「短編集 ちょっぴり異世界」
風のように鳥のように

第15話 ナナ4

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 少女は私を指さして、何か言った。
 私の知らない言葉だった。
 魔女は軽くうなずき、同じような響きを持つ言葉で返していた。
「ペレウス」
 私にわかったのは、私の名前だけだった。

「彼女は?」
 思っていたよりはるかに弱い声になって、自分でも驚いてしまった。
 知らず知らずのうちに緊張していたようだ。
 魔女は軽く首を横に振った。
「なにも覚えておらぬよ。この国の者ではない」

 少女に二言三言話かけると、魔女は私を連れて寝室をあとにした。
 扉を閉める時に振り向くと、少女は身体を横たえて布団をかぶるところだった。
 今まで見たことのない瞳と髪の色だが、それでも仕草も動きも普通の人間と何も変わらなかった。
 どこか儚く頼りなげで、か細い存在に思えて胸がつまる気がした。

「どこの国の子ですか?」
 さて、と魔女は窓の外へと視線を投げた。
「言葉はあれども、記憶はなし。されど、思い当たる場所はあるよ」
 それは意外な言葉で、私は気持ちが浮き立った。
「それはどこですか?」

「聞いて、なんとする?」
「いつか、行ってみたいです」

 さて、と珍しく歯切れの悪い調子で、魔女は肩をすくめた。
「私の知っている土地の者ではないよ。言葉は六の大陸の東南に近いが、私の知らぬ場所……おそらくは七の大陸」
 簡単ではないよ、とポツンといった。
「ペレウスよ、いつか選ぶ日が来るだろう。安定した不自由か、先の見えない自由か。選択は命と等しい。それでも望むかえ?」
「冒険はなんでも命がけでは?」
「命をかけるか……これも縁なれば、選択肢を与えるのが我の使命かもしれぬ」

 魔女が何を思い悩んでいるのかわからなかったけれど、私の気持ちは一気にはずんでしまった。
 七の大陸。
 そこが彼女の故郷かもしれない。
 未知の世界への接点が、すぐ目の前にある。
 それも生きた人間の姿を持って、直に触れることができるのだ。


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