短編集 ちょっぴり異世界

はじまりの終わり 最終話

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「行くぞ」
 そう言ってヒョイとカティアを腕に抱いた途端。
「無礼者!」
 パシンと顔をはたかれた。

 ああもう、とグリフォンは口の中でぼやく。
 これだから姫育ちは嫌なんだと、心の中で考えられるだけの悪態を並べる。
 痛くはないが嬉しくもない。
 泣いたりわめいたりするうるさい子供は苦手だが、そっちのほうが百倍マシな気になってきた。
 説得するにも時間がかかるうえに、言い合いに負ければ使われる側になりそうだ。
 子供のくせに口は達者だし、国が滅びたというのに自分の身の振り方を決める図太さもある。
 手のかかる予感満載で、面倒くせ~と心の中でぼやく。

「ど~でもいいが、夜明けまでには国境を越えたいんだよ。お嬢の脚じゃ絶対にムリだろうが。おとなしく捕まっとけ」
「それならそうと言ってくださればよいでしょう? わたくしに気軽に触れてよいのは、両親と侍女だけですわ」
 本気で怒っている調子のカティアに、本当に面倒くせぇと心の中でぼやく。
「なら、今から俺もその中に入れといてくれ。いちいち殴られちゃ割に合わん」
「はじめに説明すればいいでしょう? それにお嬢ってなんですの? おかしな物言いはやめて下さらない?」
 グリフォンは眉根を寄せる。面倒なだけでなくうるさいときた。
 どこからどう見てもたち振る舞いから、上流階級の出身だと一目でわかる。
 姫様と呼ぶ訳にはいかないのに育ちの良さは隠せないので、お嬢と呼ぶことの何が悪いのかわからない。
 妙に隠すよりは、いいところのお嬢様を引き取ったと言いきれば悪目立ちしないのに、どうやらお気に召さないらしい。

 親切丁寧に説明してもいいが、弁舌では勝てない気がするのであっさり思考を変えた。
「話は後だ。ここにはもう帰ってこれんかもしれんぞ。別れは済んだか?」

 ええ、と怒りの矛先を収めて、カティアはうなずいた。
 確かにのんびりとケンカをしている場合ではなかった。
 バカな言いあいは気を紛らわせるにはちょうどいいけれど、今この瞬間にはあまり相応しくない。
 ここはまだ、安全な場所ではないのだ。
 ただ、グリフォンの醸し出す雰囲気が無敵に感じられ、妙に安心しているけれど。

 まだまだ危険の中にいるはず。
 そんな中での故郷とのこころゆくまでの別れ。
 そのための時間をグリフォンはとってくれたのだ。
 この男の本質は優しいとカティアは思う。
「ありがとう。貴方のおかげで踏ん切りがつきましたわ。まいりましょう」

 そうか、とだけ言って、グリフォンは走りだした。
 左腕にカティアを抱いたままでも、風のように速い。
 風景が飛び去るように後方に流れて消えていく。
 あっという間に見なれた街も森も道も見えなくなる。
 うっそうと木々の生い茂った森の中を、疾風の速度で縫うように走り抜けていく。

 サヨナラ、とカティアは心の中でつぶやいた。
 サヨナラ、私の故郷。

 過ぎ去る情景に、押し寄せる風の冷たさに、カティアは身を震わせてグリフォンの首にしがみついた。

 暖かい。
 生きている温度だ。
 今感じることのできるぬくもりは、正体不明のこの男だけ。
 それでも、グリフォンは本当に暖かかった。

 不意にこみ上げてきた涙を、必死で飲み込んだ。
 よく知らない相手に頼るしかない身の上が、ひどく心細くなったのだ。
 泣いたりしないと自分に言い聞かせる。
 不安になる必要などないのだ。
 この人はお父様が信頼する相手。
 それと同じだけの信頼を預けなくては、この先はやっていけない。

 しがみつく腕に、ギュッと力を込める。
 この人はきっと、目の前に火竜が現れてもカティアを離したりしないだろう。
 そんな確信が湧く、暖かさを持っているから。
 今は頼るしかないこの男に、頼られるほどの存在になりたかった。
 自分を護っている体温を感じながら、カティアは誓った。

 いつか、この地へ還ってくると。
 その日まで、何があってもあきらめはしない。
 自らの足で歩き、自分の命を生きてみせる。

 いつの日か、還る日まで。


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友達とのサークル企画なので、明確にはしていませんがグリフォンは「英雄のしつけかた」のサガンです。
スカーフェイスと呼ばれる前は、グリフォンとしてブイブイ魔物退治の傭兵をやってました。
カティアさんを仕込むには、有名すぎる名前だといろんな難が出てくるので、スカーフェイスと名前を変えるのです。
そして、実はまだ10代……ガラルドさんと出会う前だったりします。
西のサラディン国では10歳で成人して自分の身の振り方を決めるので、10代でもおっさんくさく(大人びて)しまいます。
中身はまだ少年臭さがある時期なので、まだ短気ですw

半顔を覆う布をとった直後、カティアさんとの会話。
「まぁ! 父はムリがありません? 兄にしか見えませんわよ?」
「明らかに人種が違うだろうが(怒) 貴様は養女だ、その辺で拾ってきた養女!」
「その辺……説得力に欠けますわね」
「……(本当にめんどくさい奴を預かってしまった;;)」

……たぶん、明確な続きはない。うん、しっかり続けると長編になるので、ためらっちゃう(^_^;)
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~ Comment ~

NoTitle 

確かにあまりにおっさんくさい10代だww
でもそれがまたいいのよね~ぇぇ♪

あ~♪
「英雄のしつけかた」の登場人物達の若かりし頃のお話も
こんな風に短編として聞かせてもらえるのは
とっても楽しいわ^^

Re: NoTitle 

いつもありがとう(*^_^*)♪

嬉しいコメントありがとう❤
英雄のしつけ方の登場人物はみんな好きなので、ときどきこうやって書きたいな~と思ってます♪
というのも、時間軸に合わせて出来事を追っていくより、この世界はその人ごとのエピソードを見ていきたいのです☆
だって、みんな個性的なんだもの❤ ←個々に書き分けできているかは謎;;
いっぱい話を膨らませてるけど、膨らみすぎて出てこない(苦笑)
カティアさんが将来暮らす場所も、決まってるしね(^^>

人ぷつエピソードが集まっていって、楽しい世界になるといいなぁ♪

NoTitle 

まさかのサガン!
カティアの生き方、すっごく気になりますっ><
英雄のしつけ方の登場人物の話、
またあると良いなぁなんて淡い期待を抱いております。
英雄のしつけ方のキャラクター大好きです!
執筆、お疲れ様でした^^

Re: NoTitle 

なぜここでサガン?! と自分でも思ったりして(笑)
英雄のしつけ方の世界、自分でも気に入っていて、人それぞれエピソードがたくさんあるんです♪
またまとまれば、ちょこっとづつ顔を出す予定ですから、おつきあいください(^o^)b
デュランのお話もぼんやり浮かびかけているので、気力と時間がほしい~夏は兄貴の季節かしらw(>▽<)ノシ

いつもモチベーションアップできるコメントありがとうございます( 〃∇〃)b ォヶ♪
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