「喫茶ペロリストシリーズ」
ようこそ、喫茶ペロリストへ!

第16話 いずこへ? 2

 ←それでも →ひとり
「マスターのすね毛を提供してほしいの」
「いいね~脱毛剤の効果を試したいよね♪ たくさんありすぎて、どれがいいかわからないんだもの」

 おい、と突っ込む暇もなく二人して熱い口調になり、すね毛について熱っぽく語りだした。
 冬の内に試しておかないと、本格的な夏に困るもんね~などと、やたらと台詞に力がこもっているけど、俺の耳は聞かない努力を始めていた。
 すね毛って。なぜ、ここで出てくる?

 源さんもあきれたのか、ポカンと口を開けるばかりだ。

「デリケート肌用の中から、どれが一番いいか確かめたいな♪ マスター、むだ毛の処理なんてしていないよね?」
「まだ未開拓ゾーンだよね? 手入れ、してないよね? 今がしどきだよ? 乙女ゲームの王子様みたいにツルツルにしてみようよ♪」
 もてるよ~なんてオーナーたちは華やいだ声になっていくが、答えは一つ。

「却下!」

 何を言いだすんだよ、まったくもう……冗談じゃないぞ。
 二人そろって強烈なブーイングを出したが、知らん顔を通す。
 俺の耳も、店と一緒で休暇中だ。
 聞こえないぞ、そんなたわごとは!

 その聞こえないアピールが、少しは心に響いたのだろう。
 二人ともブーブー言いながらも、少し譲歩してきた。

「なら、おヒゲ! 触るだけでいいから♪」
「ヒゲと一緒に、喉仏も触ってみたい♪」

 しばし俺は思考を巡らせた。
 ヒゲをちょっと触るだけなら、それほど害がないかもしれない。
「ちょっとだけなら……」

 キャーッ♪ と二人は喜びの声をあげて踊りだした。
 そんなに嬉しいか? ヒゲを触るだけだぞ?
 ワクワクと期待を込めたダンスをするほど、喜ぶようなことではないと思うのだが。

「ついでにピンセットで……」
「それは却下!」
 最後まで聞かずに、ピンセット脱毛案は叩きつぶしておく。
 フッ、危ないところだった。
 一つ許可すると、芋づる式に妙なお願いが出てくるので油断ならない。

「どうせ触るなら、土曜日の一服してる時にしてもらいたいな」
 そう、忙しくなる時間の少し前。
 軽食をお腹に入れる時間なら、オーナー二人も繁盛を想定してメイド服姿になっている。
 ちょうどいい機会だとつい表情が緩んだ。
 巨大なぬいぐるみ姿になでまわされるよりも、かわいい恰好をした女の子の姿がいいに決まっている。
 オーナー二人がまともな格好をしているのは忙しタイムだけなので、まだゆっくりとその姿を拝んだこともないしな。

「ど、土曜日!」

 俺の軽い要望に、なぜか二人は異様に驚いた。
 反応が異様に大きいぞ、おい。
 なぜ? と問いかける間もなかった。

 ガクガクと震えながら椿さんは立ちあがり、テラスへとよろめきながら歩いていく。
 ガラス戸を開ける時に振り返り、無言で俺を見た。
 ジーッ。

 その圧迫感のある視線と沈黙に、引き留める言葉が思い浮かばなかった。
 椿さんは再び動き出し、テラスに出てガラス戸を閉め、窓にべったりと張り付いて俺を見る。
 ジーッ。

 そのままウサギ小屋へと消えて行ったが、扉を閉める寸前にも無言で俺をガン見していた。

 俺は固まったまましばらく動けなかった。
 なぜか批判的な意志を感じたぞ、おい。

 見送るだけ見送って、故さんが「うひ♥」と笑った。
「私が通訳して差し上げましょう♪」

「マスターのエッチ」
「エロ魔王だったのね」
「まさか、そんな人だとは思わなかったわ」

「先程の視線には、以上の台詞が隠されていたのです! 土曜日のメイド服に萌え萌えしようとする魂胆が見え見えだったもの~♪」
 指折り数えて、断言されてしまった。
 マスターもこれで萌え仲間ね♥ なんて、故さんがなぜか嬉しそうなのは、あえて見ないフリをする。

 確かに萌えていた自分がいるけどさ。
 仲間ではない。断固そこは強調して、二人とは違うと否定するぞ。
 しかし、なんてことだ。
 この一瞬で不埒なオスに分類されたってことなのか?
 土曜日と言っただけで、ちょっとした下心を看破されるとは……メイド服希望ぐらい、いいじゃないか。
 日頃は鈍いくせに、こんな時ばかり鋭さを全開にしないでくれ。

「それに、そんな時間だとヒゲ剃ってるでしょ? 寝起き一番じゃないと意味がないと思うのです」
 ジョリジョリしてないとヒゲの醍醐味がなくなる、などと故さんは断言した。

 なるほど、それは確かに……なんて納得している場合ではなかった。
 今は椿さんだ、椿さん。
 軽蔑された気がするぞ、おい。

 何を言えばいいのかわからないけれど、とにかく追いかけた。
 上手い弁解は思いつかないけれど、誤解を受けたままは嫌だ。
 いや、下心は確かだけどさ。
 このままでは次に顔を合わせた時が気まずいからな。
 椿さんが消えた道筋をたどり、一度テラスに出てウサギ小屋の扉を開けた。

「椿さん、さっきのことだけど……」
 言いかけて、俺は硬直する。

 いない。
 椿さんの姿がどこにもない。
 ついさっき、ウサギ小屋の中に消えたのは確かなのに。

 思わず床や天井にも視線を走らせる。
 うん、抜け穴も抜け道もないぞ。
 この扉を使うしかないので、密室と同じなのに。
 サスペンス劇場のBGMが脳裏を駆けめぐる。

 椿さんの姿はどこにもなかった。
 あんな大きな縫いぐるみみたいな姿だと、異様に目立つから隠れる術もないはずなのに。
 それだけはありえない、と脳が否定していたものの、俺はついついウサギの数を数えた。
 ひ~ふ~み~と指折り数え、やはり営業八戦士のままだと確認する。
 いくらなんでもウサギの着ぐるみから、本物のうさぎに変身する訳がないよな。
 ウサギの寝姿が増えても減ってもないことに、妙に安堵してしまった。
 日常が日常だから「もしかして」なんて思ってしまった、俺も俺だが。
 湧き上がる疑問を胸に、立ちすくむことしかできない。

 一体、椿さんはいずこへ?
 影も形もない。
 あとかたもなく存在そのものが消えてしまった。

 変だ妙だと思っていたけれど、本当に人間なのか?
 問いかけても答えてくれないのはわかっているけどな。

 オーナーたちへの謎も深まるばかりだ。


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