「喫茶ペロリストシリーズ」
ようこそ、喫茶ペロリストへ!

第12話 やっぱりその程度の理由なのか? 2

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 あの日の俺は……ん? なにをしたっけ?
 色々あった気がするが、面接に着ぐるみパジャマのお猿が現れたので、あまりに印象が強すぎて記憶を消去していた。 
 とにかく、わかりにくい場所ですぐにたどり着けなかったような……?
 すっかり記憶に遠かったので、詳細を回想しかけた時。

「なんといっても! マスターは名前もウサギだったからね♪ 会う前から期待していたんだ♪」
「卯月だもんね♪ ウサギ喫茶にピッタリ!」
「名前を聞いた瞬間、絶対、ウサギと仲良くなれると思ったもの♪ 萌えない名前だけど、そこは重要!」
「春っぽい名前だから、それだけでほのぼのできるしね♪」

 おい。全国の卯月さんは、ウサギと仲良くできると言うのか?
 無償でウサギに愛をそそぐ人間だと言い切るのか?
 日本全国にいる卯月さんが、ほのぼの、のんびりした春っぽい性格の人間ばかりだと信じているのか?
 おかしいぞ、それ。
 それはない。絶対に違う。ありえない発想だぞ。

「それにマスターは、男だけど指長族だから」
「うんうん、器用で骨っぽくって、長い指っていいよね~萌える~♪」
 ジーッと熱い視線が、俺の指に注がれた。
 コーヒーを飲むために二人そろってマスクを外しているので、とろけたような口元になっているのがわかる。
「毎日毎日、本物が拝めるなんて~こんな我得なことって滅多にないよね。絶滅希望種族でも、指長族はいいの♪」
「ほんとにね~男の指長族は格別の御馳走だからねぇ」

 ぜ、絶滅希望種族……絶滅ってなんだよ?
 前々から思っていたが、椿さんの語る男性への感想って過激だ。
 そう言えば俺といるときだけでなく、源さんが来たときもテーブルやカウンター越しにしか話さない。
 間に何かワンクッションがないと、カクカクと不自然な動きになる。
 思い返してみると出てくるのはあきらかに接触を避けるエピソードばかりで、うわ~と遠い目になってしまった。

 嫌いって言うより、苦手なんだろうな。
 源さんや前田さんクラスの爺さんでも適度な距離感を求めるなら、俺とまともに隣り合って座るなんていつまでかかるだろう?
 いや、別にお近づきになりたい訳じゃないけどさ。
 隣に立って見下ろしたいとは思う。
 大きな声では言えないが、巨乳を上から見下ろしたらどんな谷間になるのか、本当に胸で隠れて爪先が見えなくなるのか、つまらない事だと言われるだろうが非常に興味がある。

 今も俺がチラチラ見ているとわかると、コーヒーを飲み終わると椿さんはサッとマスクをかけてしまった。
 どんだけ苦手なんだよ。
 そう言えばこの前、思考回路の作りが違うからまともに話せないとか言ってたような……そこから着ぐるみやメイド服に逃避するのも変だけどな。

 危ない、危ない。
 思考を読まれたら、一生軽蔑されるかもしれないぞ。
 時々妙にするどいテレパスみたいな言動をとるから、とにかく気をつけねば。
 故さんの旦那さんは平気だっていってたから、馴染めば男でも受け入れ可能ってことかもしれないが、そのOK基準がサッパリわからない。
 こうして少し距離があると非常に人懐っこく話してくるので、俺自身が嫌われてないのは確かだ。
 自分の平和のために、そう思っておこう。

 それにしても。
 熱っぽい視線が、俺の指から離れない。
 もしこの指が短かったら、この世に存在してはいけなかったのだろうか?
 指長族が御馳走ってのも衝撃的な表現だけど。
 苦手な存在を覆すだけの、指長族への愛ってなんだろうな?
 萌えだ御馳走だと熱く悶えられても、さっぱり理解できない。
 う~ん、釈然としないぞ。
 などと思ってるとき、妙に明るい声が鼓膜を打った。

「おまけにマスターは眼鏡男子だし♪」
「伊達眼鏡男子だもんね♪」

 なんてことだ。
 少し無言でいただけなのに悩み深き俺を置いてけぼりにして、萌える~と二人はうっとりと別世界に思考を飛ばしていた。

 おい、これ以上、俺で勝手に萌えないでくれ。
 伊達眼鏡で悪いか? 
 目つきが悪いのを隠してんだよ。
 いや。そのおかげで採用されたのだから、伊達眼鏡でよかったのか。
 そうだ、よかったはずだ。
 なのに、なぜだ?
 この胸に去来する、暗鬱とした気持ちは!

「それにそれに! もう、これ以外にないってぐらいなのが……」
 ね~♪ ね~♪ と、顔を見合わせている。
 故さんと椿さんは盛り上がりの最高潮で、グッとこぶしを握りしめた。

「文句のつけようのないイケボ!」
「遊佐さんそっくり♪ 話し方もまるで左之助!」
 キャーッ♪ などと二人そろって手を取り合って喜んだ。
 歓喜の渦って、こんな感じだろう。

 遊佐さんって誰だよ? 左之助って何?
 それが某幕末乙女ゲームの攻略キャラを演じた声優とキャラの名前だと知るのは、数日後のことである。
 俺は萌え台詞もしゃべらないし、絶対、槍も振らないからな!

「イケボは正義!」
「モフモフと同等の正義!」
「こんな素敵な声で、毎日、名前を呼ばれるなんて!」
「もっと呼んで~もっとしゃべって~くっさい台詞を語ってください!」
「耳から溶けちゃう~♥」

 はぁ~ん♥ などと悶えている姿を目の当たりにするはめになったが、まったく理解できない。
 異様なベクトルに向かって大興奮して、二人とも異世界に思考が突入している。
 俺はただ一人、正気でこの世界に取り残されて孤独を味わうしかなかった。

 おい。
 どこまで個人の萌えを追求してるんだ?
 喫茶店の従業員を募集したはずだろ?
 それって、どうなんだよ。
 俺が採用された理由は、業務にまったく関係ないのか……?

「あ、でもまだお試し期間中だった!」
「確か、お試しは一カ月だよね? ちゃんと考えてね、マスター」
「うんうん、とっても大事なことだから。こんな毎日に耐えられるか、しっかりハッキリ考えてね!」

 うお! 考えろって、なんだよ?
 こんなところで現実を突き付けられ、不安をあおられるとは。
 一カ月経ったら今後の話をされるってことか?
 確かに遠慮なんてせず言いたい放題だが、まさかクビってことはないよな?
 毎日こんなにもてあそばれても、粛々と日常をこなしているのに。
 不安だ~マジかよ。辛い現実はもういらないぞ。

 ファイリングされた不採用の面々を手にしていると、なんとなくいたたまれない気持ちになってきた。
 そっと心の中で語りかける。
 あんたたち、ダメエピソードを持っていてよかったかもしれないぞ。
 俺とかわってくれなんて言わないが、もしこの話を聞いたら共感はしてくれるよな?
 上手くいってると思っていたのに、考えろなんて失業の不安を付きつけられてしまった。
 ひどく胃に負担がかかる。

 同時に、自分自身の存在価値に疑念を抱いてしまう。
 伊達眼鏡の指長族で、イケボでなかったなら、俺の価値は激減だろうな。
 料理にはまるで関係のない、腐女子な理由ばかりだ。
 俺はこの二人の萌えの追求のためだけに、採用されたのかもしれない。
 しかも一カ月のお試し期間が過ぎたら、失業予感の不安つきだ。

 思わず窓の外に視線を飛ばしてしまう。
 その青い空に、そこはかとなく漂う哀愁を見たのだった。


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