と話したければ、掃除が完了してからだと背中で語っておく。
 オーナーたちに付き合っていたら、時間ばかりが過ぎて何もできなくなるからな。
 ヒドイ~冷たい~などと猛烈な非難を浴びたが、俺の知ったことではない。

「ウサギの着ぐるみ、似合うと思ったのに」
「ちゃんと男性用の着ぐるみパジャマ、ピンクを発見したのに」
 二人は未練がましく口をとがらせて、わざとらしい泣き真似を始めてしまった。

 ピンクかよ!
 突っ込みどころは違うかもしれないが、ピンクウサギになった俺を想像してしまい、倒れて寝込むかと思ってしまった。
 どうして耳にはふたがないんだろう?
 耳栓じゃ生ぬるい。イヤマフが欲しい。

「あったかいのにな~」
「かわいいのにな~」

 そんなに俺をウサギにしたいのか?
 うん、とうなずくのがわかっているから、絶対に聞いてやらないぞ。
 未練がましく訴えてくるので、実にうっとうしい。
「俺はかわいいなんていらないんだよ。同じ暖かいなら毛布の方がマシだ」
 どうせなら自室の毛布にくるまって、仕事もウサギも忘れて丸くなりたかった。

「毛布?」
「毛布で戯れるのもありだよ?」

 うお! ポソッともらした言葉に、それほど反応しなくていいから。
 力いっぱい否定しておく。
「毛布はあるから欲しくないぞ。嘘じゃないからな。それに世話以外でウサギと戯れたりしない」

「やっぱり着ぐるみだよね?」
「毛布よりあったかいよ? 持ってないよね?」
 たたみかけてくる二人に、俺はキッパリと言いきった。
「オーナー以上に似合う奴はいない。俺だと視覚の暴力になる」

 目に見えてオーナー二人はがっくりと肩を落とす。
 そうか、それほど俺を仲間にしたかったのか。
 ふっ、そのまま残念がっておくがいい。
 俺は人類から遠ざからないと決めてるんだよ。

「マスター、欲しい物、本当にないの?」
「私たちの初雪マジック、おすそ分けしてあげるよ? 幸せになれるよ?」
「クリスマスに一緒に過ごす可愛い女の子なんてどう?」

 可愛い女の子……思わず顔をあげた俺の目の前に、椿さんを差し出す故さんがいた。
 おい……違う違うと力いっぱい手を振って拒絶しているじゃないか。
 そこまでガクガクされると、♂絶滅希望中だとはわかっていても、なにげに傷つくんだぞ。やっとマスクやサングラス抜きで、まともに会話できるようになったのだから、こんな時にあおらないでくれ。
 だいたい日常は残念でも、女性服姿限定で椿さん(の自己主張する胸)には萌えているんだからな。
 アニマル時は論外だし、エロ魔王認定されるから、声に出したりしないけど。
 夏までには横に並べるように努力しているんだから、邪魔しないでくれ。
 いいな、夏。早く来るといいのに。薄着だぞ。
 実に楽しみだ、ここだけの話だけどさ。

 それにしても、今日に限ってやけにしつこい気がする。
 とにかくオーナーたちのおもちゃになるのはごめんだ。
 ここは現実を突き付けておくに限る。

「クリスマスは仕事だろ、仕事! 故さんもゆったりまったりパートナーと素敵なイブを過ごす、なんてできないから、覚悟しといてください」

 ブーブーとオーナー二人は猛烈に不満をアピールする。
 な~にが「マスターのムッツリ」だよ、関係ないぞ。
 それに俺はどこまでもオープンだし、ノーマルのストレートだ。
 黙る努力はするが、真正のムッツリではない。ホントだぞ。

 それにしても、ブーブーとうるさい。
 予想通りだ。

「そんなに嬉しいですか?」
 なんて、厭味ったらしく聞いてやった。

「喜んでるように見える?」
「嬉しがってるように聞こえる?」

 そう来ると思っていたぞ。
 飛んで火にいる飼い主とわんこちゃん、だ。

「ブーブーはウサギ語で嬉しくって喜んでる意味だろ?」

 よし、黙った。
 自分自身の言葉がそのまま返ってきたと、気がつく程度の記憶力はあったらしい。
 久々に俺の勝利だな。
 口の達者な二人に勝てるなんてめったにない事だから、非常に気分がいい。

 故さんと椿さんは無言のまま、わざとらしくよろめいた。
 そしてつまづいたふりをして床に転がった。
 シクシクと大げさな泣き真似で、二人はショックのアピールをしているつもりだろうが、正直に言って面白いばかりだ。

 これ、動画に撮ってTVに送れば、絶対に採用されるだろうな。
 かなりの臨時収入になりそうなのに。
 放映なんてされた日には、喫茶店に客も増えそうな予感が満載である。
 オーナー二人の観察コースを作れば、ウサギ・メインより儲かるのでは?

 ビデオ撮影のいけない誘惑と戦いながら、俺は本来の業務に戻った。
 そう。俺は来るべきクリスマスのために、リア充用のスペシャルメニューとレシピを考えていたのだ。
 サクッと決めて試食を提供すれば、オーナーたちも一瞬で立ち直るだろう。
 それにしても着ぐるみを勧められるとは思ってもみなかったから、異様に疲れてしまった。
 ハァ~と長いため息をもらすしかない。

「まったくもう……貴重な時間なのに。無駄な知恵を絞るぐらいなら、メニュー作るの手伝えばいいのに。ホント、思いやりに満ちた、暖かいハートが欲しいぞ」
 ブツブツと文句を言いながら手元のメモやレシピを集めていた俺は、オーナーたちがそっと目配せしあっていることに気がつかなかった。

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