「喫茶ペロリストシリーズ」
ようこそ、喫茶ペロリストへ!

第4話 ねぇ、マスター♪ 1

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 つつがなく、記念すべき初営業は無事に終了した。
 閉店後、故さんと椿さんはカウンターに座る。
 なぜか、二人ともウサギの着ぐるみ姿だった。

 その恰好のまま二人は営業中、ウサギスペースから心配そうに俺の様子をうかがっていた。
 もちろんその表情はわからなかったが、ガラスにべったりと張り付いていたので、心配していたのは間違いない。
 その怪しい姿を常連ばかりとはいえ、なぜ誰も不思議がらないのか気になってしまった。
 まぁ、俺も周囲の様子が見えるぐらい、余裕があったってことだろう。

「お疲れさま~マスター」
「お料理と接客を全部、一人でこなせるなんてすご~い」
 二人そろって「かっこいい」とまでねぎらってくれて、よし、と心の中でガッツポーズをとる。
 平日はのんびりペースだと聞いていたが、真実で助かった。
 しかし続く言葉に、俺の高揚感は打ち砕かれる。

「あ~なんだかな~見てただけで、心が腹ペコです~」
「ものすごく普通に終わったから、笑いが足りない~」
 おい。俺の失敗を期待していたのか?
 そうなのか? なんてことだ。

「失敗なんて、最初しか許されないんだよ~?」
「うんうん、今のうちに、色々やっとかないとね」
「慣れた頃に失敗すると、恥かしいよ? やるなら今だよ」
「うんうん、いつやるの? 今でしょ!」

 うるさいぞ、と俺は心の中で悪態をつく。
 それは真実かもしれないが、失敗だらけの人生だから、一つぐらい完璧を目指して何が悪い。
 俺の失敗を想像して、キャッキャッ♪ と盛り上がらないでくれ。

 よし、ここは無視だ。
 痛烈な無視ではなく、お仕事中で熱中してるから聞こえないんだよ、と言った顔で黙々と作業に没頭する。
 俺の無反応にもめげず、二人はキャッキャ♪ と更に喜んでいた。

「面白いよね~マスターって」
「うんうん、話しかけると二倍速になる」
「いっぱいおしゃべりすると、もっと早くなるかなぁ?」

 なんだって? 今、なんて言った?
 作業速度が上がるからやめないのか?
 そうなのか?
 いや、ここで態度に出すと、故意に無視していたことがばれてしまう。
 それだけは避けなくてはいけない。

 悶々としながらも、聞きたくても聞けない苛立ちを隠すために、作業に没頭する。
 営業が終わったからといって、俺の仕事が終わるわけではなかった。
 閉店後の作業として、人気商品であるウサギマシュマロを制作していた。
 作業台一面にあふれたマシュマロの土台の群れは圧巻である。
 この総てに立ちウサギの絵を描くのかと思うと、ちょっと気が遠くなるけどな。

 カフェメニューには必ず特製マシュマロを二種類付けるのだ。
 お土産にも販売している。
 温かい飲み物に入れてマシュマロコーヒーやマシュマロココアにすると、クリーム状にとろけてふんわりした甘さになるのだ。
 ビジュアルだけ見ても、非常に愛らしい秀逸の品だ。

 俺は丸い円系に作り上げた大きめのマシュマロの上に、細い金口を使って別色のマシュマロでウサギを立体的に描き出していく。
 冷めるとマシュマロが固まってしまうので、速度が命。
 やわらかすぎると立体状にウサギが盛り上がらないので、作り手の感覚が必要な繊細な作業だ。
 お菓子作りをパティシエのように専門的に学んだ経験はないが、調理も製菓も趣味で取り組んでいた経験があるので、このぐらいは簡単だけど。

 その時、フッと嫌な記憶がよみがえった。
 俺は売り物になっている完成品を一度食せば、まったく同じ味を作れる。
 普通なら褒められる才能なのに、それが俺の不幸に繋がってきた。

 並ばなければ買えないスウィーツを自宅で作り、ふるまったことで「偽物なんて嬉しくないわ」と元彼女にはなじられた。
 俺、料理を恋人にふるまうたび、ふられているような……いや、間違いなくそうだ。
 なんてことだ、どこまでも器用貧乏の人生だ。
 いやいや、俺の才能と特技を認められない相手だと認識できたから、あの別れはよかったんだ。
 そう、彼女にふられるぐらい器用で、なにが悪い。
 などと哀しい思考に浸りかけた時。

「ねぇ、マスター♪」

 オーナー二人が歌いだす。
 不覚ながら手を止めて、つい、吹き出してしまった。
 いきなり替え歌かよ。しかもそれなりに年齢を感じるぞ。
 そのメロディーはフィンランドの作家原作の、某アニメ主題歌のメロディーに間違いない。

 何を急にはじめたかと思ったら、笑えるじゃないか。
 二人して今夜は着ぐるみを着用しているし、それでなくとも現実離れした状況なのに。
 それがはまりすぎていて、おかしくて仕方ない。


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