短編集 ちょっぴり異世界

はじまりの終わり 3

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 えらく気が強いな、と思いながらグリフォンはカティアを見ていた。
 この姫は嘆きも悲しみもしない。
 現状を受け入れようとあがきながら、前を見ている強い目をしていた。
 まさか、自分自身の価値を目踏みされているとは思ってもいなかったが。

「行くぞ」
「どこへ、ですの?」
「西国の神殿へ。そこならばお前も衣食住に困らず暮らせる」
 やはりそうなのだとカティアは思った。
 西国の国主は神殿を治める巫女であることも手伝って、神を敬わない国の干渉を拒んでいる。幸いと言ってはなんだが、地理的には離れていても森の女神を崇拝するカティアの国とは友好関係を結んでいた。
 西国は神と魔が共存する魔法王国でもあるから、亡命者がいるとわかっていても外部からは一切手出しできないのだ。

「行きません」
 キッパリとカティアは言い放った。
 は? とグリフォンは驚いて片眉をあげた。
 内心、勘弁してくれと思っていた。
 泣きわめかれるのも迷惑だが、子供のわがままはもっと迷惑だ。
 もう少し付け加えるならば、女の機嫌をとるよりは魔物の巣を討伐に出る方が何倍も気楽だと言いきるほど、心の機微を読んだり駆け引きすることを煩わしく思う性格だったりする。
 もちろん交渉も駆け引きも必要な時はやるし、できない訳ではない。と言うかそれ抜きでは生きていけないので不得手ではないが、本音としては面倒だ。
 暗闇の中でも夜目が聞くので、やる気満々のカティアが女の表情をしているのまで見てとれる。

「神殿へは行きません。出ることすら叶わなくなると聞きますわ」
「巫女として引き留められるほどの能力は、おまえにはないさ」
 この話はここで終了だと言いたげに手を振って話を区切ろうとしたが、カティアはそれを許さなかった。
「巫女になれなくとも、一度入ると簡単に出られなくなりますわ。それに、あなたの行こうとする神殿が祀っているのは、わたくしの神ではありません」
 西の国が祀っているのは冥暗の神と陽月の神である。
 森の女神とは信仰の源が違う。

 これだから女は面倒なんだ、とグリフォンは小さくぼやいた。
 幼くても弁が立つ。
 気が強いから、なおさら引くことを知らない。
 睨みつけても怯えない気の強さと弁の立つ頭の回転の速さは父譲りだ。
 幼くして頭でっかちになると、情には疎くなる。
 余計なこととは思いつつも、こいつは一生嫁には行けないな、と小さくぼやいた。

「なにかおっしゃいまして?」
 聞き捨てならないと言いたげな眼差しに、意外と耳がいいとグリフォンは思いながら、適当に言いくるめようとする。
 幼い姿と実年齢に騙されていたが、頭の回転が早くすでに大人びた策を弄しているので完全に出遅れている気はしたが、ハイハイとうなずく訳にはいかない。

「いや、まぁでも、王族が身を寄せるのは神殿と相場が決まっている。俺がどこの誰か知っているお前の父が生きているなら、神殿で待ってさえいれば必ず会えるぞ」
「生きていなければ?」
「少なくとも衣食住に不自由はせん」
 それが一番重要だと言い放つ。
 生きてさえいればなんとでもなる。
「神殿はお父様の生死など、調べてはくれませんわ。ただ待つのは嫌です」
 正論すぎる正論に、グリフォンは言葉に詰まった。
 神殿は亡命者を保護しても、その身内にまではかかわらない。
 相手が誰であっても。
 わずかな手違いで違う神殿に身内がかくまわれたとしたら、そこで終わりだ。
 情報は一切外部に漏らさないので、隣町にいても存在を知らぬまま一生を終えることも考えられる。

 数瞬沈黙が落ちたが、グリフォンはハッとする。
 感心している場合ではないのだ。首の後ろが嫌な予感でチリチリする。
「……おい、妙なことを考えるなよ」
 亡命の手助けはするがそこから先は俺に責任はない、とグリフォンは言い切った。
「泣こうがわめこうが、神殿に放り込めば俺の借りは返せる。後は知ったことじゃない。そこから先は自己責任だ。国を無くした王族の居場所など、神殿の奥宮だけだぞ」
 釘を刺したつもりが、ふふ、とあでやかな微笑みに反撃される。
「あら、このまま神殿に行けば、わたくしがどうするかはおわかりでしょう? あなたは、わたくしをいつまで生かすと誓約しましたの? 神殿まで? いいえ、期限を区切らなかった。違いまして?」


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