「喫茶ペロリストシリーズ」
ようこそ、喫茶ペロリストへ!

最終話 ようこそ、喫茶ペロリストへ!

 ←第17話 ようこそ、喫茶ペロリストへ! 1 →ひとりよがり
 滝のような勢いで一気に語られ、俺は返す言葉を失っていた。
 褒めすぎだ。
 だけど、それってものすごく信頼されてる気がするぞ。
 というか、俺のことをそれほど信じるなんて、買い被りもいいとこだ。
 俺は二人が言うほどいい人ではないはずなのに。

 述べられた理由が意識せずに取った行動ばかりなので、やっぱり俺自身も素のままですごせる場所だと示されているようだった。
 こうして面と向かって言葉にされると背中がこそばゆくなってしまうけどさ。
 これって、俺の御都合主義の夢じゃないよな?
 二人が着ぐるみパジャマではないだけで、現実感が薄くなるのは何故だ?
 なんて不安はすぐに消し飛んだ。

「指長族も伊達眼鏡もイケボも魅力的だけどね」
「ついでに萌え台詞も覚えてほしいなぁ」

 うん、これはやっぱり本物のオーナーだ。
 この台詞だけで断言できるぞ。
 ずれた感覚をよかったなんて言ってはいけないが、確かに本物だとわかる。
 俺は間違っても萌え台詞なんて覚えないからな。
 やれやれ脅かすなよ、なんて思っていることは、オーナー二人には気付かれなかったようだ。
 一生懸命に言葉を選んで、真面目なことを語り続けていた。
 めったにないことなので、これは貴重体験に違いない。

「ちゃんと尊敬できる部分がないと、一緒にはいられないよ?」
「それに嫌なら全員不採用で、また広告を出せばいいだけでしょう?」

 ごもっとも。
 全員不採用だって、当然ながらありえたのだ。
 正しすぎて反論の余地もない。
 俺はずっと、自分自身の経歴や自信のなさから、その可能性を思考から消去していた。
 迂闊な奴だとだと笑ってくれていいぞ。
 だって俺は調理師免許を持っているだけで、実戦経験のない何の変哲もない会社員だったから。
 俺得な話なんてこの世にはないと、どこかあきらめていたからな。

「私たちは、卯月さんだからここにいてほしいと思ったの。今までもずっと、他の誰かなんて、考えたこともないよ?」

 しかし。
 しかし、なのだ。
 ここまで言われても、素直にうなずけない俺がいた。
「でも、俺にちゃんと考えろって……」
 我ながら自信のない口調になったが、オーナー二人はサバサバしたように笑っていた。
 顔を見合わせて「ね~」などと、仲良くうなずきあっている。

「だって、本当に好きな物だけを集めたお店だから、一切妥協はしたくないの。マスターは卯月さんだけって思ってる。だけど、それは私たちの勝手なお願いだからね。ちゃんと考えて? ペロリストのマスターって、大変だよ?」
「なんとなく普通から離れているしね~」
「うんうん、それなりに個性的だからね~」

 おい。
 言っていることは素晴らしく心に響いているが、最後の台詞だけは「なんとなく」や「それなりに」で片づけていいのか? などと素朴な疑問を抱いた。
 そこは賢く黙っておくけどな。

「俺、大変そうに見えるか?」
 う~ん、と椿さんは悩ましげだった。
 故さんも不自然に視線をそらす。
 はたから見ても俺が大変なのか楽しんでいるのか、ハッキリと断言できないらしい。
 自信なさげに、ポツンともらした。

「楽楽、とは違うかな~?」
「大変だって思う日が来るかも」

 ああ、そうか。
 今、やっと気がついた。
 俺が不安だったように、椿さんたちも不安だったってわけだ。
 だからちゃんと考えろ、なんて言ったんだ。
 だから、そっと聞いてみる。

「他の奴に務まるなら、マスターの席を譲る日が来るかな?」

「勤まると思う?」
 故さんが即座に突っ込んできた。
 思わないから、あえて聞いているに決まっているだろう。
 俺の想像通りの答えをくれてありがとうだよ。まったく。

「他の人に譲りたくなったら言ってね」
 軽く首をかたむけて、椿さんは手にしていたカゴから、生みたての卵を俺に一つ差し出した。
 それを受け取って、俺は笑った。

「言っとくけど、ちゃんと考えてるよ、俺は。結論は最初に出してる」
 確かな言葉で伝えてくれたのだから、俺も確かな答えを返す。
 向けられた信頼に等しい想いを返すには、本音をもらすのが恥かしくても言葉を惜しんだりしない。

「ここに面接に来た日から、俺の考えは変わってないよ」
 うん、と安心したように椿さんは笑った。
「ペロリストのマスターは、卯月さんだけだからね!」

「オムレツ、食べますか?」
 マスターらしいセリフで問いかけてみた。
 今は、このぐらいでしか感謝の気持ちは表せないけどさ。

 オーナーたちはわかっているのかわかっていないのか態度に出さないまま、キャッキャ♪ と嬉しそうに笑った。
「うん、電車が到着する前に、軽くお腹に入れときたい」
「軽く? しっかりの間違いだろ?」
 ヒドイと椿さんは軽くむくれた。

 ひどくはないさ。いつも気持ち良く食べきるくせに。
 作りがいのあるオーナーでよかったよ、ほんとにな。
 そして二人そろって「ご飯~!」とのんきないつもの口調で叫ぶと、裏口に向かって駆けだした。

 おい、転倒してカゴに入れた卵を全滅にしないでくれよ。
 そそっかしいところがあるので不安がよぎる。
 まぁ、全滅しても今夜はなんとかするけどな。
 基本的にメニューが「ペロリストの気まぐれご飯」一本だから、他の食材を最大限に生かすだけだ。
 地元食材をふんだんに使い、理屈抜きで美味いと客に言わせてやる。

 俺は手の中の卵を軽く握りしめた。
 先のことはわからない。
 それでも、今の俺はこの卵と同じだ。
 手のひらに収まるほど小さいけれど、確かにここに生きていた。
 生まれたばかりだからほんのりと暖かく、つやつやと光り輝いている。

 見てるだけだと、何の変哲もない小さな存在だけどな。
 大事に温めればヒナになり、調理に使えばオムレツやキッシュに生まれ変わる。
 もちろんデザート作りにだって欠かせない。
 心がけ次第で未来の可能性が無限に広がり、何にでもなれるんだ。
 この気持ちを「喜び」や「希望」と呼ぶに違いない。

 今、必要とされているのは俺で、他の誰でもないのだ。
 人として信頼と尊敬もしてもらえるなんて、貴重な体験かもしれない。
 ここが俺自身の居場所だと、ハッキリと示された。
 これが幸せな選択かどうかなんて、人生が終わる前にしかわからないよな。
 それでもいい。ここにいることを選ぶんだ。

 風変わりなオーナーと、かわいいウサギたち。
 おせっかいで自由に行動する常連客。
 その全てが、すでに俺の日常になっていた。

 今日も、明日も、明後日も。
 開店と同時に、笑顔で客を迎え入れ、俺はこう言うだろう。

「ようこそ、喫茶ペロリストへ!」


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