「喫茶ペロリストシリーズ」
ようこそ、喫茶ペロリストへ!

第9話 一生の不覚 2

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 あ、今度はまともな意味でやばい。
 キャベツが足りなくなりそうだ。
 今の客はさばけるが、次のお客の群れが来たら、確実になくなる。
 そんな俺の思考を読んだように、空になった食器を下げた猫耳メイドさんが「注文しましょうか?」と問いかけてきた。
 気が利くじゃないか。

「よろしく」と頼んで、俺は気持ち良く今の作業に没頭する。
 猫耳メイドさんは素早く電話をかけたので、ナンバーも暗記しているらしい。
「もしもし、源さん? うんそう。あのね、キャベツがほしいの~お願いします」
 ツーカーの注文の仕方だ。
 俺なんかより慣れているし、農家にも顔が効くらしい。
 猫耳メイドさん、どうやらそれなりに仕事のできる子のようだ。
 水を運んでいる様子は危なかしい状態だったけれど、働きを見ればベテランと変わりなかった。

 まったく、オーナーも人が悪い。
 休日はバイトを頼んでいるのなら、それならそうと教えてくれたらよかったのに。
 俺一人だと思っていたから、いらぬ心配をしてしまった。
 二馬力なら安泰だ。
 忙しいことには変わりないけどな。

 めまぐるしい時間は、あっという間に過ぎていく。
 気がつくと、閉店間近になっていた。
 店内に残っているお客は、既にウサギルームに移動している数人のみ。
 その他は、喫茶ルームにはキャベツを持ってきた源さんがいるだけだ。

 ご近所さんの中でも有機野菜の達人である源さんは、ペロリストの常連でもある。
 タヌキのような福福とした容貌で、某時代劇の御隠居様のようなひげがトレードマークだ。
 使用済みの食器を下げるために俺と猫耳メイドさんは動きまわっていたけれど、源さんはまったりとメニューにない玄米茶をすすっていた。

 ペロリストの喫茶メニューは固定されて少ないが、源さんのような常連さんには裏メニューとして我儘な要望にも応えている。
 野菜作りにいそしむ常連さんは年配者が多いので、玄米茶、煎茶、麦茶は常備していた。
 そして裏メニューの中でも、特に自家製卵のオムレツは常連の間では人気だったりする。
 生み立て卵だから、おいしくて当然だ。
 オムレツは俺自身もまかないで作る自慢の品だ。

 いきなり源さんは、通り過ぎようとした猫耳メイドさんの尻尾をつかんだ。
 どうやら誰にも相手にされないので、退屈になってきたらしい。
「あいかわらず、めんこい服を着とるのぅ~あと五十年ワシが若かったらかわいがっちゃるのに」
 ほれほれ、と尻尾を引っ張るたびに、スカートがフワンフワンと大きく揺れてめくれそうだ。

 いや~ん、と猫耳メイドさんは逃れようとジタバタしている。
 尻尾をとりかえそうとしているけれど、老人とはいえ農作業に従事している男の力にかなう訳がない。
 離れることは叶わず、ズルズルっと引き寄せられていく。

 このままでは、尻尾がちぎれるのが先か、スカートが破れるのが先か。
 なんてことをするんだ、このエロジジイ!
 ツカツカッと大股で歩み寄り、源さんの手をビシッと払う。
「なにを……」
 するんじゃ、といいかけた源さんは、俺の顔を見上げて固まった。

「ウサギも従業員も、いじめないでもらいましょうか」
 スッと伊達眼鏡を外しながら、思い切り睨みつける。
 自慢ではないが目つきの悪さには定評があるのだ。
 眼鏡で真面目さをアピールしていないと、十中八九睨んでいると間違われるぐらいだ。
 俺の背後にドラゴンの幻影が見えると噂されたこともある。
 もちろん、ただの噂だけどな。

 本気で不快感をあらわにすると、源さんは青くなってガタガタと震えだした。
「源さん、今後一切、今のようなかわいがり方はしないでいただけますね?」
 コクコク、コクコク。
 首がもげそうなほど激しい賛同を得られた。

 いくら大手の仕入れ先とはいえ、知ったことではない。
 暴力はいっさいふるっていないので、オーナーに文句を言われることもないだろう。
 そう、俺はただ厳しい顔で、店員としてのお願いをしただけだ。

「お、お先に上がります~お疲れ様」
 猫耳メイドさんの声が、店の奥に続く扉のあたりから聞こえた。
 源さんの魔の手から、上手く逃げられたようだ。
「あ、お疲れさま」
 反射的にそう答えたものの、眼鏡をかけ直している時だったので、すぐには動けなかった。

 まだ正式に挨拶をしていないというのに、なんて素早いんだ。
 少し話をしたかったのに、名前すら聞いてないんだぞ。
 焦る俺を尻目に、源さんがひらひらと手を振った。

「椿ちゃん、またの~」
「源さん、おやすみなさ~い」

 は?
 今、なんて言った?

 俺が振り向くよりも早く、パタン、と扉が閉じる。
 無情に閉じてしまった扉を見つめて、俺は固まってしまった。
 よいしょっと掛け声をつけて、源さんが立ち上がる。
「そいじゃ、またの」
 立ち去ろうとしたその肩を、俺はガシッと掴んで引き留める。
「……椿ちゃん?」
 まさか、オーナーだったのか?

 驚きのままそれだけしか聞けない俺に、源さんはポカーンとした。
 その後で、フォッフォッフォッと笑いだす。
「やれやれ、若造はまだまだじゃの~他に誰がおるんじゃ?」
 源さんは「やれやれじゃの~」などと笑いながら、家に帰っていった。
 そのバカにした調子にイラッとした。
 なにがまだまだの、やれやれだよ。
 セクハラ・エロジジイに鈍いとバカにされる覚えはない。

 いや、しかしそんなことよりも。
 嘘だろ~着ぐるみ以外の姿だったぞ。
 その顔を拝む千載一遇のチャンスだったのに、つむじしか見ていないとは。
 つむじ以外で印象に残っているのは……詳しくは言えないけどさ。
 あのボリューム……非常に魅惑的だった。
 大きな声では絶対に言えないけどな。

 まさか、あの椿さんだったとは!
 本物か? 
 いや、源さんが言うぐらいだから本物に間違いない。
 普段の着ぐるみ姿に騙されていたが、女は化けるって本当らしい。
 恐るべし、猫耳メイド服。

 源さんのごとく萌え倒したい欲求が湧いたことは、秘密にしといてくれ。
 魅惑の部分に気を盗られて、肝心の顔を見損ねてしまうとは。

 まさに一生の不覚。
 神様、早く次のチャンスをください。


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