「喫茶ペロリストシリーズ」
ようこそ、喫茶ペロリストへ!

第10話 人生の不思議? 1

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 午後3時。
 あいかわらず、ペロリストには客がいない。
 いいのか? 喫茶店なのにこの状態で。
 さすがに心配になって問いかけてみたが、オーナー二人は顔を見合わせて首を傾げただけだ。

「仕方ないよね、冬のこの時間って農作業中だし」
「真夏だったら避暑代わりに、いっぱいお客さんが来るのにね~一仕事終えたら、来たい人は来るよ」
「そうそう、平気平気~♪」
 二人そろって冗談みたいなクルンとした動きで、俺を見ると楽しそうに笑った。

「マスターって一日中、忙しいのが好きなんだね」
「今のうちに休めばいいのに。働き者だなぁ~すごいすごい♪」
「働きたいなら、今日の掃除当番、変わって~♪」
「明日も変わってほしいな~よろしくなのです~♪」

 キャッキャッと手を叩いて喜んでいるが、そんなに世の中は甘くないぞ。
 子供のように無邪気だ。
 二人そろって羊さんなので、少し残念に思う。
 サルだったら、もっとはまっていたのに。
 モコモコのぬいぐるみダンスにしか見えないが、当たり前だと思い始めた自分が怖い。
 ああ、俺もかなりオーナーに毒されているようだ。

 はっきりさせておくが、俺は間違っても忙しいのが好きって訳じゃないぞ。
 この店がつぶれると、俺の未来も真っ暗になるからな。
 どこから喫茶店の資金や俺の給料を捻出する気なのだろう?
 そこのところがハッキリしないので、ひたすら不安なだけだ。
 先日「儲けはあるんですか?」ときいたところ、テヘペロッと舌を出された。
 聞かなければよかったと、ひそやかに後悔してしまった。

 退屈だったのだろう。
 オーナーたちはお玉とフライ返しを手に「金金、降れ降れ♪」と、童謡を妙な替え歌にして怪しいダンスも披露してくれた。
 資金が足りなくなったら祈りを込めて宝くじを手に一緒に踊ろうと誘われ、丁重にお断りしたのも記憶に新しい。
 それが俺をからかうための冗談なのか、真実、資金は宝くじ任せなのか、怖くて突っ込めなかった。
 気弱な奴だと笑ってほしい。
 気弱になりたい瞬間が、誰にだってあるんだ。

「そんなことより、これってどうすればいいのかなぁ?」
「ン~捨てちゃうって、ダメ?」
「まだ早くない?」
「保管に困るよねぇ~どうしよう?」

 困ったなぁ、なんて二人は悩ましげに頭を悩ませている。
 もちろんフカフカした羊さんなので、緊張感や深刻さはまるで感じられない。
 この二人が悩む姿などめったに見ないので、俺は興味をひかれた。
 お店の資金繰りよりも頭を悩ませる問題って、なんだろう?

「なにがそんなに困るんです?」
 素朴な俺の疑問を口にしながら、二人の手元にチラッと視線を投げる。
 その瞬間、おわ、と俺は声を出しそうになった。
 これは履歴書ではないか。
 驚きをなんとか飲み込んだ。
 それも、何枚もある。

「これってもしかして……」
「うん、面接に来た人たち~」

 やっぱりそうか。
 ペロリストの従業員候補だった人たちの履歴書なのだ。
 すごいな、さすが不況。
 想像していたよりも対戦相手がずっと多いじゃないか。
 俺なんかに敗北した連中がこんなにいるとは。
 悲惨街道まっしぐらだった器用貧乏の俺に負けたのは、一体、どんな奴らなんだろう?
 純粋な興味をそそられてチラチラと見ていたら、オーナーたちはズイッと履歴書の山を俺の方にずらした。

「見る? というか、見て」
「こういうのってどうしたらいいと思う?」

「いや、俺に聞かれても……」
 確かに手にとって見たかったけれどさ。
 それほど堂々と差し出されると、ほんの少しだけ良心が痛むじゃないか。
 戸惑いがストレートに出たら、オーナー二人はすねたようだ。

「ケチ」
「マスターのイケズ」

 俺は言葉を失った。
 ケチにイケズって……そういう問題か?

「普通の会社に勤めてたんでしょ? そういうこと、私たちより詳しいはずなのに」
「知識の出し惜しみしないでよ~ひどい~」
「ケチケチケチケチ~教えてくれたっていいでしょ~?」

 あ、なるほどね。
 そういう意味。普通の会社に勤めてた経歴を頼っていたのか。
 少しは考えてるんだな、思い付きの行動かと思っていた。

 なんて納得してる場合ではなかった。
 そういう理由なら、素早くこの二人のお気に召す答えを考えないと。
 ケチケチ音頭なんて妙な替え歌を作ったり、不思議な踊りを始めて俺の反応を楽しむなんて、妙な遊びに延々と付き合わされる。
 そんなのはごめんだ。

「残念ながら人事に関わらなかったから……でも、書類として整理されていた気がするけど」
 ファイルしておけば? なんてもっともらしいアドバイスをしておく。
 本当のところは知らない。
 でも、すぐに処分するってのもおかしい気がした。

「そっか~やっぱり保存するのが一番だよねぇ」
 ハァ~と二人そろって長いため息をついた。
 面倒だよぅ~と非常に正直な感想を述べている。
 書類整理は非常に苦手な分野らしい。
 まぁ、日頃の様子を見ていれば、そのぐらい聞かなくてもわかるけどな。

「別にそこまで考えなくても、ファイルに挟んでおけばいいだろ? そんなのすぐにできるさ」

 故さんと椿さんは顔を見合わせた。
 おもむろに二人は立ちあがり、トトトッと小走りで店の奥に消えたが、すぐに戻ってくる。それぞれ抱えていたファイルと2つ穴パンチを、そっと俺に差し出す。
 そして、両手を祈りの形に組み合わせたまま、無言で俺を見つめる。
 ジーッ。
 マスクや眼鏡のおかげで表情は読み取れないが、見つめあってるとわかる姿勢のまま行動が停止する。

 熱い。妙に熱のある視線も無言も、期待感で熱せられている。
 この重苦しく熱い沈黙は嫌だ。
 というか、よろしくって素直にお願いしないのか?
 必要最低限の言葉を惜しむなよ。
 いや、言いたいことはわかるけど。
 なんて反論するのは時間の無駄だよな。
 ハァ~っとため息をついて、俺はオーナーたちのいるテーブルについた。

 そのとたん。
 キャーッ♪ と二人とも異様に喜んだ。
「ありがとう♪」
「さすがだね~マスターカッコいい♪」
 そこまで喜んでもらえると、素直なお願いがなくても、まぁいいかと思ってしまうじゃないか。

「お、お茶でも入れてくるね。コーヒーでいいかなぁ?」

 おお、気が利いているぞ。
 そう思ったのもつかの間。
 隣にいた椿さんは立ちあがるなり、自分で自分の足につまづくような不自然な動きで、カクカクと歩いて厨房に消えた。
 ぬいぐるみショーに似て妙に面白い動きに見えたが、何かおかしい。

 どこか変だと思いつつ、俺に負けた奴らの履歴書にパンチで穴をあけていく。
 ファイルにとじるのも一瞬だ。
 こんな単純ですぐに終わる作業を自分たちでせずに、俺に頼む方が手間がかかってる気がする。
 まぁ、周囲の人間にかまわれたい二人なので、いい理由になっただけなんだろうけど。

 ついでなので、履歴書を見直しておく。
 採用された者の優越感を、今のうちにかみしめておきたい。

 う~ん、それにしても。
 なんだかすごくないか、このメンツ?
 当たり前かもしれないが職歴は調理のプロばかりで、有名ホテルのシェフや、海外に料理留学した才女、旅館の板前までいる。
 しかも、つい先日までほぼ現役だぞ。おい。
 こういった能力のある人たちも失業するなんて、やっぱりサービス業から不景気が反映するって本当かもしれない。
 この面々の前だと普通の会社員なんて、箸にも棒にもかからないはずだが。
 学生時代にバイトはしたものの、俺だけ実戦経験がまるで足りない。

 どういうことだろう?
 俺の採用された理由が、今ひとつわからない。
 もし、スッパリと落とされたこいつらが俺の職歴を知ったら、苦悩の渦にのまれて寝込むのではないだろうか?
 料理にまるで関係ない、一般会社員で総務課勤務には負けたくないだろう。
 なぜ敗北したのか、その理由を聞くまで悪夢に襲われるんじゃないか?

 謎だ、変だ、変わっていると思っていたが、オーナーたちの思考のずれっぷりは半端ではない。
 選考基準が実に謎だ。
 いや、俺にとっては悲惨人生脱出の鍵で、ラッキーな出来事なんだけどな。
 などと人生の不思議について考えてしまった。


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