短編集 恋の卵

これも一つの愛の形 第二話

 ←これも一つの愛の形 第一話 →これも一つの愛の形 第三話
 パシャン。
 今までより大きな音がしたので、フッと正気に戻った。
 視線を向けると、将也がちょうど櫂をボートの上にあげたところだった。

「美優ちゃん、話があるんだ」
「そうね、そのために会ったんだもの」

 また「ちゃん」づけする、と心の中で舌打ちした。
 私の方が年上だからやめなさいって言うのに、高校を卒業したから先輩は嫌だって言い張る。
 生意気、と思いつつ、柴犬に似た将也の口から出るセリフは、先輩よりちゃんづけの方が似合うから、 文句を言うのはいつのまにかやめてしまった。

 改まった表情はめったに見ない物だけど、非常に変だ。
 目が合わない。
 将也が忙しく視線をあちこちに飛ばしているので、私はハイハイと適当に答える。
 うらやましいわ、その絶え間ない挙動不審。
 そこまでウロウロソワソワしてれば、無意識のうちに体が温まるでしょうよ。
 寒さで震えは止まらないものの、態度は微動だにしない自分の落ち着きが憎い。

 私の冷たい眼差しにもめげず、将也は大きく深呼吸している。
 そして、これ、と小さな包みを取り出した。
 思わず何度もまばたきして、目をこすってしまった。
 だって、そのラッピングには見覚えがある。
 私のお気に入りのショップの物だ。
 渡された包みの形状からして、中身もピンとくる。
 これ、もしかしてペンダントとアロマオイルじゃないの?

 渡された贈り物を「開けて」とうながされたけれど、指先が凍えてリボンすらほどけない。
 将也はそっと自分の手に持ち直すと、緩やかにリボンをほどいた。
 天使の小瓶と名付けられたアロマオイルを入れるペンダントと、ローズの製油が入っていた。
 ガラスのボトルに製油を入れると、蓋をしたままでもほのかに香るのだ。
 蓋の飾りに彫刻された天使が、冬の鈍い光の下でもキラキラと白銀に輝いていた。
 ずっと欲しかったけどそれなりに値段が張るので、誕生日のような節目に記念で手に入れようと思っていたとっておきだ。
 だから、こうして自分の手に渡されると震えてしまう。

「どうしたの? こんな高いモノ」
 将也はまだ学生だ。
 社会人になっている私とは違う。
 バイトをしたって賃金は知れてるだろう。

 うん、と将也は人懐っこい笑顔を見せた。
「美優ちゃんが好きな物だから」
 そうだけど、と私は返事に詰まってしまう。
 好きな物だけど、もらう理由がない。

 私の誕生日は夏だし、クリスマスとかホワイトデーとか、そういったよくある記念日でもない。
 だいたい将也はそういった記念日にプレゼントをくれるけど、マイクロファーのソックスとか手袋が主で、こういったアクセサリー類には無頓着だったのに。
 しかもこんな真冬の池のど真ん中で渡すなんて、一体どんな心境の変化よ?


にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村


人気ブログランキングへ


関連記事
スポンサーサイト
もくじ  3kaku_s_L.png 短編集 恋の卵
もくじ  3kaku_s_L.png Making Twilight
もくじ  3kaku_s_L.png 詩集 kurayami
総もくじ  3kaku_s_L.png 交換詩・贈答物語 七色の海
もくじ  3kaku_s_L.png 潮騒の詩
総もくじ  3kaku_s_L.png 英雄のしつけかた
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編集 ちょっぴり異世界
総もくじ  3kaku_s_L.png ミルキィ☆ロール
総もくじ  3kaku_s_L.png 喫茶ペロリストシリーズ
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【これも一つの愛の形 第一話】へ
  • 【これも一つの愛の形 第三話】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 現在非公開コメン卜投稿不可です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【これも一つの愛の形 第一話】へ
  • 【これも一つの愛の形 第三話】へ