「喫茶ペロリストシリーズ」
ようこそ、喫茶ペロリストへ!

第11話 やっぱりその程度の理由なのか? 1

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 フワン、と独特の香りが鼻腔をくすぐる。
 淹れたてのコーヒーだとわかると、華やいだ気持ちになるのは何故だろう?
「どうぞ」
 カチャン、とコーヒーカップが置かれた音に顔をあげたら、先ほどとは椿さんの座る位置が変わっていた。

 俺の正面に故さんがいるのだが、その故さんの横に椿さんは座っていた。
 はふ、と安堵したような息を吐きだしている。
 さっきまでのカクカクした動きが嘘のように、非常にリラックスしていた。
 着ぐるみにマスク着用の姿でも、オーナーたちは根が単純なので動きで心情も想定しやすい。

 椿さんの不自然な溜息と席替えのリラックスぶりに、一抹の不安を覚えた。
 これってもしかして、俺から逃げただけでは?
 気のせいか?
 先日の猫耳メイドさんの時に、一部分だけ集中してみたことに気づかれたかのかもしれない。
 ムッチリしたアレはすごかったから目が釘づけになるのも当然だとしても、当人にとってはあまり気分のいいものではないだろう。

 う~ん、失敗したのかもしれない。
 自己主張する胸など、めったにお目にかかれないからな。
 できれば体形が隠れてしまう着ぐるみではなく、常時メイドさんでいてほしいのだが、そんな俺得なお願いはまだしていないぞ。

 避けられる直接的理由はまだないはずだ。

 さて困った。
 不安を感じる空気の訳を聞きたいが、どう問いかければ身の安全を守れるのかわからない!

 内心では焦っている俺に、故さんがニヤリと笑った。
 思わせぶりに、赤い眼鏡を中指で持ち上げる。
「気になる? 気になる?」

 おお、気になってるさ。
 あんな御馳走みたいな乳を前にして、冷静でいられる奴がいたら決闘してやる。
 カムバック、猫耳メイド服!
 なんてことは、本人を目の前にして言えないけどな。
 いや、純粋な男の欲について何も語っていないのに、避けられるのは理不尽だぞ、まったく。

「その留学のお姉さん、椿さんがお猿の格好をしてうさうさと戯れてるのを見て、鼻で笑ったのよ」

 は? 
 何の話だ?

 ああ、履歴書のことか?
 俺が採用された理由に話が飛んだらしい。
 なるほど、そっちか。唐突過ぎてわからなかった。
 いや、それも聞きたかったけど、すっかり忘れていた。
 むしろ、何を考えていたか突っ込まれたら、危ないところだった。
 安心したような、残念なような。
 この不思議な感覚は一体何だろう?

「いや、確かにお猿は衝撃的だったけど」
「そう? まぁ、そう思っておいてもいいよ」
 故さんの微笑みは、なんだか含みがあった。
 なんだよ、その当てて御覧なさい♪ なんて眼差しは。
 重要な面接にまさか着ぐるみパジャマで現れるとは、お釈迦様でも予想がつかないだろう。

 まともな返事をもらえる会話術を考えようとした時、椿さんがサラッと言った。
「人の価値観って人それぞれだから、批判的な人とはずっと一緒に暮らせないよね? うさうさのために住み込みなんだもの」

 あ、なるほど。
 この二人は確かに個性的だ。
 あの日、着ぐるみとメイド服での面接だったから、そういう場所なのだと理解できた。
 普通にスーツで面接して、日常がぬいぐるみ天国だと神経がもたなかったかもしれない。

 ふ~ん。意味不明だと思っていたけど、深い理由が隠されていたらしい。
 ちなみに、椿さんはコーヒーを飲むためにマスクを外しているので、人間と話している感が俺の心に戻ってきた。
 やっぱり中身が同じとわかっていても、話し合うならぬいぐるみ相手より人間がいいよな。

「それにね、その板前さん。前田さんの畑に飲み終わったコーヒー缶を捨てたの」
 え? 前田さんの畑?
 ああ、ネギを持ってきてくれる人だな。
 週に何回も農作業後に一服しに来る、貴重な常連だ。
 源さん同様に、メイド服の中身を見たがるエロジジイだけど。
「ダメだよね、ポイ捨ては。ゴミはゴミ箱へ、だよ」
「畑にゴミを捨てる奴に、おいしいご飯は作れないと思うしね」
 ごもっとも。俺もそう思う。

 その後も、出てくる出てくる。
 いろんなダメダメエピソードが並んでいく。

「その大衆食堂のおばちゃんは、源さんちのポチに吠えられてた」
「ポチは賢いから、動物嫌いは敵なの~匂いでわかるみたい」
「源さんがアレは動物に関心はないぞって電話くれたとおり、うさうさの部屋にも近寄らなかったしね~ウサギ喫茶なのに、それはダメでしょ」

「そのホテルのシェフは地元農家から食材を仕入れてるって言ったせいか、帰りにトメさんちのレタスをちぎって勝手に食べたの。いいレタスだから、これからも買ってやっていいって」
「ダメだよね、他人の畑の物、勝手に食べちゃ。泥棒と一緒だよね」
「トメさんは葉物野菜の天才だもん。おいしくて当たり前だよ~買ってやってもいいって、言い方もありえないと思うの」
「何様なんだろうね~」
「ね~そういう言い方する人と一緒にいたくないよね~」

 なるほど。こうして並べてみるとわかりやすい理由だ。
 オーナーたちの「好きになれない理由」を並べていくと、ダメエピソードがないのは俺だけだった。
 そうか。消去法の結果、俺が勝ち残ったのか。

 というか、すごいな、おい。
 その「人として好きになれない」情報は、すべて地域住民からもたらされている。
 さすがは地元密着型の喫茶店だ。
 素材の仕入先から野菜だけではなく、未来の従業員候補の素行にまで及ぶとは。
 地域住民からの情報が、まさか採用理由に関わっていたなんて、この履歴書を持ってきた連中も思ってもみなかったに違いない。
 駅を降りたときから、地域住人から面接されていたのと変わらないじゃないか!

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