「短編集 ちょっぴり異世界」
風のように鳥のように

第17話 ナナ 6

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 幸せな時間だったと、それは私の感傷にしかすぎない。
 毎日のように通い砂浜で遊ぶのは、いたずらに魔女とナナを目立たせる行為だと知ったのは、ひと月もすぎたころだった。

 昼食後。
 いつものように菓子をくすねて馬を借り、魔女の家を目指した。
 しかし王都を離れ、もう少しで魔女の岬に出る場所で異変に気付いた。
 聞こえてくる音や声の異様さに馬を止める。
 戦のような騒がしさだった。

 よくないことが起こっている。
 それだけは確かだった。
 そっと馬首をめぐらせいつもの道から離れた。
 不安が胸をしめつけ、ザワザワとして落ち着かない。
 それでも簡単に魔女の家に近づいてはいけないと、理性が告げていた。
 岬の見える遠い場所から、そっと窺い見る。

 赤い炎が柱のように見えた。
 簡素だった魔女の家を、まがまがしい紅に染めている。
 ゴウゴウと炎の音まで聞こえるようだった。
 黒い煙が暴れ狂う竜のように、業火を連れて碧い空まで焦していた。

 囲んでいるのは軍隊だった。
 王家の紋章を掲げた旗が、海風にはためいていた。
 悪魔の使途を焼き尽くしたと、勝鬨が風に流れて聞こえてくる。
 私の大切な友人である魔女もナナも、悪しきものとして討伐されてしまったのだ。

 私には、何もできなかった。
 近づくことさえできなかった。
 衝撃が強すぎて涙もこぼれなかった。

 トボトボと家に帰り沈みこんだ気持ちのまま、ベッドにもぐりこんだ。
 いつのまにか眠っていたのだろう。
 目覚めると夜で、外は真っ暗だった。
 足を忍ばせて厨房に向かったとき、父の寝室の横を通った。
 その時もれて聞こえてきた言葉で、度重なる私の外出を不審に思い下男にあとをつけさせたと知った。
 岬の魔女と見たこともない色彩を持つ少女を、私を惑わす魔物と判断するのに時間はかからない。
 イルカは吉兆の印だが、思い通りに操るのは魔物の力。
 魔物には死の制裁を。
 その頃は自分の身の上を知らなかったが、国王が即時手持ちの軍を動かすほどの出来事だったのだ。

 二人を窮地に追い込んだのは、私自身。
 来てはならないと必ず口にした、魔女の言葉を思い出し胸に刺さった。
 二人の命を奪ったのは、私の愚かな行動と好奇心に他ならない。
 魔女とナナを想った。
 思い返すのが幸せな時間だっただけに、失った事実が痛かった。
 どんなに泣いてわびたとしても、きっと許されないだろう。
 大好きだった二人の平穏な暮らしを奪い去ったのは、私自身なのだから。

 一生かけてもつぐえない枷を、私はあのときから背負っている。
 だからこそ二人が、生きていてくれてよかったと思う。

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