短編集 ちょっぴり異世界

言祝ぎを 2

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 とにかく、私は変わった子供だったそうです。
 問題のあった部分は、私自身はちっとも覚えていません。
 忘れたのか、記憶からあえて消去したのか、それはわかりません。
 ただ、確かなことは、他の兄弟ともちょっと違っていた。
 男女の差もあると思いますが、私は不思議な子供だったらしいのです。

 田舎でしたから、田や畑はたくさんありました。
 休憩のお茶などを運ぶのも子供の役目で、曽祖母に頼まれてテクテクと山道を歩きます。
 家を出て霜の中、白菜を収穫している畑についたとき。
 大きな犬を連れていたそうです。
 首輪は付けているものの、子供が背中に乗れるほど大きな犬。
 家族や手伝いに来ていた人たちが、思わずのけぞるぐらいのきつい顔をした、日本犬だったとか。
 嬉しそうな顔で「お友達」などと、そんな恐ろしげな犬を紹介するものですから、大人たちは平静を装っても内心穏やかではない。
 私が襲われるのではないか、それよりも大人にもいつ飛びかかってくるのかもわからない、非常に緊迫した状況に陥りました。

 母はそっと抜け出すと家まで飛んで帰って、父に訳を話してその犬の素姓を確かめるのに自宅は大騒ぎ。
 父は狩猟免許も持ち害獣駆除も担う一員ですから、首輪がある犬の情報ならすぐに手に入ります。
 駆除などで関わっている地区は違うけれど、顔は知っている人の持ち犬だと、すぐに判明。
 家出犬だったらしいです。
 現在飼っている犬の引退する歳が近づいて、新しい犬を三匹ほど仕込むのに飼い始めたばかり。
 子犬と一緒にいることでここは自分の居場所ではないと思ったらしく、狩猟に出た日にそのまま山奥に消えてしまったから、飼い主さんも捜していたとか。

 その間、私は犬の背中に乗って、畑の隅で遊んでいたそうです。
 犬も耳を引っ張ったり、尻尾をいじられても、されるがままになっていて気持ち良さそうにしている。
 ただ、迎えが来ても帰らずにプイと無視して、なぜか私にだけくっついていた。
 無理強いしようとするとひどく威嚇するので、犬は我が家に居候です。
 土間の隅でずーっと私のお守りをしながら三日ほどうちにいたけれど、ある日、フイッと姿を消したそうです。
 犬はどうしたの? と私に聞いたら、普通に答えたそうです。
「バイバイだって。自分のおうちに帰るから、ありがとうって。なんだかよくわからないけど、ご面倒をおかけしましたって他の人に言っといてくれって」
 子供の言うことですから話半分に聞いて、犬の飼い主にうちからいなくなったことを連絡しました。
 そうしたら、相手の人は非常に驚いたそうです。
 その犬、自分から飼い主さんのところに戻っていたそうです。
 
 一度だけではありません。
 家出をしている別の犬やら猫やら、年に一度はつれてくる。
 田舎ですから調べれば素性もわかるので、その家出理由もなんとなくわかってしまう。
 お友達だと言い張る私と何やら楽しげに遊んで、数日で彼らは去っていく。
 私はその居候たちに教わったと、知らないはずのことばかり大人に話す。
 作り話とは思えぬようなことばかりなので、大人たちも困りモノだと悩みます。
 ただ、歳をとって行き先に悩んだモノばかりで素性も判明するものですから、むげに追い出す訳にもいかず、これも縁かと容認するしかない。
 立ち去る前に、彼らは必ず「ご面倒をおかけしました」と私の口から伝えてくれと、家族へとお礼の言葉を残していくので、これも功徳の一つと納得したとかしないとか。

 私自身にそのような記憶はありませんが、そこだけ綺麗に切り取られている部分は数多くあります。
 それは全部が、不思議に繋がる体験です。
 私自身は、まるで覚えていない。
 二十歳を越えてからのことすら、あいまいなのです。

 ただ、曽祖母に戒められていたことは覚えています。
「人の飼っているモノはいいけれど、野のモノとは話してはいけないよ。悪いモノに当たると、こっちに帰ってこれなくなるからね」
 でも幼い子供ですから、ちょいちょいと顔を出す野のモノに「お話ししちゃいけないんだって」などと声をかけているので、いつも飼い犬を連れるように言われました。
 そのおかげか、悪いモノには当たらなかったのでしょう。
 犬も猫も大切に飼ってやれば、力を持つ護りモノになるそうです。
 またいつか犬を飼ってみたいものだと、そんな昔を思い出したりするのです。



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