短編集 ちょっぴり異世界

はじまりの終わり 4

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 グリフォンは絶句した。
 その通りだった。
 そして、神殿に放り込んだら何をするかも予想がついた。
 この娘、絶対に脱走する。
 冗談じゃねぇと思わずつぶやく。

 思えば最初から、言動が姫らしくなかった。
 城が火竜に囲まれた時に「逃げるぞ」と言って背中に担いだら「無礼者!」と拳で反撃してきた娘だ。
 見事なまでの正拳突きで、確実に顎を狙っていた。
 炎の海を突っ切った時も、屍の山を越えた時も、泣くことも怯えることもなかった。
 かすかに身体は震えはていたものの、無言のまま耐えていた。
 身分は姫でも、とんだジャジャ馬なのは間違いない。
 妙な度胸と行動力があるのは、その目を見ただけでわかる。

 しかし、威勢は良くてもまだまだ十歳の子供。王宮の奥宮知らない深層の姫君が、一般常識を何も知らぬまま市井に出て無事に生きていける訳がない。
 想像だけでうすら寒くなった。
 いくら無事に神殿まで送り届けたとしても、それでは意味がない。
 なにしろグリフォンは期限を区切らなかったのだから、我が力が及ぶ限りカティアを生かすと宣言している。
 剣の誓約は一生ついて回るのだ。
 剣の誓約を違えれば、魂ごと砕け散るだろう。
 命のやり取りで死ぬのはかまわないが、そんなくだらない理由で黄泉路に入りたくはない。

 グリフォンの嫌な想像を肯定するように、フフッとカティアは上目使いに微笑んだ。
「このままですとあなたはお父様との誓約を違えることになりますわね。お気の毒さま」
 剣の誓約についてもよく知っている物言いに、グリフォンは、このガキ、と心の中でつぶやく。
「脅す気か?」
「あら、気の持ちようででしょ? これでもわたくし、努力家でしてよ?」

 ウフフ、と笑うカティアの表情はしてやったりと言いたげで、幼くてもすでに色香を漂わせていた。あと五年もすれば「お願い」の言葉だけでコロッと騙される男も現れそうだ。
 これだから女は……と胸の中でごちる。
 王国の騎士団にも腕がたつ者が多いのに、姫の行く末をわざわざグリフォンに託したことから嫌な予感はしていた。
 少々利発だが甘やかして育てた姫だ~なんて自慢していた意味がやっとわかった。
 甘やかしてわがままの意味が想像とはまるで違い、ここまで厄介な子供だとは思わなかった。
 やはりというべきか、最初の予感はおおむね当たるらしい。

「ひとつ聞くが、お前に何ができる? 着替え一つ、自分の手ではできんだろう?」
 最後の希望のように突っ込んでみる。
 傭兵稼業と変わらないことを生業としているので、最低限の身支度もできない人間は連れ歩けなるわけがない。
 カティアはあっさりと、今は身支度一つ自力でできませんと胸を張った。
 しょせんは奥宮の侍女付きの生活を送ってきた、生粋の姫育ちである。

「何事もやってみなければわかりませんわ。わたくしに身支度を教えて下されば、問題は即時解決します」
 女の着替えなど知らん、と仏頂面になったグリフォンに、父上同様にわたくしのことも対等に扱っていただけて嬉しいですわとカティアは返す。
「年齢だけで侮られるのは不快ですもの」

 ああ言えばこう言う。その見本のような会話になっていた。

 チッとグリフォンは舌打ちした。
 最初から子供扱いしておけばこんな面倒なことにはならなかったと、いまさら気がついたのだ。
「俺の生業である剣は、おまえにむかん」
「あなたは剣しか知りませんの? 本当に? お父様は詳しいことは教えて下さらなかったけれど、違いますでしょう? わたくしを預けるぐらいですもの!」

 そのとおりである。
 双剣の技一つで生き延びれるほど甘い暮らしはしていない。
 生き残るため、剣を持たない技もたくさんある。
 たとえば今、カティアが繰り広げているような、相手を打ち負かすための弁舌に代表されるように、力に頼らない技が。
 弁舌に優れた者は総じて魔力の扱いもうまくなる。
 双剣ほどではないがそうした多彩な技を、退魔を生業とする故にグリフォンも知っていた。


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~ Comment ~

NoTitle 

ヌォ!! カティアが、魔力使いに?!

毎晩楽しく読ませてもらってるよぉ♪
なかなかコメント残せないでごめんょぉ(>_<)

あれ以来、倒れてしまうほどの酷いめまいはおこしてないよー^^
ただ・・めっさ風邪っぴき;;
あと30分で勤務時間は終わるんだけど
なかなか辛い(;´Д`)

Re: NoTitle 

akoさん、おはです~☀
コメントはできるときで大丈夫(ノ▽ノ)♥

実はこのお話、連載の第一回って感じで終わるのです。
カティアがなにになるかまでは書いてないので、続きは気まぐれになるという(^^;;

風邪ひきなの? この時期はなかなか治らないよね(汗)
やっぱり良く寝てよく食べて、まるくなってコロコロしなくては!←オイ
ゆっくりできないのが辛いよところだね;;
お大事に☆
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