「短編集 ちょっぴり異世界」
風のように鳥のように

第4話 邂逅4

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 あまりに口調がさみしげだったので、思わず聞き返す。
 記憶の引き出しを探してみても、少年に該当する者はいない。
 支配者階級の者は記憶に新しいし、幼少時の豪商関係者でもない。
 それに港には出入りしたことがないから、旅人の知り合いなどできるはずもなかった。

 戸惑うばかりの私の様子に、ひっそりと少年は笑った。
 しばらくゴブレットの中身を揺らして、言葉を探しているようだった。
 私は少年を見つめるばかりだったが、少年との間に落ちるのはいくつもの想いが込められた沈黙だけ。
 それが意味するものを呼吸から読み取ろうとしていた時、少年は勢いよく酒を飲みほした。

「岬の魔女からの伝言だ」
 ふいに立ちあがると、フフッと少年は笑った。
「ペレウスよ、誓いを果たすため後日お伺いする。物に満たされた不自由を選ぶか、先の見えない自由を選ぶか、約束通りそなたに選択肢を与えよう」
 魔女の語りをまねているのかおごそかな口調で、ここまで言えば思い出すだろう? と態度で示していた。
「確かに伝えたからね。ばあさんでもまだまだモウロクしてないよ。君が覚えている、覚えていないにかかわらず、約束にはこだわるのが悪い癖なんだ」

 岬の魔女。
 雷撃に打たれたように、私は衝撃を受けて動けなかった。
 岬の魔女は、痛い想い出だ。
 取り返しのつかないことをしたと、悔いるばかりだったのに。
 生きていたのか。

 押し黙る私を気にせず、少年は皮の財布から数枚の銀貨を出す。
「足りなかったら、後はよろしく」
 コインを滑らすように私の前に置いたのは、想像よりも繊細な指先だった。
 この手。この指は少年のものではない。
 間違いなく、少女だ。
 服装やキビキビとした快活な動きに騙されていたけれど、男装の少女なのだ。

 まさかと思った。
 湧き上がってくる過去の記憶。
 岬の魔女と共に、死んだはずの少女を思い出す。

「君はもしかして……」
 そっと細い指先が、私の唇を押さえた。
 軽く身をよせた瞬間に、隠れていた面差しが見える。
 名を呼ぶことを許さないと命じる、強い眼差し射ぬかれた。
 角度によってオパールのようにきらめく不思議な色をした瞳は記憶にある。

 間違いない、ナナだ。
 何一つ持たなかった彼女に、私が名前を贈った。
 生きていたんだ。
 岬の魔女と一緒に、死んだとばかり思っていた。


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