短編集 恋の卵

風花 4

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 戦が終わったのは、この春だったようです、
 遠い北の地で、最後の戦いが行われたと噂で聞きました。
 もしかしてと思う私をあざ笑うように、夏が過ぎ、秋がすぎ、とうとう冬が訪れました。

 私には、あの人の無事を知る手だてすらありません。
 それどころか、あの人の名前も知らないのです。
 知っているのは、別れの日に交わした、ほんのわずかな指先の温もりだけ。
 もとより、確かな約束などしていないのです。
 お武家さまの言葉をそのまま信じるなど、愚か者だと笑われるだけだとわかっていますので、誰にも言えない密やかな想いなのです。

 それでも。
 それでも無事ならば、あの人はこの神社に再び現れるのではないかしら?

 そんな儚い期待を胸に、私は毎日神社に続く石段を上っているのです。
 鈴を鳴らし、手を合わせ、日々の感謝を捧げ……別れたあの日からは、あの人の無事をそっと神様にお願いしています。
 あの人にかける言葉は「御武運を」ですが、やはり私が神様に願うなら「あの人が無事に志を果たせますように」相応しいですから。

 今年、初めての風花を見たせいでしょうか?
 鮮やかにあの人のことを思い出してしまい、いつもよりも一心に手を合わせていたようです。
 ふうっと過ぎた風の冷たさに思わず身をふるわせました。
 指先がすっかり凍えていました。

 軽くこすり合わせながら石段に向かって歩きかけ、今日はやけにあの人のことばかり思い出すと苦笑するばかりです。
 風花のせいだとはわかっているのです。
 白く世界を染め上げる結晶の冷たさが、想い出の中でぬくもりを放っているから。
 何気なく、別れた日にあの人が立っていた場所に目をやり。
 私は思わず息を飲みました。
 
 空を見ている人がいました。
 見なれぬ洋装姿でしたが、そのすっと伸びた背筋には覚えがありました。
 腰にある刀が、あの人の差していた鞘と同じ色をしていました。

 歩み寄ることも、声をかけることもできませんでした。
 その瞬間に消えてしまうのではないかと恐ろしくて、見つめることしかできませんでした。


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~ Comment ~

NoTitle 

ゎ・・ ドキドキ。

ぅぅ・・ そわそわ。

Re: NoTitle 

このところ停滞気味だった小説だけど、久しぶりのドキドキを書いたよ~思い切り趣味に走ってますw
明日、完結するからね♪
気にいってもらえるといいなぁ(//▽//)♥
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