「短編集 ちょっぴり異世界」
風のように鳥のように

第一話 邂逅 1

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 夜の帳が降りてゆく。
 しだいに濃くなっていく闇に、白い街並みがたいまつによって浮き上がり始める。
 夜のない輝く街の噂に相応しく都市そのものが光を放ち、闇を押し返すほどまぶしかった。
 松明が照らす街路の人通りは絶えることがなく、夜明けまでにぎわいも続く。
 故郷だという感傷を差し置いても、美しい場所だと心から思う。
 目の前にある夜の華やかさは幻想的だが、昼はさらに鮮やかな姿をさらして都市全体が輝きを増す。
 強い陽光を跳ね返す白い石でできた街並みと、エメラルドグリーンの鮮やかな海のコントラストは宝石の輝きにたとえられる。

 海に面した穏やかな小国、スズリアナ。
 私の生まれ育った国だ。
 交易によってもたらされている小国に不似合いなほどの豊かさは、巨大な帝国の王都と大差ないらしい。
 このにぎわいを見るのも最後かもしれないと思いながら、私は手の中のゴブレットを見つめた。

 立場だけは第二王子としてきらびやかだが、しょせんは庶子の生まれ。
 十歳を過ぎるまで、自分の血筋すら知らなかった望まれぬ者だ。
 同じ歳の後継の御子が病弱であったために、予備として呼び寄せられただけ。
 預けられた豪商の縁者だと、王宮からの迎えが来るまで信じていた。
 あの日、思い描いていた未来が一瞬で崩れ去った。
 商人になり世界の果てにまで旅をしたいという、子供のころからの私の夢はついえたのだ。

 神の御心が生い立ちを決めるので、不服を申し立ててはならないとわかっている。
 それに王宮での暮らしは、消して悪いものではなかった。
 贅を尽くした食卓に、豪奢な衣服、世界の知恵を集めた教育。
 スズリアナ国は交易を生業としているからこそ、世界屈指と断言できるほど集まる知識も豊富なのだ。
 私が必要ないほど家督を継ぐべき王子が健やかに成長したことも、安定した治世には必要なことだろう。

 フッと短いため息を一つこぼし、遠く視線を飛ばした。
 銀盆のような丸い月がスズリアナのまぶしさにも負けず、海上を鮮やかに照らしている。
 美しいこの風景を見るのも、今日が最後だろう。
 いつか別の国へと旅立ちたいという私の夢も、望まぬ形ではあるが叶うから。

 そう、喜ばしいことなのだ。
 幸福とも呼べないが、私は不幸でもないはず。


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