短編集 ちょっぴり異世界

永遠に覚めない夢を見る・後編 

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 僕はすっかり大人になってしまったけれど、彼女は変わらない。
 死蝋というのだと、後から知った。
 人の死体が腐敗も白骨化もせず、蝋化するなんてとても珍しいことだ。

 あれから何度も何度もここに訪れて、彼女を見続けている。
 まるで恋人との逢瀬みたいだと、揶揄されたこともある。
 最初は否定していたけれど、最近では返す言葉を失う。
 そうかもしれないと、そう思い始めているから。

 彼女が死んでいることは理解している。
 だけど、気持ちがざわめく。
 彼女と対面するたび、胸の奥にさざ波が立つから。
 なぜ惹かれるのか理由はわからない。
 だけど彼女を見ていると、ほんの少しだけ物悲しい気持ちで泣きたくなるんだ。

 今なら博物館にある解説も読めるし、彼女について調べたけれどわからないことばかりだった。
 死亡した日時はわかるけれどなぜか記録が欠けていて、博物館に収容された経緯などはわかっていない。
 埋葬すらされず、多くの人の目に触れることになるとは、きっと彼女自身は想像もしていなかっただろう。

 彼女の名前は宮田美咲。
 万磐寺で変死体で発見された。
 他殺なのか自殺なのか、それすらもわからない。
 あまりに美しい死蝋なので、普通の司法解剖とは違う方法をとったのだろうか。
 通常の検死法をとらず、切り刻まなかったらしい。
 詳しいことは守秘義務もあるらしく全部「らしい」になって、憶測でしかないのだけれどここにいる彼女を見る限り解剖の痕は見られない。
 それとも服の下には、死後つけられた傷跡が残っているのだろうか?

 僕には想像することしかできないけれど、傷跡のないつやつやした体のままであればいいと、そっと祈った。
 生前に負った傷だけでも痛そうなのに、死後にまで大きな傷を負ってしまうなんて、永遠に治らない傷を抱えこむだけじゃないか。

 しっとりとした冷たい空気の中、彼女は最期にどんな夢を見たのだろう?
 願わくば、幸せなものでありますように。

 穏やかな表情だから、哀しい想いではなかったはずだ。
 ただの感傷交じりの願望かもしれないけど。

 僕が老いても。
 死して朽ち果てようとも。
 彼女はここにいる。

 そして、永遠に覚めない夢を見るんだ…… 



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UP時から掲載していた愚痴を消去いたしました。
誰になにを言われたわけでもありませんが、やっぱり他人の悪口になってしまいますし、なんだか人として負けちゃう気がするので。
目撃した人は不快な思いをさせて申し訳ありませんでした。
うまく他人と付き合うことはできませんが、いろいろと思い、泣いてしまうぐらい、自分以外の人に気持ちを向けることは、それほど多くないでしょうね。
心も、死も、見つめれば見つめるほど身近なもので、それだけに尊い気がします。
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