短編集 ふんわりと

花の種をまきましょう 【テーマ:贈り物】

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 トランク一つだけを手にして、私はスタスタと丘を登ります。
 引越しにしては小さな荷物ですが、これが私の全てなのです。

 その家は、丘の上にありました。
 白い壁に赤い屋根で、まるでおとぎ話に出てくるような、可愛らしい家です。
 人が住まなくなって久しいと聞いていたのに、管理していた人の手入れがよかったのでしょう。
 小さくて可愛らしい家だけではなく、家の周りを囲む腰の高さ程度の木の柵もそれほど痛んではいません。
 
 今日からここが私の家になるのです。

 遠くから見た時は緑の美しい丘に見えたけれど、こうして近づくと小石が散らばり雑草の生い茂る荒れた土地のようです。
 扉の前で今まで歩いてきた道を振り返り、自分の家になる土地の広さに驚きました。
 私にまかされたのは目に映る全てですから、少し途方にくれました。
 それでも海の見える場所から引っ越してきたので、緑のある情景や丘の先に見える森は、新鮮な上に穏やかで心地よい風景でした。

 再び赤い屋根の家に向き直ります。
 小さい家ですが、一人で住むには大きいかもしれません。
 近づいても可愛らしくて、手入れをしながら大切に使われていたのがわかります。
 これほど大事にしていた家を手放すなど、きっと辛かったことでしょう。
 そんな感慨を抱いてしまうような、素敵な家です。
 門から玄関に続くレンガ道も、どうやら前の住人の手作りのようです。
 そして、ウッドデッキにはテーブルといすが用意されていました。
 
 首から下げた金色の鍵で扉を開けました。
 キィィと小さなきしみをあげて、木の重い扉は開きました。
 一歩、中に入りました。

「お邪魔します」
 ついついそう言ってしまい、苦笑してしました。
 だって、ここは私の家になるのです。
「ただいま」
 言いなおしたけれどおかしくなってきました。

 だって、何を言っても私一人なのです。
 だけど、残されたままになっているテーブルや棚の陰から、ヒョイと小人が顔を出しても不思議ではない家なので、独りごとには思えません。
 
「よろしく」
 なんて見えない小人に言ってみたら、なんだか楽しくなってきました。
 トランクを開けて、少ない荷物を広げます。
 シャツの下になっていた封筒が、ヒラリと床に落ちました。

 別れの挨拶をした時に、海辺に住む友人にもらったものです。
 新しく住む場所で開けろと言われたので、ずっとトランクに入れたままになっていたのでした。

 拾い上げ、封を切りました。
 小さな紙切れが一枚と、丁寧に包まれた種が何種類も入っていました。
 透明な袋に小分けされ、育て方は書いてあります。
 でも、それだけなのです。
 なんの種か、見ただけではわかりません。
 
 一緒に入っていた紙切れには、友人の住所と名前。
 それだけしか書いていないのです。

 これは、育ててみろということでしょうか?
 私は生き物の世話をすることが苦手なのです。
 新手の嫌がらせかもしれないと、思わず眉根を寄せてしまいます。

 これは、もしかして。
 やってみろという挑戦状かもしれません。

 ええ、あの人の考えそうなことです。
 本当にどうしようもない人。
 ニヤリと笑う、陽に焼けた顔が浮かびます。
 それでも。
 できるもんかと、バカにされるのは腹立たしい。

 私はこれでも負けず嫌いなのです。
 やっぱり枯らしたかなんて、絶対に言わせないから。
 見てらっしゃいと腕まくりするのです。

 石を拾い、土地を耕します。
 種をまき、水をやり、育ててみましょう。

 何の花が咲くかはわかりません。
 それでも、たくさんの種類の花の種。
 小さくても、大きくても、綺麗な花に違いありません。

 最初は押し花にして、手紙を出してみるつもりです。
 次は、花束を届けましょう。
 あの人が驚くほど頻繁に、美しい花を贈るのです。

 そして遠くない未来。
 あなたの花で、この丘を埋め尽くします。
 ここが私の家だと紹介するために、招待状を届けるのです。

 もちろん、今はただの願望でしかないけれどね。
 まいったと言わせるから、待ってなさい。
 私はいつでも有言実行なのです。
 ええ、簡単には負けませんから。

 それに、育て方は親切にも書いてあります。
 大切に扱えば、芽吹くはず。
 あなたも私も笑顔になるための、最初の一歩を。

 さぁ、花の種をまきましょう!


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   拍手お礼 11月5日

最近、小説データの整理をしています。
データの多さに、うんざりしちゃいそうです。
同じ作品でも何パターンも試すせいか、どれが書きかけのものなのか、すでに形になっているものなのか、わからなくなっていたりします(汗)
そんな中、ブログにUPしていない作品を発見。
すっかりUPしている気になっていました;;

昨年、新しい一歩を踏み出そうとして書いた作品です。
そう言えば、風の顎のときも自分なりの再スタートを決心していたような;;

いつも、つまづいてしまいます。
だけど、何度も何度もこりずに再スタート。
毎回のように生きにくい自分を自覚して、自分自身との付き合い方も学んでいる気がします。

まさに七転び八起き。
決意としては、もう二度と転ばないぜw

なんてことを思う発掘作品なのです。
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